こんにちは。
最近、暑くなってきたので、さっぱりしたものばかり食べて、
自然ダイエット状態になっている印度です(一カ月で2キロ減)
今回は久々の「名作探訪」です。
現在、DVDが絶賛発売中の『ジェット・パイロット』(1957)
解説書は私が担当しましたが、この映画、観れば観るほどに、
「早過ぎた傑作」ではないか、と思います。
この映画を製作したのは、アメリカの大富豪、ハワード・ヒューズ。
近年では『アビエイター』(2004)でも取り上げられたヒューズは、
あの映画でも描かれた通りに飛行機が大好きでした。
何しろ、自分で飛行機を操縦し、航空会社も経営し、航空映画を製作し、
史上最大の飛行機(マトモに飛ばなかったけど)まで作ってしまう入れ込みよう。
▼ヒューズが作った史上最大の飛行機(離陸も満足に出来ない失敗作)
当人が生きていた頃には、そういう言葉はありませんでしたが、
要するに「オタク」だったのです。
この人のオタク的資質は、1930年にプロデュース・監督した航空映画の古典
『地獄の天使』でも遺憾無く発揮されています。
飛行機大好きなヒューズは、第一次大戦時の空戦を再現するため、
金にあかせて飛行可能な機体を数十機も買い集めて実際に空戦を再現。
それに飽き足らず、ドイツの飛行船のイギリス空襲シーンはSFXで撮影、
更に部分的に当時はまだ珍しいカラー撮影まで敢行しています。
この間、起用された監督はヒューズの度重なる干渉に耐えきれずに次々と降板し、
結局ヒューズ自身が監督することに。
こうして完成した作品ですが、実際見てみれば一目瞭然。
ヒューズがこだわった飛行機の映像は素晴らしいものですが、ドラマはつけたし。
唐突に挿入されるカラー映像も意図不明です。
▼「地獄の天使」予告編
要するにヒューズが興味あったのは、
飛行機とSFXとカラー撮影、つまりメカとテクノロジーでした。
わかり易いと言えば、とてもわかり易い。
こんなに監督の意図が丸見えの映画も珍しいでしょう。
この『地獄の天使』は大ヒットしますが、予算(一説には四百万ドル以上!)をかけ過ぎて、
結局製作費を回収する事は出来なかったのです。
それから二十年余り後の1950年代、
航空機の世界にはジェット化の波が押し寄せてきていました。
▼世界初の実用ジェット戦闘機 メッサーシュミット Me262
この新しいトレンドを前に、航空オタのハートに火がついたヒューズは
「今度はジェット機だ!」
と新しい航空映画を作ろうと思い立ちます。
そして、第二次大戦中に軍需産業を通じて作った軍とのコネを活かして、
アメリカ空軍の全面協力を取り付けると、製作に入りました。
当時、陸軍から独立したばかりの空軍も、自身のパブリシティの必要性を感じていたのでしょう。
こうして『モロッコ』(1930)で知られる、
ジョセフ・スタンバーグを監督に迎えて撮影に入ります。
▼ジョセフ・フォン・スタンバーグ(晩年は仕事がなく、RKOで自分の服を洗濯していたとか)
しかし、上がってきたフッテージを見たヒューズは激怒。
「何だ!飛行機が全然カッコ良くないぞ!飛行機愛が足りない!」
結局、何人もの監督を集めて撮り直しを行い、更に編集にもこだわったために、
公開は当初の予定(1952年)よりも大幅に遅れて、1957年になりました。
『地獄の天使』の時と同様に、自分の好きな飛行機の映画ではこだわりを通したわけですが、
スタンバーグを降板させることなく、監督のクレジットもそのままにしたのは、
少しはヒューズも大人になったのでしょう。
こうして、ようやく公開されたのが『ジェット・パイロット』なのです。
ソ連から亡命してきた女性パイロットの監視役になった
アメリカ空軍のパイロットが、隠された陰謀に挑む
というストーリーだけ聞くと、さぞやハードなスパイ航空サスペンスなのか、と思うでしょう。
違います。
まず、冒頭のアラスカの米軍基地にソ連軍パイロットのアンナ(ジャネット・リー)が亡命してくるところから、
良くも悪くも期待を裏切る展開に。
▼ジャネット・リー演ずるアンナ・マラドーニャ中尉
亡命してきたアンナは、米空軍のシャノン大佐(ジョン・ウェイン)に取り調べを受けますが、
身体検査をすると自分から脱ぎ始めたものだから(スパイなので最初からサービス精神が過剰)
大佐は
「こら、こんなところで脱ぐんじゃない!」
とドキマギ。
このシーンで、脱ぎかけたセーターから
ちょこんと顔を覗かせながらニッコリするアンナが萌えます。
▼セーターを脱ぐジャネット・リー
このアンナ役にジャネット・リーを熱望したのはヒューズだといいますが、
この撮り方にはフェチなものを感じました。
そしてシャワーを浴びて
「あ、あつ?い?」
とか言っているアンナの声を聞いて、思わずニヤニヤする同僚に
「油断するな、これも共産主義者の手口だぞ」
とくぎを刺しながらも、まんざらでも無さそうなジョン・ウェインでした。
本編は最後までこの調子で、
アンナとシャノンとの間でソ連とアメリカのカルチャーギャップ・ギャグあり、
分厚いステーキを食べたアンナが
「あ?アメリカっていいわね!」
と言うアメリカ万歳!なシーンあり、
一応、女スパイであるアンナの正体が判明したり、
シャノンがソ連側の陰謀の裏をかいて偽装亡命をしたりするのですが、
全編ラブコメかラノベのようなムードです。
そんな微妙なドラマ部分に対して、素晴らしいのが航空機でした。
シャノンが乗る当時米空軍の第一線機である、
F-86セイバーが青空の中を急上昇や宙返りといった雄大な飛行を存分に見せてくれます。
この映画ほど、セイバーが魅力的に見える作品は多分無いでしょう。
中でも、特にヒューズらしさを感じるのは、シャノンとアンナが共にセイバーで飛ぶシーンです。
アンナとシャノンが徐々に心を通わせていき、
アンナの機がシャノンの機の頭上で背面飛行をするシーンや、
互いにバックを取りながら(撃墜位置につく)飛ぶシーンには、
飛行機の動きでキャラの微妙な感情を表現するという、
さしずめ日本で言うと『超時空要塞マクロス 愛おぼえていますか』(1984)みたいな演出を既に行っていました。
▼『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』予告編
この調子で、1950年代初頭の米空軍の航空機がこれでもか!と登場し、
前天候戦闘機F-89スコーピオンやB-50(B29の改良型)、
そして史上初の超音速ロケット機X-1などの珍しい機体が惜しげもなく姿を見せます。
人間ドラマなんかオマケでいいじゃないか!
オレが見たいのは飛行機だ!
それから、ジャネット・リーの○ッパイだ!
という、ハワード・ヒューズの早過ぎたオタク魂が炸裂した作品、
それがこの『ジェット・パイロット』なのでした。
▼『ジェットパイロット』予告編
案の定、と言うべきなのか、
この映画はアメリカ公開時、興行的には余り振るわなかったといいます。
主役だったジョン・ウェインも、いつものヒーローとは違う、
まるでラブコメの主人公のようなヒロインに振り回されるキャラを演じさせられた事への不満を、後年漏らしています。
でも、今の日本のオタが観れば、およそ60年も前に、
こんなに自分達の感覚にフィットする映画があった事に気づくはず。
もし、ヒューズがもう少し遅く生まれたら、
”奇人の大富豪”ではなく、オタの琴線に触れる映画を作るプロデューサーや監督として、
もうちょっと世の中に受け入れられたかもしれませんね。
そういう意味で、ハワード・ヒューズは”生まれるのが早過ぎたオタク”だったのでしょう。
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