一昨年の秋くらいだったかな?
夜時間帯の試写を観終えての帰宅途中、家人よりピッチに電話がかかってきたことがある。
「さっき電話かけてきた?」
「いや、帰り道でチャリ漕いでるところだし…」
「君人(はPNなので実名ね)だけど、
ひどい風邪ひいちゃって薬ある?ゴホゴホ…って電話で。
だから薬くらい自分で買って来な!って切ってやったんだけど、やっぱお前じゃなかったんだ」って。
ムゥ、薬代オレオレってやす過ぎだろ!
まぁ、ボクの場合は土星びんぼーだから、傍からみたら結構リアルなのかもしれないけどな(苦笑)
そういえばリーマン時代の先輩のところでは、
「警察ですがお父さんが痴漢をしたので示談金が必要です」
との電話に娘さんが
「父ならやりそうですが、だったら逮捕しちゃってください」
と切ったとか(笑)
失笑ネタも多いわりに一向に詐欺被害が無くならないのが、
どうにも不思議にも思えちゃうわけだけど、
そんな人間心理の億弱さを真正面から描いたサスペンスが明日6月29日より公開される。
アメリカで実際に起きたストリップ検査悪戯詐欺事件を基にした
『コンプライアンス−服従の心理−』だ。
アメリカのとあるファストフード店。
金曜の賑わいの中で中年女性店長のサンドラは、
前夜従業員の誰かの不手際で商品を大量に駄目にされ、
それらの対応もあってテンパっていた。
そこに警察だと名乗る男から電話がかかってくる。
レジの女性店員に財布を盗まれたとの被害届けが客から寄せられ、
現在捜査中だというのだ。
サンドラは電話の指示に従い、電話の特徴と合致したベッキーをバックヤードに呼ぶ。
そして家宅捜査に向うため、直ぐには店に出向けないという男の指示に従って、
サンドラはベッキーに対し尋問・身体検査を開始。
サンドラの実務との兼ね合いで、
他の店員やサンドラの婚約者が尋問に加わる中で、
やがて電話の指示はさらにエスカレートし…
出演はサンドラ役に『父親たちの星条旗』(06)等のアン・ダウド、
ベッキー役に、テレビ・シリーズ『ドリーム・ガール』(07〜)、
『グラン・トリノ』(08)のドリーマー・ウォーカー、
電話の男に『マグノリア』(99)等のパット・ヒーリーが扮している…
と資料を見ながら書いても、上記中テレビ・シリーズ以外は全部観てるわりには、
咄嗟にそれぞれどんな役柄だったか浮かんでこないのだが(汗)
堅実な演技に加え、それが逆に日常に潜む陥穽に直面した者の状況をリアルに感じさせてくれる。
監督は本作が長篇監督2作目となる新鋭クレイグ・ソベル。
彼は本作の評価で、“L.A.タイムズ”誌選出による12年にブレイクした映画人の一人にも選出されている。
映画化するにあたり、ソベルは、
63年に発表された閉鎖的環境で権威者に従う人間心理に関する実験、
ミルグラム実験(アイヒマン実験)を事件に重ね合わせて描いている。
その内容を乱暴に要約すると
人は権威に命ぜられると、常識的には行えないような残虐行為をも行う
ということを実証したもので、
具体例として近年フランスのテレビ番組で行われた同実験の様子を参考に貼っておこう。
▼【動画】仏テレビで心理実験、番組参加者が容易に「拷問者」に(ミルグラム実験)
最初に警察と名乗る男からの電話で、従業員の嫌疑を伝えられたサンドラは、
コンプライアンス尊守からか電話の相手が言ってもいないのに、
「ベッキーがですか?」
と従業員の名前を告げ結果相手に主導権を握られてしまう。
また
「警察に出頭し一時的でも拘留されるより、
そこで嫌疑が晴らせればベッキー自身にもいいのではという」
言葉巧みな男の言葉に従ったのは、実際にベッキーを気遣ったサンドラの本意だったのかもしれない。
だがトラブル対応で疲弊した状況も手伝って、
やがて正常な判断ができなくなる…
いや、判断をすることより、
権威に従うことを無条件に受け入れてしまう思考のなんと危ういことか。
さらに他の従業員達も、疑問を感じつつそれに同調していってしまう。
実際、途中で男は無茶な質問や、携帯トラブルで何度かボロを出しそうになるのだが、
一度植えつけられた印象からは電話に盲従することの容易さと同様に、
なかなか、それから逃れられなくなってしまうのだ。
直接手を下さなくとも、実行犯は電話の男だ。
だが男の電話に操られたサンドラを、
ベッキーと同じく被害者と思うのか、加害者だったと思うのかは、観た方それぞれで考えて欲しい。
なおネタ元である実際の事件は、
2004年にケンタッキー州のマック(流石に劇中及び作品資料では特定してないけどね)で起き、
このマックの事件以外でも実は10年近くにわたり同様の事件がアメリカ各地で70件以上起きていた。
やがて一連の事件の容疑者として警備会社勤務の男が逮捕されるも、裁判では証拠不十分で男は無罪となる。
以後、同じ手口の犯行は起きていない。
そして店の事務所で性的虐待を受けた被害者の女性は、
勤務先のマックに対し管理不足、危機対策の不備を理由に訴訟を起こし、
裁判の結果マックは約6億円の損害賠償の支払を命じられる。
また当時の店長はマックを解雇され保護観察処分に、その婚約者は実刑判決を受けたそうだ。
なおミルグラム実験のバリエーションとしては、
刑務所で被験者を任意に看守と囚人とに二分すると、
それぞれの役割が被験者にどのような影響を与えるのかという心理学的実験もある。
71年に行われた“スタンフォード監獄実験”で、こちらをモデルにした映画も
ドイツ映画『es [エス]』(01)、
そのハリウッド・リメイク『エクスペリメント』(10)と二度作られている。
『コンプライアンス−服従の心理−』で描かれた、
現実としての心理実験に興味を持たれた方は、あわせてご覧になってはいかがだろうか?
▼映画『コンプライアンス 服従の心理』日本版予告編映像 - YouTube
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『コンプライアンス 服従の心理』
COMPLIANCE
2012年/アメリカ/90min
配給:アット エンタテインメント
2013年6月29日(土)より新宿シネマカリテほかにて全国順次ロードショー!
(C) 2012 Bad Cop Bad Cop Film Productions, LLC
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