こんにちは、印度です。
前回に続き、今回もレイ・ハリーハウゼンさんを悼もうと思います。
私は、一度だけハリーハウゼンさんにお会いしたことがあります。
それは1998年8月のこと。
広島市で隔年開催されている「国際アニメーション・フェスティバル広島」で、
ハリーハウゼンさんが名誉国際会長(大会会長は広島市長でした)を務め、来日しました。
▼ウェルカム・パーティで法被を着て鏡割りしているハリーハウゼンさん(右から二人目)
これは行くしかない!と広島入り。
この時の大会は、ハリーハウゼンさん(以下敬称略)目当てに来場した人が多かったようです。
8月20日の大会初日の午後、広島入りして、会場のアステールプラザへ。
▼現在のアステールプラザ(今年は日本SF大会をここでやります)
「ハリーハウゼン特集」のプログラムは翌8月21日ですが、
折角来たんだからと午後6時からの開会式へ行き、
そのまま続くメイン・プログラムである「コンペティション」を見ました。
これは世界中から、この大会へ応募された短編アニメを上映する企画なのですが、
オーソドックなセルアニメ、
ストップモーションアニメ、
切り抜いた紙を動かしながら撮影したペーパーアニメーションなど色々な作品があります。
さて、そんな具合に作品を観ていると、
何と前の方の座席に背の高い白人のお爺さんが。
あれ?あれ??
あの人、もしかしたら…ハリーハウゼンだ! おぉぉぉぉ!
初日に会場入りしたかと思ったら、
いきなりハリーハウゼン御本人に遭遇!これはラッキーです!
でも…
いきなりサインなんかもらえるもんだろうか…
え?どうだろう…
等と考え、逡巡しますが、
御本人に会える機会はこれを逃せば、もう無いかもしれない。
えーい!行っちゃえ!
とばかりに、上映のインターミッションの合間、
運良く座席に座っていたハリーハウゼン御大に突撃。
「エ、エ、エ、エクスキューズ・ミー? ミスター・ハリーハウゼン?」
と緊張で噛みながらも声をかけてみると、
「オー・イエース」
とのお答え。
おぉ、神様と言葉を交わしたぞ!
ガチガチになって、
「サインを頂けませんか?」
という私に、リラックスしたムードで
「いいとも」
と神様は快くサインをしてくれました。
▼大会パンフの表紙に頂いたハリーハウゼンのサイン
更に、当時神武団四郎氏が中心になって作っていた
モンスタームービーのミニコミ誌
「ストップモーション・モンスターズ」の最新号をお見せして(日本語なのにね)、
「私も日本のストップモーションモンスターに関する文章を書いています」
と申し上げると、
「ほぉ」という顔。
▼会場で手渡した「ストップモーション・モンスターズ」
僅か数分でしたが、
神様と会えた、話が出来た!
と私は嬉しくてボワ?っとしていたものです。
後で考えると、このタイミングはなかなかラッキーでした。
と言うのも、この後は、インタビューやレセプション、
ゲストとしての公式行事や、
プログラムへの出演などで連日多忙だったそうで、
ひょっこりと会場へやってくることは余り無かったとか。
さて翌日、この日は朝から緊張していました。
何と、午前中に神武氏と映画文筆家の鷲巣義明氏がハリーハウゼンにインタビューすることになり、
赤瀬川たかし氏や私も含めた七人がゾロゾロとアステールプラザのロビーへと集まります。
通訳はアメリカン・コミックスの評論家であり、
『タイタンの戦い』(1980)のプロモーションのために来日したハリーハウゼンの通訳を務めて、
旧知の間柄の小野耕世氏にお願いしました。
インタビュー冒頭、神武氏がハリーハウゼンへプレゼント。
恐らく、世界で唯一であろう、ハリーハウゼンの伝記マンガ「ムービードリーム」の単行本です。
▼ムービー・ドリームーレイ・ハリーハウゼン物語 (ジャンプスーパーコミックス)
これはあなたのコミック・バイオグラフィですと説明すると、神様は表紙を見て破顔一笑。
「私に髪が生えているじゃないか!」
喜んで頂いて、グッと座も和んだところでインタビュー開始です。
当時、その模様は「宇宙船」や「ヘッドプラス」といった雑誌に掲載されましたが、
現在一番入手し易いのは小野氏の著作「世界のアニメーション作家たち」でしょう。
世界のアニメーション作家たち | ||||
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この本には、
作品作りに協力してくれた御両親のこと、
『水爆と深海の怪物』(1955)の六本足の大ダコのこと、
そして盟友レイ・ブラッドベリについてなど、
貴重な証言が載っています。
ハリーハウゼンは終始笑顔を絶やさず、ユーモアたっぷりに語る、
話好きのお爺さんといった感じの方でした。
何十年前の事も細部まで覚えていて、
質問にも淀みなく、間髪いれずに答えが帰ってきます。
この時、流石に私は直接口を聞くことはありませんでしたが、
数十分間ハリーハウゼンの話を間近で聴く、という得難い経験だったのです。
インタビューの後、皆で記念撮影をしたのも、忘れられない想い出でした。
そして、この後は午後から「レイ・ハリーハウゼン特集」があります。
作品を上映しながら、ハリーハウゼン御本人が解説や質疑応答する、超期待の企画。
そのせいか会場の大ホールは一時間前から既に行列が出来、
私も友人達と先程のインタビューの興奮もさめやらないまま並んでいました。
今日は午前と午後にこんな機会があり、しかも昨日はサインも頂いて、
こんなにハリーハウゼン尽くしでいいのかな、と足が地につかない感じです。
この企画では、
骸骨戦士やメデューサといったクリーチャー達の映像を見ながら、
ハリーハウゼンが色んな事を語る、正に日本では前代未聞の出来事。
二時間半に渡って、
”ダイナメーション”という名前に決まるまでの紆余曲折、
アーマチュア作りの苦労、
クリーチャーのデザインや造形のインスピレーションについて、
などなど、エネルギッシュに話し続ける姿に感動しました。
途中、骸骨戦士のアーマチュアを演壇上に取り出して、動かしながら、
『アルゴ探検隊の冒険』の撮影中の想い出を語るという、嬉し過ぎる一コマもありました。
こうして、二時間以上もハリーハウゼンの濃厚な講演を聞いたのですが、
これが最後ではありませんでした。
何と、その直後から、別会場で引き続き企画が始まります。
この大会には公式のプログラムの他に、
若手の作家が自分の作品をプレゼンしたり、
作家が観客と質疑応答をしたり、
日替わりで自由な企画を行う「フレーム・イン」というコーナーがあります。
その当日になって急遽決まることもある、飛び入り企画のようなもの。
ここで「作家へのQ&A」として、ハリーハウゼンを招いて直に質疑応答の場が設けられました。
これは行くしかない!と講演が終わるや、7階の研修室へ。
やっぱり、おんなじ事を考えている方は一杯で、余り大きく無い部屋はすぐに満席。
立っている人や、部屋に入り切れずに入口付近に溢れている人もいます。
私は前の方の席に陣取っていると、ハリーハウゼンが来ました!
近い!僅か数メートルの前に神が降臨しています。
この企画は質疑応答が中心なので、質問した者勝ち。
何度も何度も手を挙げている内に、遂に当りました!
「ハリーハウゼンさんの作品の中で、未完成に終わったものが幾つかありますが、
1940年代に作られた「宇宙戦争」については、余り文献にも載っていません。
フィルムは撮影されたそうですが、どのような作品で、何故完成しなかったのでしょうか?」
しかし…通訳の方があんまり映画やSFに詳しく無いらしく、
「宇宙戦争」の事を”スペース・ウォーズ”と訳したもんだから、ハリーハウゼン本人は「?」。
いやいや違います、原作はH・G・ウェルズの小説「War of the Worlds」ですよ!
私の発音が悪いせいか、通訳は「えぇっとぉ?何ですか?」。
見かねた他の観客が一斉に「War of the Worlds!」と声を挙げる一幕も。
やっと質問の趣旨が伝わったハリーハウゼンは
「あぁあれか」
という感じでニッコリして、
「40年代の後半に、企画を立て、売り込み用にテストフィルムを作りました。
地球に落下してきた宇宙船から火星人が出てくるシーンをカラーで撮影しましたが、
残念ながら興味を示してくれる会社が無くて、それ以上は進みませんでしたね」
神様、ありがとう!
ハリーハウゼンと直に一対一で話せるなんて、もう人生には無いぞ。
俺の質問に答えてもらった、やったぁ…
企画終了後、周りから
「随分マニアックなこと聞いていたねぇ」
と言われましたが、この事は前々から聞きたかったのです。
今ではyoutubeでもこのフィルムは見られますが、
90年代当時はまだほとんど何の情報も無く、
ハリーハウゼンが雑誌のインタビューでちょっと触れている程度だったのです。
▼ハリーハウゼンが撮った「宇宙戦争」のテスト・フィルム(恐らく、原作でのラストシーン)
ちなみに、このほんの数年後に人形アニメ・パぺトゥーンで知られるプロデューサー、
ジョージ・パルが映画化したのは、よく知られているところ。
宇宙戦争 (1953) スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD] | ||||
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こうして、私のハリーハウゼン尽くしの一日は終わりました。
まさか、こんなに会う機会があろうとは。
多分、私の人生で最も幸せな一日だったかもしれません。
その夜は、私も含めたSTUDIO28の面々が広島風お好み焼きなど食べながら、
いい一日だったねぇ…
と広島の夜を満喫したものです。
あれから、もう15年も経ってしまったのかと思うと、意外な気もします。
こうして作品だけではなく、
御本人にも色々な想い出を頂いたハリーハウゼンさんには、感謝の気持ちで一杯です。
ありがとうございました。
謹んで御冥福をお祈り申し上げます。
そして、今頃は天国で御師匠のウィリス・オブライエンや
弟子筋のデヴィッド・アレンといったモンスター・メイカー達や、
竹馬の友であるレイ・ブラッドベリとも再会していることでしょう。
あちらでも、またクリーチャーを暴れさせるに違いないと思います。
(関連ページ)
▼"巨星"墜つ…追悼、レイ・ハリーハウゼン(その1) - 映画宝庫V3
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