百万石の街はエロスに燃えた!カナザワ映画祭2012レポート?『フリッツ・ザ・キャット』

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ずいぶん遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。
印度です。
今年はカナザワ映画祭2012レポの続きから始まります。

さて二日目、9月16日(日)。
今日は、朝10時から楽しみにしていたアニメ映画フリッツ・ザ・キャット(1972)です。

【映画チラシ】フリッツ・ザ・キャット/監督・ラルフ・バクシ//洋・アニメ
【映画チラシ】フリッツ・ザ・キャット/監督・ラルフ・バクシ//洋・アニメ

カナザワ映画祭日曜朝の作品は、今までもミミズの大群が襲来する『スクワーム』(1976)や、
ロシアの大地がナチスによって地獄になる『炎/628』(1985)など、
インパクトのあるものがセレクトされてきましたが、今回はどうかなぁ…

この『フリッツ・ザ・キャット』、原作はアメコミです。
しかし、「アメコミが原作のアニメ映画」と聞いて、皆さんが持つイメージとは大分違う作品。


一口に「アメコミ」といっても実際には色んなジャンルに分かれており、作風も随分違うのですが、
この原作は「オルタナティブ」と呼ばれる、作家性やアート性の強いコミックです。
日本で言うと、つげ義春なんかの「ガロ系コミック」でしょうか。

元々このジャンルは、60年代に大学生が始めた自主製作のコミック(要するに同人誌)から始まりました。
当時、ベトナム反戦や公民権問題を背景に全米の大学生が既存の秩序に異議を申し立てる運動をしていたのですが、
その一環としてコミックが生まれます。

peace

コミックというジャンルにとってタブーだった、政治性SEXを大胆に取り上げて描き、
正規の流通も通さずに売られた(最初の頃は道端で作者が手売りしていたそうで)
この自主製作コミックはアンダーグラウンド・コミックと呼ばれました。

それまで、子供の読むジャンルだと思われていたコミックのイメージを覆す衝撃的な作品は、
忽ち大学生だけではなく、大人や文化人にも支持されるようになり、ジャンルとしても定着。

80年代以降は、いわゆるヒーローものが「メインストリーム」と呼ばれるに対し、
「オルタナティブ」と呼ばれるようになります。
最近の作品だと、映画化もされた「アメリカン・スプレンダー」や「ゴーストワールド」が有名ですね。

アメリカン・スプレンダー
アメリカン・スプレンダー

そのオルタナティブ・コミックがまだアンダーグラウンド・コミックと呼ばれていた
1960年代半ばに登場した、このジャンル最初のヒット作が、
この『フリッツ・ザ・キャット』でした。

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当時二十代前半の若者だったロバート・クラムが生みだした、
ネコの大学生のマンガは忽ち大人気になり、
当時子供向けのアニメを作ることにうんざりしていたアニメ監督のラルフ・バクシの目に止まります。

▼作者ロバート・クラムの近影、もう70歳近く
Robert_Crumb_

バクシは後にトールキン原作の『指輪物語』(1978)や、
ロシア系ユダヤ移民の一家がアメリカの芸能界で生きていく大河ドラマ的アニメ『アメリカン・ポップ』(1981)、
アニメと実写を合成した大人向け『ロジャー・ラビット』(1988)といった感じの『クール・ワールド』(1992)など、
一貫して大人向けのアニメ映画を作り続ける反骨の作家なのですが、
そのキャリアの原点が、この『フリッツ・ザ・キャット』なのです。

▼監督ラルフ・バクシの近影
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そんな、大人の鑑賞に堪えるアニメを作ろうとしていたバクシにとって「フリッツ」は格好の題材でした。

作者のクラムとは紆余曲折ありながらも、
メジャースタジオのワーナーも交えて映画化権を獲得するものの、
アニメの表現をマイルドにして欲しいワーナー側と原作通りにやりたいバクシが対立

結局ワーナーは手を引き、
バクシはプロデューサーのスティーブ・クランツと共に
インディペンデント映画(メジャースタジオの配給に乗らない映画)として『フリッツ』を完成させます。
しかも、劇中のSEX表現によって、アメリカ初の成人指定を受けたアニメ映画となりました。

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そして公開されるや、珍しさもあったのでしょうが、
アメリカでは興行収入が1億ドルを超える大ヒット
しかし、間も無く公開された日本では全く当りませんでした。
(東京では、余りの不入りで上映一週間で打ち切りになったとか)

と言う訳で長い前振りになりましたが、
勇んで30分ほど前に会場へ着いてみると、何と私が一番乗り
しかし、やはり日曜の朝は人の集まり易いのか、開場の頃には長い行列が出来ました。

で、『フリッツ』が始まります。
オープニングは、ニューヨークの建設中の高層ビルの上で昼御飯を食べているオジさん達(もちろん動物)が、

「オレの娘は大学に入れてやったのに、親の言う事も聞かないし、困ったもんだ」

など世間話をしながら、立ち小便(!)をするシーンから始まります。

フリッツ・ザ・キャットのオープニング

高層から地上へカラフルに光りながら落ちて行く小便が、
下で歩いている動物の通行人の頭にバシャ!とかかるこの皮肉。
正に「綺麗は汚い、汚いは綺麗」(シェイクスピアの”マクベス”から)というところ。

ちなみに、この作品の登場人物は全て擬人化された動物で、
例えば警察官はブタ(この当時、学生達は警察官を権力の手先と揶揄して”Pig”と呼んでいました)
黒人はカラスでした。

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そして、ところ変わって公園。
ネコのフリッツと友達が女子大生(これももちろん動物)をナンパしようと
ギターを弾いたり、嘘泣きしたりと大騒ぎ。

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そして何故か、フリッツは三人の女の子のナンパに成功し、
友達のアパートへやってくると、大乱交パーティーの真っ最中。

バスタブの中で女の子達と素っ裸で「人生の実存的エッセンス」を学ぼうとしていると、
騒ぎを聞き付けたブタの警官が手入れにやってきて、大混乱に。

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警官に追われて逃げ出したフリッツは南部の街へやってきて、
カラス(黒人)達の酒場へやってきます。よせばいいのに、ホロ酔いで

「君達の境遇には、ネコの一人として心を痛めてるんだ。
 ボクは君達カラスに共感しているんだよ」

とお気楽に言っちゃったもんだから、さあ大変!

「ネコの癖に、オレ達カラスの何がわかるんだ、この野郎!」

と怒ったカラスに刺されそうになるものの、
世間知らずのフリッツをカモだと見抜いたカラスのおっちゃんに助けられます。
(但し、酔っているフリッツは周りの状況に全然気づかない)

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全編この調子で、動物キャラ達が誠にハードコアなストーリーを展開します。
とは言え、当のフリッツはお気楽で行き当りばったり。
でも、何故か行く先々で女の子に付きまとわれるという不思議なキャラ。

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この作品は、とかく60?70年代のカウンターカルチャー(規制の文化に対抗する若者文化)の文脈で語られますが、
今の視点で見ているとさしずめ、
いしいひさいちの「バイトくん」ミーツ「まんだら屋の良太
という感じのスットコドッコイさ満点でした。

Fritz%20the%20Cat

とは言え、随所で見られる当時流行りのサイケデリック(極彩色を使用した表現)な美術や、
カラスの動きとBGMをシンクロさせるグルーブ感溢れる演出など、
アニメ的な見どころも多く、それまでの不満を爆発させたようなバクシの才気あふれる作品です。

カラスとボ・ディドリーがシンクロ

そんな中で皮肉が効いていたのが、警官に追われたフリッツがシナゴーグ(ユダヤ教の宗教施設)に逃げ込むシーン。
大勢のラビ(ユダヤ教の聖職者)が険しい表情で一心に読経をしていたのに、
「おーい!アメリカがイスラエルに軍事援助することが決まったぞー!」
と知らせが届くと、全員が「ワーイ!」と大喜びでラインダンスを初めます(・・・)

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この映画の時代設定は1966年(冒頭、タイムズスクエアに映画『天地創造』(1966)の巨大な広告が出ています)のようですが、
イスラエルと周辺のアラブ諸国の緊張が高まり、断続的に武力衝突を繰り返していた時期に当ります。
こんな描写は、自身がユダヤ系であるバクシだからこそ出来た際どいものでした。

それから、フリッツのせいでカラス達が暴動を起こすと、空軍機まで出動して鎮圧されるのですが、
飛んでいく戦闘機を公園で遊んでいた、
ミ○キー・マ○スミ○ー・マ○スド○ルド・ダ○ク
星条旗を振って「ガンバレ?!」と応援(・・・)

流石に、シルエットだけの登場なのですが、
それまで作らされていた子供向けアニメにうんざりしていた、バクシなりのキツイ皮肉なのでしょう。

ということで、次回は、懐かしの『バタリアン』と
エロチック・バイオレンス『ゼイ・コール・ハー・ワン・アイズ』をお送りします。
お楽しみに!

フリッツ・ザ・キャット予告編 (1972) HD - YouTube


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