【ホビット応援企画】『ホビット』映画への道

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こんにちわ、印度です。

そろそろ公開も終盤に近づいた『ホビット 思いがけない冒険』ですが、
原作の世界観を尊重した作風に三部作への期待も高まります。
皆さんはいかがですか?

hobbit

さて、J・R・R・トールキン原作の「ホビットの冒険」や、
既に映画化された「指輪物語」は、
発表された20世紀中ごろより映画化の企画は色々とありました。

しかし、この作品世界の映像化は技術的に難しく、
遂にデジタル技術が発達する21世紀まで実現することはありませんでした。

しかし「実写はダメでもアニメなら可能だろう」
そう考えた映画製作者がいました。

まず最初に「ホビットの冒険」をアニメとして映像化したのは、
アメリカのアニメ作家、ジーン・ダイチです。


Gene_Deitch

1950年代から様々なアニメに参加していたダイチは、
1960年に人気アニメ『トムとジェリー』を制作するために、
チェコスロバキアの首都プラハにスタジオを作り、そこを拠点に活動していました。

▼ダイチの監督した「トムとジェリー」

ところが、40年代からチェコ・アニメをアメリカに輸入していたプロデューサー、
ウィリアム・L・スナイダー「ホビットの冒険」の映像化権を1964年に取得。

この企画に参加したダイチは、当初
「実写のセットにセルアニメのキャラを合成する」
長編アニメとして構想していましたが、あいにく予算の目途がつきません。

そうこうする内に契約した映像化権の期限が迫り、
焦ったスナイダーはダイチに急いで短編アニメを制作するように求めます。

ダイチはチェコの挿絵作家アドルフ・ボーンの協力を得て、
1966年に約10分のアニメ映画The Hobbitを何とか完成させました。

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しかし、ニューヨークで試写されただけでこの作品はそのままお蔵入り

現在ネット上で見ることが出来ますが、
実際にはアニメというよりも絵物語のような話で、
オリジナル・キャラとしてドワーフのプリンセスが登場します。

▼ダイチ版「The Hobbit」

その後、スナイダーは映像化権の期限を延長する事が出来たので、
これ又チェコ繋がりですが、当地の人形アニメーションの巨匠、
イジー・トルンカに制作を依頼。

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興味を示したトルンカはキャラデザなど行いますが、数年後(1969年)に亡くなります。

「ホビット」用にトルンカが作成したキャラデザイン
Hobbit-alized

この後、映画化を諦めたスナイダーは権利を売却し「ホビット」のアニメ化は実現しませんでした。

さて70年代に入り、映像化権を取得したのが
プロデューサーのアーサー・ランキン・Jrジュール・バスのスタジオ
ランキン=バス・プロダクション」。

▼アーサー・ランキン・Jr (御年88才、まだご健在の模様)
ART

日米合作の作品を多く手掛け、
東宝と『キングコングの逆襲』(1967)、
円谷プロと『極底探検船ポーラボーラ』(1977)を制作しています。

アニメも数多く制作しており、
70年代には日本のアニメスタジオ「トップクラフト」が作画・撮影などの実作業を手掛けていました。
(主に脚本や音響はランキン側が制作)

このトップクラフトが「ホビット」も担当し、約80分の長編アニメ『The Hobbit』として完成。
声のキャストも、ガンダルフがジョン・ヒューストン
エルフの王がオットー・プレミンジャーといった名監督を迎え、豪華な顔ぶれです。

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そして、1977年にTVでスペシャルアニメとして放送され、多くの支持と高い評価を受けました。
アメリカSF界の権威ある賞であるヒューゴ賞の映像作品部門にノミネートされたことからも、
その評価の高さがわかります(受賞したのは『スターウォーズ』(1977)でしたが。)

この作品、今回ピーター・ジャクソンが三部作の長編で描こうとしている
原作を80分にまとめたことから、
ストーリーはややダイジェスト的ではありますが、
トロールやゴラムやゴブリンといったクリーチャー達も登場。

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ラスボスである竜のスマウグ(爬虫類というよりもネコ科の動物のような不思議なクリーチャーデザイン)とビルボ・バギンズとの対決や
ラストの”五軍の戦い”など、見せ場はきっちりと映像化されました。

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精密に描き込まれたキャラデザや、
ファンタジー文学の代表的な挿絵画家アーサー・ラッカムの絵をモチーフにした
独特の陰影に富んだ美術(水彩絵具を使用)など映像的にも見どころは多い作品です。

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興味深いのは、ホビットやドワーフがアメリカのアニメキャラらしいのに対し、
トロールやゴブリンが日本のアニメ的な動きや表情をすること。

もしかすると、メインキャラ達はアメリカ側のコントロールが強かったのに、
敵キャラは日本側の裁量があったのかもしれません。

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それだけに、日本では一度だけ(1978年)『ホビットの冒険』の邦題で公開試写が行われただけで、
今に至るも劇場公開もテレビ放送もソフトの発売も無いのが残念です。

何といっても、演出の『機甲創世紀モスピーダ』(1983‐1984)のチーフディレクターを務めた山田勝久
美術監督の『キルビル』(2003)のアニメパートも担当した西田稔といった、
日本人スタッフによって作られた作品であるだけに、余計に残念でなりません。

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ちなみに、このトップクラフトで宮崎駿が『風の谷のナウシカ』(1984)を作り、
その後に改組される形で設立されたのがスタジオジブリなのです。

ジブリの源流であるアニメスタジオの作った幻の名作である、
この『ホビットの冒険』をこのまま埋もれさせておくのは惜しいとは思いませんか?
(今回の映画の公開で、もしかしたら日本でDVDが出たりするかも、なんて期待していましたが…)

▼アニメ「ホビットの冒険」

この翌年、大人向けアニメを作る孤高のアニメ作家ラルフ・バクシ
長編アニメ映画として指輪物語(1978)を制作。

【映画チラシ】指輪物語 ラルフ・バクシ
【映画チラシ】指輪物語 ラルフ・バクシ

▼バクシ版「指輪物語」 ガンダルフVSバルログ!

内容は原作の「旅の仲間」と「二つの塔」の前半まででしたが、興行的に成功しませんでした。

そのためなのか、替りのようにランキン=バスは「王の帰還」を
TVスペシャルアニメThe Return of the King(1980)として、
前作『ボビットの冒険』と同じくトップクラフトが実作業を担当する形で制作します。

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主人公フロド・バギンズの従者サムの声を、
ジャンル映画でもお馴染みのロディ・マクドウォールが演じており、
『ホビット』の好評に応えて、この作品にも力が入っているのがわかりますね。

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牧歌的な『ホビット』に比べると、ダーク・ファンタジーの色彩の濃い作品で、
これまた日本人がアニメ化した「指輪物語」なのに、
今に至るも日本では劇場公開もTV放送もソフトの発売も全く無い
幻の作品のままなのが、残念でなりません。

▼ぐっとダークさが増した「The Return of the King」
(アラゴルンの「だが今日ではない!」の演説もアリ)

さて80年代に入ると、「ホビット」は初めて実写化されます。

制作したのは何と崩壊する前のソ連の国営TV局でした。
約80分のTVムービー
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(ホビット ビルボ・バギンズ氏の不思議な旅)です。

当時まだアメリカでは、ラルフ・バクシの『指輪物語』の不評によって、
「ホビット」も含めたトールキン作品の映像化は困難、というムードがまだ濃厚でしたが、
価値観の違いなのでしょう。
ソ連の映画人達は全く違うアプローチで映像化しました。

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お国柄、と言うべきなのか、
大グモ(シェロブ)やスマウグはパペットで撮影され、
ゴラムもちょっとメイクをした人間として表現されています。
全体的に舞台の児童劇をそのまま撮影しているような趣も感じられる作風でした。

▼ロシア版「ホビット」
「8時ダヨ!全員集合」みたいなビルボとゴラム

ゴブリン達がロシアの名門キーロフ・バレエ団(現在のマリンスキー・バレエ団)
ダンサー達で演じられているのも、そんなアプローチを反映しているようです。

▼これもロシア版「ホビット」 
教育テレビの人形劇みたいなスマアグ

そして、時代は90年代。
今度はフィンランドの国営放送が30分全9話のTVドラマ『Hobitit』(1993)として映像化。

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元々は80年代に好評を博した舞台劇版が元になっており、
題名は「ホビット」ですが、内容はフロド・バギンズが主役の「指輪物語」が中心。

第1話の「Bilbo」は、老いたサムがホビットの子供達に、
ビルボが指輪をゴラム(只のアブないオッさんみたいな)から手に入れた経緯を話す、
「ホビットの冒険」の一部を元にしたプロローグ的エピソードでした。

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予算の都合か、大きな戦いやクリーチャー達は登場せず、専らフロド達の旅だけを描いています。
ピーター・ジャクソン版に比べると、全体的に土俗的なムードが漂っていますね。
特に北欧の森の中を旅するシーンは、流石に幻想的です。
ちなみに、映画の方には全く出番の無かったトム・ボンバディル
こちらでは原作通りに登場するのは、特筆されることでしょう。

▼ちょっとダークなフィンランド版「ホビット」ゴラムが山下清みたい…

そして、その数年後にピーター・ジャクソンが「指輪物語」の映画化プロジェクトを開始し、
今回の『ホビット』に至る経緯は皆さんもよくご存知でしょう。

ロード・オブ・ザ・リング [Blu-ray]
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原作が1937年に発表されてから、
長い長い年月の間、世界各国(ある時にはイデオロギーの違いも超えて)の映画人が
この作品の映像化に挑んでいたのは、興味深いことです。

各々の作品をネット上などで観比べてみるのも、また楽しいかもしれませんね。


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