こんにちは、印度です。
昨年も紹介しましたが、今年も9月中旬に石川県の金沢市で
全国のコアな映画ファンが注目する「カナザワ映画祭2012」が開催されました。
今年のテーマは、ズバリ「エロス」です。
だから、今回のラインナップを見ると半分ぐらいが、いわゆるピンク映画でした。むむむむむ…
さて9月15日(土)の午前中に現地入りすると、9月半ばの金沢は30℃を超える猛暑でした。
とりあえずレンタル自転車を借りて、有名な鮮魚市場である「近江町市場」へ行き、
カツヲ、タコ、マグロの三種類の叩きがのった「三色叩き丼」をもりもり食べて、映画に備えます。
一日に何本も映画を観る映画祭はある意味体力勝負。
楽しむために精をつけておきたいものです。
今年のカナザワ映画祭はテーマのためかもしれませんが、
昼間の開場が例年の21世紀美術館ではなく、
金沢駅前の金沢都ホテル地下一階のセミナーホールになりました。
現場に行ってみてわかりましたが、ここは以前映画館だったそうです。
今も残っている切符売り場や入口の風情が、いかにも昭和の映画館で懐かしいなぁ。
さて、カナザワ映画祭一本目は『スペースバンパイア』(1985)。
これの一体どこがエロスやねん!なんて野暮は言いっこなし。
すっぽんぽんのマチルダ・メイが出てるでしょ(笑)
で、上映されるのは日本でも劇場公開されたアメリカ公開(102分)よりも長めのヨーロッパ公開版(116分)。
しかも、カナザワ映画祭名物の爆音上映です。
ヘンリー・マンシーニの景気の良いスコアに乗って、はじまりはじまり?。
公開当時(1985年)、間近に迫っていた
ハレー彗星の大接近というタイムリーな話題を取り込んで、謎の巨大宇宙船からエイリアンが地球に侵入。
エイリアンに生命エネルギーを吸収された犠牲者がゾンビ化して
ネズミ算式に増えて行ってイギリス各地がパニックへ。
遂には、エイリアンの影響化でロンドンが無政府状態になって、
イギリスはNATOの統制下に入り、核攻撃の準備も始まるという緊迫のクライマックス。
ハリウッド特撮界の名匠ジョン・ダイクストラによるアナログ時代末期のSFXも快調で、
SF映画の歴史の中でも結構珍しいスケールの大きな侵略テーマの作品です。
が、何故か、観ていると印象に残るのは全裸で頑張るマチルダ・メイだけって…
やっぱり、こういうハードSFはトビー・フーパーの柄じゃなかったんでしょうねぇ。
しかし、売りである爆音上映の音が大き過ぎて、
時々BGMや台詞の音が割れてしまうので、よく聞き取れなくこともしばしばで困りました。
字幕が途中で画面とのタイミングがずれ出して、しばし字幕が出なくなるシーンもあり、
フィルムが切れたりする上映中のトラブルはこの映画祭のお約束みたいものではありますが、
こういうのはちょっと頂けません。
(後で関係者に伺ったところ、字幕が完成したのが上映ギリギリだったそうで、
作業が間に合わなかった部分もあったようです)
加えて、細かい事を言うようですが、
劇中の台詞の中に何度も出てきたイギリス軍の特殊部隊SAS=Special Air Serviceを、
「特殊空軍」と訳しているのはいかがなものかと。
紛らわしい名前ですが、イギリス陸軍の代表的な特殊部隊です。
字幕で表記するなら「特殊部隊」とすれば、違和感も少ないのではなかったのでしょうか。
こうして、ちょっと残念な一本目が終了し、金沢の中心地片町へ移動。
夜9時過ぎから、第二会場でもある金沢一の繁華街香林坊にあるミニシアター「シネモンド」で、
チェコスロバキア(チェコとスロバキアが分離していない時代の映画です)の伝説的作品
『春の調べ』(1934)を観ます。
パンフによると今夜上映されるフィルムはドイツ語版でなんと字幕無し!
う?ん、厳しいものもありますが、
なかなか観られるスクリーンで観られる映画じゃないので、見逃すわけにはいきません。
この映画、一体何が伝説なのかというと、
「一般映画では世界初のヌードシーン」があるのです。
実はポルノのようにエロスを売り物にする映像というのは、
それこそ19世紀末に映画が誕生した時から既に存在しました。
その後、映画が大衆娯楽として各国で定着していくにつれ、
いわゆる公衆良俗に反するような映像を検閲したり、自主規制されるようになり、
そうでない成人向け映画と呼ばれるジャンルが分化していきます。
そんな中、この『春の調べ』はテーマ自体も
当時はまだタブー視された”女性の性の悦び”を描いており、原題も「Ekstase」。
英語でいうとエクスタシーです。
公開当時は世界各国でセンセーションを巻き起こしました。
当然と言うべきか、公開された国の上映基準で色んな編集をされたので、多くのバージョンがあり、
意外な事にこの手のシーンにとても敏感だった日本でもちゃんと公開されていました。
と言うわけで、期待と不安が入り混じりながらも、夜のシネモンドへやって来ると、
何と16?上映ということで、映写機が座席の後ろの方にデーンと鎮座しています。
で、いよいよ始まった映画は英語の字幕が出ます。
あれ?ドイツ語じゃない。そして台詞も英語…なのですが、ほとんど台詞がありません。
だから、登場人物はパントマイムみたいに仕草で感情や意志を表しています。
って言うか、音声もほとんど無く、ずーっとBGMが流れる実質的にはサイレント映画同然。
音のあるトーキー映画初期の作品だからでしょうか。
お陰で日本語字幕が無くても、それほど理解には困りません。
ストーリーは、親子ほども歳の離れた裕福な商人と結婚した若妻が、
全く自分を女性として相手にしてくれない夫に不満に募らせて、実家に逃げ帰って…というお話。
そして、破綻した結婚生活に疲れた若妻が馬を駆って、
たまたま見つけた森の泉で泳いでいると(当然全裸)
愛馬がどっかの雌馬に惹かれて行ってしまって、
その背中に服を乗せていたから、さぁ大変!
「待って?!(という台詞はありません)」と素っ裸で森の中を走っちゃう。
問題のシーンがここですが、ロングショットなので、ぼんやりとした映像です。
しかし、近くで道路工事の監督をしていたイケメンが、背中に服を乗せた馬を発見。
近くの茂みに、一糸まとわぬ若妻が困った様子で隠れているを発見したイケメンは、
「はは?ん」と納得顔で、そっちを見ないようにして若妻に服を渡します。
この優しい心遣いに若妻はすっかり一目惚れ。
相変わらず台詞も無いので、互いにニコニコと顔を見つめるばかりという、
今観ると思いっきり不自然なシーンも。
こうして、今までの味気ない日々を取り戻すかのように若妻の恋心が燃え上がります。
嵐の夜に一人で部屋で悶々としていると、馬同士が交わり合っている像や、
大きなホルンを吹く男の像が、ドーン!とアップになる演出で、若妻の欲求不満を表現。
はぁ?こういうのもアリなのか、とビックリです。
で、結局妻に逃げられた夫が、あてつけみたいに二人の前で自殺する
という強引なハッピーエンド(かな?)で映画は終わりますが、
現代の視点で観るとセンセーショナルどころか、ごくごく穏当な作品でした。
演出や表現方法に、1930年代のエロス感も伺えます。
ヒロインを演じたチェコの女優ヘディ・キースラーは当時19歳でしたが、
この『春の調べ』一本で世界的なセクシー女優となり、後にハリウッドに進出した時には
”ヘディ・ラマー”と名を変え、聖書劇の大作スペクタクル
『サムソンとデリラ』(1949)で、魔性の女デリラを演じています。
▼へディ・ラマーの出演作 「春の調べ」や「サムソンとデリラ」も
どうも『春の調べ』のイメージが後々までもついて回ったようで、
晩年に書いた自叙伝の名前も「Ecstasy and Me (春の調べと私)」でした。
次回は、アメリカの名作オルタナティブ・コミックをアニメ化した
カルト・ムービー『フリッツ・ザ・キャット』が登場します。お楽しみに!
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