拝編集長「…で、男料理って言ったらカレーライスじゃない。
この間の日曜日に頑張って作ったんだ」
武井「男が作る家庭料理の定番です。やっぱり手づくりは美味しいですし」
拝 「確かに味は好評だったんだけど…張り切りすぎて寸胴一杯出来ちゃった」
武井「それはずいぶん張り切りましたね」
拝 「食べきれなくてね…これはいけないと、色々と作ってみたんだ。
えっと…月曜日はカレードリア、火曜日はスープカレー、水曜日はカレーコロッケ、木曜日はカレーリゾットでしょ」
武井「編集長器用ですね…」
しかし、五日間もカレーを食べているという事は、どれだけの量作ったのか。
そこに、編集長が頼んでいた料理を、店員さんが運んできた。
拝「今日はづけ丼なのだ」
この話の流れから行くとカレーかな、なんて思ったのだが、編集長は意外なメニューで攻めて来た。
まあ、これだけカレー、カレーと聞くと、
なんとなくカレーは遠慮したいなという気分になっていたのでこれで良かった。
編集長も六日間連続は避けたいだろうし。
何かメニューには意味があるのだろうけれども、別に説明もないし、後で判るだろうから先に本題へと進もう。
『エデンの海』は、1976年4月に公開されたホリ企画製作、東宝配給の作品。
『伊豆の踊子』(74)から始まった山口百恵主演の文芸シリーズ第四弾である。
瀬戸内海にある女子高へ、東京から新任教師・南條(南條豊)が赴任して来た。
明るい南条は生徒たちの人気者になるが、清水巴(山口百恵)だけは反抗的な態度だった。
南條は、巴の事を何か気にかけたが、中々心は開いてもらえなかった。
そんなギクシャクした状態のまま、二人は運動会でコンビを組む事になり、競技中、巴は事故で失神してしまう。
南條は、失禁した巴のために女性用下着を購入、それが噂になり職員会議で糾弾された。
巴をかばい真相を話さない南條は窮地に陥るが、そこに飛び込んで来た巴が涙ながらに語った事で、事件は解決する。
それ以来、巴と南條は師弟愛で結ばれるが…
このシリーズは、ずっと三浦友和とのコンビで描かれて来たが、
この作品のみ新人(当時)の南條豊が相手役となっている。
シリーズに新風を吹き込もうという意図でのキャスティングだったが、
結局は三浦友和とのコンビの鉄壁ぶりを再確認させる事となり、
この後の山口百恵主演作品は、引退記念作品の『古都』(80)まで、相手役が全て三浦友和で統一されている。
また、『エデンの海』公開時期、
テレビでは百恵・友和黄金コンビによる『赤い疑惑』が放映されていた事もあり、
余計に差が目立ってしまったのも災いした。
そのために、残念ながらファンからは評価が低い作品ではある。
しかし、それまで作られて来た古典的な時代背景ではなく、
現代高校生の等身大な姿で描かれた、山口百恵のフレッシュさは、他の作品では見られないものだ。
南條豊の一直線な演技、ひねくれた山口百恵の性格描写もそれまでの作品とは違い、目新しく
山口百恵が、水着を着たまま馬に乗って疾走する体当たり演技も話題となった。
監督は西河克己。
シリーズ第一作『伊豆の踊子』から、連続して監督を担当している。
面白いのは、ここまでのシリーズ
『伊豆の踊子』(74)『潮騒』(75)『絶唱』(75)『エデンの海』(76)まで、
全てが過去の映画作品のリメイク版という事。
これだけ続くのは、日本映画では珍しい事だ。
西河監督は、その後シリーズ第六作『春琴抄』(76)、第八作『霧の旗』(77)も担当、
当シリーズのメイン監督として活躍した。
武井「あ、だから今日のメニューは、リメイクという事で?づけ丼?なんですね。
マグロの切り身を、漬けてリメイクしたから」
拝 「御名答。まあ、この店はづけ用にちゃんと新しいものを作っているけど、
残った刺身をづけにして出す所も多いらしいから」
武井「なるほど…でも美味しいです」
拝「ところで、映画の見どころは、百恵ちゃん”白い水着で乗馬疾走!”だね。
映画パンフレット 「エデンの海/あいつと私」 出演 山口百恵/南條豊 三浦友和/壇ふみ
武井「やっぱり拝さんは、そこですよね」
拝 「それに木陰で百恵ちゃんの水着生着替えシーンもあるんだ!
まるで?今の君はピカピカに光って?♪?」
武井「編集長、店員さんが見ています…」
拝 「ゴホ、ゴホ…
ところで、山口百恵をいじめる女学生、あれ浅野温子じゃない?太ってるけど」
武井「はい、そうです。かなりの悪ぶりで」
拝 「百恵ちゃんのスカート、めくっちゃうし!」
武井「拝さん、見るポイント、ブレないですね(笑)」
拝 「ところで、あの百恵ちゃんの通っている高校、見覚えあるんだけど」
武井「ドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』でも使った所です。
色々と同じロケ地が出てきますから、そちらでも楽しめる作品です」
拝 「そうなんだ。もう一回見てみようかな…
じゃあ、そろそろ“岸田森的視点”、ド?ンとよろしくね」
岸田森は、南條(南條豊)が赴任した学校の教師、松下を演じている。
この役は、岸田森にしては珍しく普通の役である。
これまで紹介して来た、ストーカーや殺し屋、やりたい放題の変な役で決してはない。
ともかく淡々とセリフをこなしている感じの役作りをしている。
多分、松下は歴史の教師だと思われるので、教職についている生真面目さを役作りした所、
見かけが単調になった(教職の方、失礼)という事かもしれない。
このような淡々とした調子で、
南條が来るまで問題のあるクラスを担当していて痩せてしまったと愚痴を言う。
この様子が、いかにも実際の学校では起きそうなシチュエーションでリアルなのだが、
元々岸田森が痩身という事を知っているためか、
状況にもかかわらずやつれた感じが無くて、しっくりこないのは残念だ。
学校関係のキャスティングは、校長先生に伊藤雄之助、
先生に岸田森、井上昭文という濃い俳優、
和田浩治、紀比呂子という青春的なイメージの配役がバランス良く配置されており面白い。
70年代映画の、役者層の厚さが味わえるキャスティングだ。
岸田森の扮する松下先生は、映画のところどころに出演しており、
セリフもそれなりにあるが、全体に見て、それほど目立つ事は無いというのが印象である。
見せ場は南條を糾弾する職員会議のシーン。
十数人の先生の中、黒木先生(井上昭文)と共に、淡々と南條を問い詰める。
役作り通り、感情に流される事なく淡々と質問をしてゆく。
だが、その喋り方とは裏腹に、質問内容がかなり強引、
実は興味津々で下世話な事が好きというのをにじませる話し方が見事である。
セリフの中にインテリ風を漂わせる事は、岸田森の得意の演技だが、このシーンでは全く逆の事をやっている。
普通の役に見せているのは、このような事を強調しようとしたからかもしれない。
岸田森らしい計算である。
拝 「岸田森さん、運動会のシーン、ジャージ姿だったね」
武井「あずき色で…岸田森さん、痩身だからジャージがちょっと…」
拝 「酒飲みの岸田森さんは、健康的なジャージが似合わないか…」
武井「他にも『スーパーGUNレディ ワニ分署』(79)や
テレビ『帰ってきたウルトラマン』の第4話「必殺!流星キック」でジャージになるのですが…ですね」
拝 「まあ、その話題は置いておいて…ともかく、珍しいほど普通の役だね」
武井「この時期の岸田森さんにしては、あまり無い役だと思います」
拝 「もしかして岸田森さんが百恵ちゃんのファンだった、なんて事、ない?」
武井「だったら面白いですね。会いたいから出演した、と。まあ、想像の域を出ないですが」
▼山口百恵主演作品劇場予告編集04エデンの海 - YouTube
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拝 「ところで、次回は何か考えている?」
武井「アイドル映画が続いたので、次回もそのような雰囲気の作品『斜陽のおもかげ』(67)なんていかがでしょうか?」
拝 「吉永小百合ちゃんの映画?」
武井「はい。岸田森さん、堂々吉永さんの相手役です」
拝 「それは楽しみだ。じゃあ、次回もこの居酒屋で」
と、帰ろうとした拝編集長は、おもむろに携帯電話をとった。相手は、奥さんらしい。
だが、ちょっと話すとまた席についた。
武井「あれ、帰らないんですか?
拝 「もう一杯飲まない?」
武井「いいですよ」
拝 「…実は今、家に電話して、これから帰って?カレーうどん?作るって言ったら、いきなり電話切られちゃったんだ」
編集長、それだと、カレー料理リメイク六日目になるんですが…
そりゃ、いくら温厚な方でも怒りますよ…いったいどれだけの量、作ったのか…
(次回に続く)
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