『合衆国最後の日』?シアターNのクロージングはアルドリッチの骨太エンタ!?

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早いものでもう11月。
酷暑の後の心地よい秋も、なんか一瞬で終わっちゃった…みたいな心地にひたってます…
はい、どうも殿井です。

そして、シアターN渋谷の営業も残り約一ヶ月

週頭に行った“シッチェス映画祭”ファンタスティック・セレクションの二本は、
前評判どおりの『レッド・ステイト』(11)
タイトル以外ほぼ情報無しで観たら勝手な予想とは全然違う面白さにゾクゾクさせてくれた『恐怖ノ黒電話』(11)
と、どちらも満足。
開催期間が一週間とタイトだったため観れなかった他の作品がとても気になっている。
勿論、大プッシュの『ザ・ウーマン』も過日あらためて堪能してきましたとも。

そして今週末の11月3日からはいよいよ同館のクロージング上映となる作品がスタートする。
襟を正してなんて言う気はさらさらないけど、最後までボクらのシアターNで作品を愉しもうぜ!

そんなわけで今回は、有終の美を飾るに相応しい骨太エンターテイメント!
『特攻大作戦』(67)、『北国の帝王』(73)などなど反骨と漢の娯楽映画で知られる
巨匠ロバート・アルドリッチ監督作品二本を続けてご紹介したい。

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まず1本目は、シアターN最後のモーニングショーとして公開される
77年製作の傑作ポリティカル・フィクション『合衆国最後の日』だ。


1981年11月、モンタナ州立刑務所を脱獄した4人の囚人が、
厳重な警備体制の隙をつきタイタンミサイル基地に侵入

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囚人たちの首謀者で設計にも加わり基地を知り尽くしていた
元合衆国空軍准将のデルは統制を乱した仲間の囚人1名を射殺後、 サイロ内を掌握するとシステムを外部から遮断、 当直将校を脅してミサイル発射キーも手に入れる。

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そしてデルはホットラインで繋がった合衆国大統領に、 現金1000万ドル、
エアフォース・ワン(大統領専用機)による国外脱出、 脱出の際に大統領自身が人質になること、
そして「NSC(国家安全保障会議) 文書9759」の開示の4項目を要求。

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これらの要求が、一つでも受け入れられなければ 共産圏に向けられている9基のICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射すると宣言する。

だが現職合衆国大統領さえも知らなかった機密文書の内容は、
公開されることで間違いなく合衆国政府の威信を失墜させるものだった。

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開示要求は断固として呑めない政府は、軍司令部マッケンジー将軍の指揮による、
デル達の抹殺作戦をすすめるが、あと一歩のところで作戦がデルにばれ、
デルはICBMの発射スイッチを起動させ…


日本での劇場初公開は77年の5月で、その時のプリントは125分版だった。
今回のリバイバル公開では、全長版の146分版が日本の劇場で初めてかかることになる。

もっとも146分版自体は、完全版を銘打ったビデオやDVDでは既に日本でも発売されていたことがあるので、
視聴環境を考えると、むしろこちらのヴァージョンの方が馴染みが深い方が多いのかも。

合衆国最後の日<2枚組特別版> [DVD]
合衆国最後の日<2枚組特別版> [DVD]

ボク自身初見はテレビの洋画劇場で、劇場では125分版は観たことがない。

その後のビデオ時代以降に繰り返しソフトで146分版を観てきたクチなので、
初公開時には20分あまりも切られていたという事実も今となってはちょっと想像がつき難く、
逆に初公開版も一度は確認の意味で観てみたい気がする。
フィルム・センターあたりに、当時のプリント残ってないのかしら?

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で、馴染み深いんじゃないかと書いた146分版だが、
これが実際にスクリーンで観ると緊張感・満腹感が全然違う!

同じくアルドリッチ監督作品の『ロンゲスト・ヤード』(74)等でも効果的に使われていた
スプリット・スクリーンはやはり劇場の大画面向き。

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ディスカッションにしろアクションにしろ、
同時進行で描かれる、サイロ内、ホワイトハウス、軍司令部、作戦現場等の描写が、
リアルなサスペンスを際立たせ、特に一連のデル抹殺計画やクライマックスなどでの
緊迫感は尋常ではないものがある。

ジェリー・ゴールドスミスによるスケール感のある劇伴もまた、それらを更に際立たせている。

そして“漢”の映画らしい実力派俳優たちの顔合わせも魅力的だ。

また彼らの精力的な活動故か、時代の空気のたまものかは定かではないが、
他にも“核戦争”がらみの作品に出演していた顔ぶれが少なくない。

核ジャックの首謀者デルを演じているのは、
娯楽作品からアート系まで、縦横無尽の活躍をしていたバート・ランカスター

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アルドリッチ作品には、『アパッチ』(54)等4作品に出演しているが、
同じく名コンビぶりで魅せたジョン・フランケンハイマー監督作品中、
冷戦期の核戦略を背景にしたポリティカル・フィクション『五月の七日間』(63)で、
政府の核禁止条約に反発しクーデターを企てるタカ派軍人という
思想的には本作とは逆のキャラを演じていたのが忘れ難い。

『カサンドラ・クロス』(76)もそうだが、軍服が実に様になってる。
本作では、軍服といっても潜入時に奪った軍の作業服なんだけどね。

五月の七日間 (SEVEN DAYS IN MAY(1964) ) 予告編- YouTube

デル制圧を指揮するマッケンジー将軍には、
犯罪者や冷酷なキャラを得意とする個性的なバイプレイヤーとして知られるリチャード・ウィドマーク

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彼の数少ない主演作品で製作も兼ねた『駆逐艦ベッドフォード作戦』(76)では、
冷戦下の北海で遭遇したソ連潜水艦を命令を無視して執拗に追い、
それがやがて危機的状況を生む駆逐艦の艦長を演じていた。
また続く『スウォーム』(78)でも、絵に描いたようなタカ派将軍を演じていた。

駆逐艦ベッドフォード作戦(1965) 予告編 - YouTube

脱獄囚役のうちバート・ヤングについては、
次記事で紹介する『カリフォルニア・ドールズ』でふれるとして、
デル同様元軍人の脱獄囚パウエルを演じているポール・ウィンフィールド

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彼は本作と同年の『世界が燃えつきる日』(77)で、
核戦争勃発時にサイロに勤務していて生き残るミサイル将校を演じている。

もっとも核で荒廃した世界で生存者を求めて“地獄のハイウェイ”(原題)をつき進んで行く途中で、
人喰い原子ゴキブリの群れに貪り食われて果てるのだが。

世界が燃えつきる日(Damnation Alley 1977) 予告編

また本作でデルたちの襲撃で拉致されるミサイル将校タウンを演じているのは、
『ガンマー第3号 宇宙大作戦』(68)、『緯度0大作戦』(69)等の邦画特撮作品でも御馴染みのリチャード・ジャッケル

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B級ジャンル作品に多数出演していた彼は、『大襲来!吸血こうもり』(74)では、
核戦争勃発により地下深くの核シェルターに連れ込まれる“選ばれし生存者”(これが原題)の一人として、
地下生活は体験済み。

もっともこちらでも、予想外の吸血蝙蝠の襲撃で快適に過ごすというわけにはいかなかったのだが。
(しかも実は核戦争は起きてなくて、極限状態への人間の対応をみるための実験だったという大襲撃され損なオチ)

大襲来!吸血こうもり(Chosen Survivors 1974)予告編

現職アメリカ大統領のスティーヴンス役は、
『クワイヤボーイズ』(77)でもアルドリッチ作品に出演しているチャールズ・ダーニング

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登場直後に陳述に来た高官とのやりとりで、政治家としての能力があることはうかがわせるものの、
基本根は正直で普通人的資質の好人物として演じており、それ故に職責の中での彼の苦悩と決意から、
それらをもいとも簡単に呑みこんでしまう国家それ自体の非情さが浮き彫りにされる。

その他、政府高官陣には、
『緯度0大作戦』等のジョセフ・コットン
『吸血鬼ブラキュラ』(72)等のウィリアム・マーシャル
『惑星アドベンチャー スペース・モンスター襲来!』(53)等のリーフ・エリクソン(…とまた恣意的な作品をあげてみたが)
など錚々たる顔ぶれが揃っているが、
中でも大統領の最大の政敵でありながら、
同時にその清廉な政治姿勢と政治手腕に大統領からの信頼篤い老練な国務長官を演じた
『チェンジリング』(79)等のメルヴィン・ダグラスの存在感が出色で、
政府高官陣の中でただ一人大統領から視線を外さなかった国務長官が最後に示す態度と表情は、
政治機構の強大な闇をヒシヒシと感じさせる。

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81年という時代背景は、製作時から4年後というまさに当時の現実の延長線上の極近未来。

そこで開示要求される機密文書の内容は、
アメリカという国家がヴェトナム戦争の遂行において国民を裏切り続けてきたというものだ。

この事実を暴露するために暴挙に出たデルと、
あくまで機密を堅持しようとする政府高官と軍部、
そして国家の代表として両者の間にたち、
自身はうかがい知らなかった陰謀のツケを突きつけられる大統領という、
対外的な敵は登場しないアメリカ内部の三者による対決ドラマが、
熱核戦争による人類滅亡の脅威を背景とすることでグッと重みが増してくる。

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表面だけ取りつくろいつつも、政策の名の下に陰謀をすすめる国家という図式は、
アメリカとか冷戦時代とかに限定せず、いやむしろ現在もそこここで見え隠れするものだろう。

むしろ、現在の我々はそれを信じられない裏切りだとは思うほど初心ではなく、諦観交じりに当然だと認識しているのではないか。

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それでも、だからこそ、
予言的ともいえるメッセージを、
あくまで王道の娯楽サスペンスという枠組みを踏み外すことなく、
建国200年で湧くアメリカで、真正面から国家に疑問を投げつけてみせた
アルトマンの怒りと、その裏返しの希望が、今だからより深く感じられるのではないだろうか?

なお本作の原作は『ダイ・ハード2』の原作に採用された『ケネディ空港着陸不能』等も書いている
ウォルター・ウェイジャーによるもので、劇場初公開時に邦訳書も出版されている。

合衆国最後の日原作.jpg

B000J8U3XM合衆国最後の日 (1977年)
ウォルター・ウェイジャー 田村 義進
徳間書店 1977-06

by G-Tools

この原作を読んでみると、デルたちが大統領に要求するのは、
身代金、エアフォースワン、大統領が人質の三つのみで、
映画版の肝ともいえるアメリカ政府の機密文書の開示要求というのは出てこない

逆に映画版にはなかったソ連軍のベルリンへの示威作戦等国際的な側面も登場するわりには、
映画版にあったハードな緊迫感が稀薄で、むしろ近年の核テロリスト・アクション的なノリに近い。

原作のアイデアの秀逸さは勿論素直に評価するが、
映画『合衆国最後の日』を原作以上に忘れ難いものに仕上げたのは、
やはりアルドリッチ(と脚本を書いたロナルド・M・コーエンとエドワード・ヒューブッシュ)個性と反骨精神によるものだろう。

邦題は同じながら、原作の原題が核サイロ固有名詞の“ヴァイパー・スリー”だったのが、
映画版原題がアメリカ国家の一節を皮肉をこめて引用した
Twilight's Last Gleaming(黄昏の最後の輝き)
に変わっていることからも、それは明らかなのだ。

▼「『カリフォルニア・ドールズ』?シアターNのクロージングはアルドリッチの骨太エンタ!?」に続く

ロバート・アルドリッチ予告編 - YouTube


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合衆国最後の日
TWILIGHT'S LAST GLEAMING
1977年/アメリカ=西ドツ/146min
配給:boid/提供:紀伊國屋書店、マーメイドフィルム/宣伝:VALERIA
2012年11月3日(土)よりシアターN渋谷にて最後のモーニング・ロードショー!他、全国順次公開!!

(C)1977 Geria Film GmbH(C)映画『合衆国最後の日』 All Rights Reserved.

映画『合衆国最後の日』オフィシャルサイト

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