こんにちは、印度です。
さて、今回は以前ちょっと触れた事のある、幻の韓国産怪獣映画「宇宙怪人ワンマグィ」について紹介しましょう。
この映画、恐らく日本人では余り観た人はいないのではないか、と思います。
昔々、まだネットもDVDも存在しなかった1980年代のこと。
まだ10代の少年だった私は、今も続く老舗の特撮情報誌「宇宙船」を愛読していました。ある日、「宇宙船」で当時連載していた「フラッシュ・ゴードンの思春期」という、20世紀の初頭からのSF・ホラー映画史を振り返るコラムを読んでいると、1960年代の韓国では『ヨンガリ』と『ワンマグィ』という二本の怪獣映画があった、と書いてあります。へぇ?韓国の怪獣映画、と思いましたが当時は海外、それも韓国の情報なんて手に入りません。一生見る事も無いだろう、とその時には思いました。
↑連載をまとめた単行本。「大特撮」と並ぶ名著
『ヨンガリ』については、その後海外でリリースされたビデオによって映像も見られるようになり、今では「カルトな怪獣映画の古典」としての評価も定着した感もあります。しかし、もう一つの『ワンマグィ』については、何の情報も無いままに月日は流れ、気がつけば21世紀になっていました。
そんなある日のこと、偶々ネットで調べ物をしていた私は、あるアメリカ人のブログに辿りつきます。
この人は、韓国に何年か住んでいた事があり、フィルムアーカイブスへ足を運んで色々な映画を観ていたようですが、その中にゴリラのような怪獣がビルの間に立っている白黒の写真と共に、「古いモンスタームービー」について書いてありました。これこそが、『ワンマグィ』だったのです。
その後調べてみると、近年でもプチョンのファンタスティック映画祭で上映されているとのこと。
更に韓国のフィルムアーカイブスである韓国映像資料院(KOFA)のウェブサイトには、収蔵作品の中に『宇宙怪人王魔鬼(ワンマグィ)』(1967)という作品があり、日本だと京橋のフィルムセンターに当るKOFAシアターでは数年に一度は上映されているようです(昨年の6月にも「ホラー映画特集」の中で上映されました)。
そして、シアターのスケジュールを見ると、何と!数ヵ月後に又上映される予定になっていました。早速、兄貴分でもある神武団四郎氏に連絡し、二人でまだ見ぬ怪獣映画について、あ?でもないとかこ?でもないと話している内にテンションが急上昇。
「じゃ行くか、韓国」
という話に。
こうして2006年の晩秋、往年の怪獣少年二人が玄界灘を超えて、韓国はソウルへとやってきます。ソウルに着くと、早速地下鉄に乗って街外れの南山にある映像資料院へ到着(この後2008年にソウル西部のワールドカップ競技場の近くへ移転しました)。
さて、夜の7時30分。資料院の地下にあるKOFAシアターで、いよいよ『宇宙怪人ワンマグィ』が始まりました。
モノクロ画面に宇宙空間にリングに棒を通したような形の宇宙船が浮かんでいます。中では、微妙に凸凹したメタリックな宇宙服を着たエイリアン達が韓国語で何やら話してる。当然ながら、字幕など出ないので会話は一言もわかりません。
その内にモニターに地球が見えてきて、軌道上を回る人工衛星を光線で破壊したりしつつ、毛むくじゃらのゴリラのようなクリーチャー(人間大)をカプセルで地球に投下。案の定、こいつらが侵略者なのでした。
ところ替って、地球上のソウルでは空軍のパイロット達が「何か変だぞ!パトロールだ!(と推測)」とF86セイバー戦闘機(記録フィルムの実機)で出撃。パイロットの中に主人公がいるのですが、この人、冒頭に出てきたっきりラストまで姿を現しません、何故?
しかし、空軍のパトロールも虚しく、ソウルのど真ん中に怪獣がド?ン!と出現。いきなりビルの真ん中にひょっこりと、ヒヒみたいな顔にマッシブな体をした怪獣ワンマグィ(劇中でこの名前が呼ばれているかどうか、わかりませんでした)ですが、等身大の時とは全然姿形が違います。
この辺、芸が細かいのか、韓国特有のケンチャナヨ(気にしない)なのか。
都市破壊は、やはり怪獣映画の華です。この映画では、それをじっくりと見せてくれるのですが、何か変。TV局を襲ったワンマグィ、屋上の大きなアンテナをウリャ?!と掴みますが、すぐに「ヤベッ!」って感じにそっと戻します。何で?
続いて、地面に落ちた看板を踏みつけようとすると、まるで「あ、違った」とでもいうように、そぉ?っと足を避けます。又々何で?
更に高層ビル(自分よりも高い)をガンガン殴りつけても、上層階しか崩壊しません。何度もブン殴った後、ガックリと肩を落として「ダメだ、こりゃ」とばかりに去っていきます。何でじゃ?!
ソウルの都市セットは結構精密で重厚に作り込まれており、ここをぶっ壊せば、なかなかの迫力になる、はずなのですが、随所で「?」な演出が続出。まるで、撮影中に「そこは壊すな!」とか「あ?頑丈に作り過ぎたな、壊れねぇや、他のものにしろ!」とか怪獣が指示を受けて右往左往している、ようにも見えました。
この他、主人公のフィアンセがワンマグィにさらわれて鷲掴みにされる、という「キング・コング」にオマージュを捧げたような展開もあります。しかし、気を失ったヒロインの胸がちょっとはだけたりすると、それを見たワンマグィが「ムホー!」と興奮!というトホホなシーンも・・・。
そして、極め付きはソウル市民が避難した後、食べ物を漁っていたホームレスの少年がヒロインをさらった怪獣に憤激して、ビルの屋上から怪獣の頭の上にダイブ! 耳の穴に入って鼓膜を破り、頭の中を横断(!)して、反対の耳の穴の鼓膜も破り、更に鼻の穴から落ちそうになって、鼻毛にぶら下がる(!!)という、後の『ウルトラマンタロウ』みたいなアナーキーな大活躍を見せます!!
(時系列的に言うと、『ウルトラQ』第7話「SOS富士山」のゴルゴスに乗っかるタケルみたい、と言うべきでしょうか)
何でも、この映画はエキストラを大量に動員して(一説には15万人以上!)撮影されたという事で、ソウル市民が軍に先導されてトラックで避難するモブシーンなどは大掛かりなものなのですが、全体として怪獣映画としてはチグハグな演出が目立ちました。
避難シーンの途中で、コメディアンと思しき二人組が延々と漫才のように見える会話をしていたり、高層ビルに避難した男が急に便意をもよおし、新聞紙の上ですましていると、ワンマグィがビルを殴ったショックでウ○コの上に尻餅をついて「ウゲ?!」とか、緊張感をぶっ壊すようなコミカルなシーンが突然入ってきたりします。
そんな事をしている内にも、空軍の爆撃、陸軍の砲撃、そして政府の要請による電力を集中させた高圧電線(お約束ですねぇ)作戦も暴れ回るワンマグィを食い止められません。一体結末どうするのか?
予想もつかないまま見ていると、突然F100スーパーセイバー(これも実機の記録フィルム)が登場! あ、主人公が乗っている、やっと登場だ、と思っていると戦闘機はワンマグィに体当たり! ショックで空中に放り出されたヒロインとホームレス少年は、パラシュートで脱出したパイロットが空中でキャッチ!(・・・)
炎に包まれたワンマグィは遂に倒されます。こうして半ば強引に映画は大円団を迎えたのでした。
上映時間約80分の内、かなりの部分が怪獣のシーンであり、力作と言えるでしょう。その反面、本編がシリアスなドラマ、笑い、感動など詰め込み過ぎて整理し切れず、無法地帯と化していました。
ヨンガリとは異なり、韓国スタッフのみで作られた純国産怪獣映画でもありますが、"怪獣映画とは何か?"を余り理解していないスタッフが暗中模索で作ったら、こうなったという怪作になっています。とは言え、怪獣映画が好き! 怪獣が出ていれば、多少の事は無問題!という方なら十分楽しめる、とは思いますが。
勿論、私と神武氏は「何じゃこりゃ?」とか言いながら、鑑賞後は本場のキムチチゲをつつきながら(11月末のソウルは寒かった!)、このスットコ怪獣映画の話で大いに花が咲きました。
こんな「ワンマグィ」ではありますが、現在の韓国の怪獣ファンにとってはヨンガリ、そして北朝鮮の生んだ怪獣プルガザリと共に朝鮮半島の三大怪獣として、我が国のゴジラやガメラのような位置付けにあるようです。『宇宙怪人ワンマグィ』は未だにソフト化された事は無く、80年代以降は韓国国内ではTVで放送されることも無くなったようですが、この三大怪獣のフィギュアも発売されており、かの国での知名度が伺えますね。
↑フィギュア。なんか可愛いよねぇ。頭のリボン(?)が…ますます「タロウ」テイスト
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