怪僧・岸田森がカッコイイ「鬼輪番」

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武「何だか、涙が出てきちゃいます

拝「お、格好いいコメントだねぇ!1周年がそんなに嬉しいノ?」

武「いや、そういう問題ではなくて…」
編集長は私の言葉を聞いてニコニコしている。
でも、ここにいると本当に目がしみて涙が止まらないんです。
それもそのはず、テーブルの上には、玉ねぎをスライスしたものが山盛りに置かれていた。
普通の居酒屋のメニューだったら、玉ねぎを何かに浸したりするものだが、何故か今日はスライスしただけのものなので、とても目にしみる。

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拝「あ、これ新玉ねぎ。今の時期は、何も手を加えなくても甘くておいしいよ」
と、山盛りにかけた削り節に醤油をかけまわして、美味しそうに食べだした。

武「今日の玉ねぎは、新鮮すぎるんですね。普段居酒屋で頼むオニオンスライスは、こんなに目にしみませんよ…あ!」

本日取り上げる映画は『鬼輪番』。つまり、"オニ"オンという駄洒落か…
そういえば、編集長は微妙に涙目になりながら、特選吟醸「"鬼"ころし」を美味しそうに飲んでいるし…
オニオンスライスは嫌いじゃないから、まあいいか。
ツマミながら、先へ進めよう。

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↑北米版。なんか、もうとっくに廃盤らしい

『鬼輪番』は、小池一雄原作、ながやす巧/やまさき拓味劇画の映画化。1974年2月に公開された。


人里離れた山奥にある鬼の森。
ここでは、幼い頃から非情な鍛錬を続けて、公儀隠密「鬼輪番」を養成していた。修行は過酷を極め、集められた子供たちは、ほんのひと握りしか生き残る事が出来なかった。
そんな修行を終えた渦彦(近藤正臣)、小法師(荒巻啓子)、地虫(峰岸隆之介・後の峰岸徹)、吹豆(水谷豊)、六地蔵(高峰圭二)の五人は、紀州藩が極秘に買い付けている外国製の武器の捜索を命じられた。紀州藩の謀反を阻止するために、武器を破壊しなければならないのだ。
だが、紀州藩には「鬼輪狩り」として悪名高い横笛将監(佐藤慶)がおり、これまでに何人もの公儀隠密が犠牲になっていた。そんな潜入すら難しい紀州藩に、渦彦ら五人は挑んでいった…。

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映画版『子連れ狼』に多分に影響を受けた、スプラッタやエログロ描写が詰まった作品である。

『子連れ狼』は、大映→勝プロダクション、という流れの上で培われた撮影技術で、血しぶきが飛び交うスプラッタ描写も、陰影に富む映像美で見事に描き切っていた。
本作は、それらとは違い、東宝と国際放映、つまり東宝と元の新東宝からの流れで製作されたもので、その分映像表現が、『子連れ狼』などと比べると、幾分上品(?)なのが特徴である。
だからと言って、描写には手加減がなく、腕が飛んだり眼がつぶされたりする、マカロニウエスタン顔負けのスプラッタ描写も、きっちり見せている。

監督は坪島孝
植木等らクレージー・キャッツを主役にした東宝=渡辺プロ製作の映画を何本も監督している。その監督が、正反対の作風の作品を監督していのが面白い。

内容的には、登場する鬼輪番たち五人の、文字通り命をかけた困難な任務へ突き進む様が見どころ。任務のためには命を簡単に捨ててしまう壮絶さは、小池一雄原作作品の特徴ではあるけれども、映像化すると、その凄惨な末路がより強調される。
終盤、鬼輪番たちは、地獄谷に追いつめられて兵糧攻めにあう。この持久戦中、拷問により体力が落ちていた峰岸隆之介が、自らの腹を裂き、その血を仲間に与えて乾きをいやさせる。このように、人間性を捨てた極端なストイックさが、本作品の面白みである。

拝編集長「この作品のB級テイスト、たまらないネ」

武「拝さんが好きそうな映画です」

拝「鬼輪番たちの、妙に熱いキャラクターも楽しいじゃない。生きざまが壮絶で」

武「佐藤慶さんの屋敷、からくり屋敷みたいで凄かったです。全体がトラップだらけ」

拝「それに、荒巻啓子さんよかったね。新人なんだよね(当時)滅多矢鱈と脱いでいたし」

武「また、そこですか…」

拝「それに、顔立ちが地味で貧乳なのが、またリアルというか、乳は揺れないけど男心を揺さぶるというか…」

武「はいはい。ずっと揺さぶられていて下さい」

拝「ところで、女がいる暗殺集団で、子供のころから育成されている…話というと、なんだか『あずみ』みたいだね」

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↑荒巻啓子の微乳も幸薄い感じもないあずみ。関係ないけど

武「『鬼輪番』の企画を担当している山本又一郎さん、実は映画『あずみ』のプロデューサーなんです」

拝「そんなんだ、知らなかった!。『カランバ』とか『ベルサイユのばら』なら知ってるけど…。
じゃあ、そろそろ"岸田森的視点"ド?ンとよろしく」

岸田森は、紀州藩に潜入している幕府に通じる僧、玄海を演じている。
役柄が二転三転する、岸田森らしい役柄である。
説明しづらいので、以下にまとめてみると、

・最初は、紀州藩に潜入していた公儀のスパイ
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・紀州藩に潜入して来た渦潮(近藤正臣)たちに、新型鉄砲のありかを知らせる。
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・実はそれはニセの情報。信じた鬼輪番たちは、捕えられ拷問にかけられてしまう。紀州藩側に寝返って、鬼輪番たちを売った事で信用を得る。
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・だがそれは、新型武器の隠し場所を見つけるための非情な芝居。
死んだように見せかける術で、仮死状態になり葬られた渦彦を、密かに掘り起こして蘇生する。
・しかし、紀州藩鬼輪狩り、横笛将監(佐藤慶)に、狂言を見抜かれてしまう。
襲撃を受けひん死の状態で、渦潮に本当の武器の隠し場所を伝え、息絶える。

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という感じだ。
つまり、裏の裏の裏をかいて、結局見抜かれて殺されてしまうという、複雑な立場の役柄である。
普段から僧侶の姿をしているが、髪型は現代風という、少し違和感がある恰好なのが面白い。任務を遂行するためには、犠牲もいとわず命をも投げ出すというストイックさを見せる役である。

この作品で、岸田森は初めて水谷豊と共演する。
二人は、この映画と同じ年、テレビドラマ『傷だらけの天使』で共演、その後岸田森が逝去するまで公私にわたって交友が続くことになる。
『傷だらけの天使』の撮影の時に、水谷豊によると、こういう事があったそうである。

水谷豊が「前にこの映画でお世話になりました」と岸田森に挨拶をした所
「(映画の事は)知らない!」と言われた。
何故なのかはわからないが、あまりにもはっきりと言われたために、水谷豊は、その後この映画の事には触れなかったという。

拝「この映画の登場人物、全員ストイックだね」

武「笑いがない」

拝「それでかな…DVDが、日本未発売なのにアメリカでは発売されているのは。
もしかしたら、このストイックさを、日本の武士道と勘違いしているかもしれないね」

と、そこに店員が料理を持ってきた。編集長によると〆の料理だそうだ。
でも、料理といっても、皿の上に大盛りに載ったオムスビだが…

拝「はい、"おに"ぎり。やはりラストは炭水化物でしょう!」
というと、むしゃむしゃとオニギリを食べ始めた。
また"オニ"だ…ま、いいか。一ついただきます。

拝「ところで、次回作は何か考えている?」

武「う?ん、どうしましょうか…」

拝「…そういえば、この作品の同時封切作品には岸田森さん、出ていないの?」

武「確か、勝プロ製作『御用牙 鬼の半蔵やわ肌小判』です。凄い劇画二本立てですね」
拝「じゃあ、次も劇画で行ける?」

武「そうですね…子連れ狼シリーズ、もう一本出演しているので、それで行きましょうか」
拝「『子連れ狼 親の心子の心』か。それ、よろしくね。じゃあ、次回もこの居酒屋で」
武「はい」


写真の状況説明は以下の通り
1 鬼輪番たちとの出会い
2 2鬼輪番たちに、ニセの情報を与える
3 罠に堕ちた鬼輪番たちの前に現れる
4 狂言がばれて襲撃、ひん死の重傷のまま川へと飛び込む


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