『フェイシズ』
FACES IN THE CROWD
2011年/アメリカ=フランス=カナダ/102min
配給:日活
2012年5月12日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー!
(c)2011 Faces Productions Inc., Faces Productions Manitoba Inc.,Forecast Pictures S.A.S., Radar Films S.A.S.U.All rights reserved
オフィシャルサイト:http://faces-movie.com/
女を殺して、レイプしてから泣くシリアル・キラー“涙のジャック”。
その凶行を偶然目撃してしまった女教師アンナは、“ジャック”にナイフで切りつけられ、橋梁に頭を打ちつけながら河面に落下していった。
病室で目覚めたアンナは、自分が1週間の昏睡状態を経て意識を取り戻したことを、とても親しげなでも見知らぬ人から聞かされる。そう、アンナの絶望的な苦悩と本当の恐怖は、この時幕をあけたばかりだったのだ。
ミラ・ジョボビッチが、恐怖と不安に慄く非力で等身大のヒロインに扮したサスペンス・スリラー。ちょっと、そこ!何笑ってんのよ。まぁ、気持ちは判るけどな。
映画デビューは88年の『トゥー・ムーン』と、女優としてのキャリアも四半世紀に迫らんとするミラは、それなりに幅広いジャンルに出ている。
だけどやはり印象が強いのは、ベッソンと組んだ出世作『フィフィス・エレメント』(97)に『ジャンヌ・ダルク』(99)、カート・ウィーマー監督の『ウルトラヴァイオレット』(06)、そして01年に第1作が作られ、今夏公開予定の最新作で5作を数える『バイオハザード』シリーズのアリスと内容は関係無いのに同じにしか見えない『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』(11)のミレディと、やはり“アイ・アム・バトル・ヒロイン”な艶姿ばかり。
一見華奢でも、シリアル・キラーの一人や二人、瞬殺できないわけがないじゃん…みたいな(笑)。
そんな本作のヒロイン、等身大のアンナに課せられた新たな試練こそ、個人的には本作で初めて耳にした症例である“相貌失認”だ。
これは脳障害により、人の顔や表情が判別できなくなってしまうもので、目の前にいる人物やそれこそ鏡に映った自分自身の姿でさえ、瞬きをした瞬間にその姿の記憶はリセットされ、逢うときはいつでも、誰でも、必ず他人状態となってしまうのだ。
実は冒頭に記した病室で目覚めたアンナに親しげに状況を説明してくれた見知らぬ者も、実際にはアンナの二人の親友と、彼女の恋人だったのに全くそれがわからない。
冒頭部分で、アンナがfacebookにはまっている様子が描かれているが、そんな行為にも垣間見られる彼女の世界の中心が脆くも崩れ、究極とでもいうべき孤独と不安に呑みこまれたわけだ。
さらには、しっかり目撃した犯人の顔も識別できないという、現実面での生命の危機にさらされ続ける。劇中ではこの症例を表現するため、アンナが瞬きし、視線を変えてゆく度に、特定キャラクターを演じる役者がどんどん変わっていく。正直いうと、あまり人の顔を覚えるのが得意ではない自分にも、この目まぐるしいまでのカオス表現は映像自体も刺激的であったし、アンナの不安と恐怖を同時に体感できるものとなっていたように思える。これでは、バトル・ヒロインであったとしても、とても活躍できるような状況じゃないわな。
サスペンス映画の系譜の中には、古くは『らせん階段』(45)でハンディキャップを持った者ばかりを狙うシリアルキラーの標的にされたドロシー・マクガイアが演じる聾唖の娘(75年のリメイク版では、ジャクリーン・ビセットが演じた聾唖の人妻)あたりを代表に、『暗くなるまで待って』(67)のオードリー・ヘプバーン、『見えない恐怖』(71)のミア・ファロー、『ジェニファー8』(92)のユマ・サーマン等の盲目美女が味わう恐怖譚や、その変奏曲としての角膜移植もの『瞳が忘れない/ブリンク』(94)のマデリーン・ストーなどなど…。ハンディキャップ・ヒロインとでもいうべき流れがある。
↑「暗くなるまで待って」。音楽はヘンリー・マンシーニ。
ハンディキャップは、(映画のみの幻想かもしれないが)ただ女性であるだけで、か弱く無防備なヒロインを、より危うい立場に追いやることが多いが、例えば『暗くなるまで?』のヘップバーンが、照明を壊した真っ暗闇(=彼女の日常)の中で犯人たちより普通に立ち振る舞えたりといった逆転現象が描かれたりと設定の妙を活かしたものも少なくない。
そんな系譜の最新作とでもいうべき本作でも、主眼は勿論判別不能の犯人からの脅威を描いたサスペンスだが、周囲の認識手段を絶たれた彼女がもう一度世界を捉えていこうとする試行錯誤や姿も同時に描かれていて興味深く、ミラにとっての新境地は案外悪くない感じだ。
ミラ以外のキャストでは、“相貌失認”の専門医ランゲンカンプに、『あの胸にもういちど』(68)等でかつてのミューズであり、現在もバイ・プレイヤーとして活躍しているマリアンヌ・フェイスフル。事件を追う刑事ケレストに『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』(05)及びその続編でDr.ドゥームを演じていたジュリアン・マクマホンといった布陣だ。
監督・脚本は赤毛の女吸血鬼ハンターが、爆破のプロのドラッグ・クイーン、口のきけないエスパー少女と共にヴァンパイア軍団と戦うアクション・ホラー・コメディ『ブラッディ・マロリー』(02)のジュリアン・マニャで、アニメの仕事をはさみ実写監督作は本作が2作目だ。
◎Bloody Mallory予告編→http://www.youtube.com/watch?v=EPi4joIVS4k
日本のアニメが大好きで、川井憲次に音楽を依頼した『?マロリー』は、溢れるヲタク趣味と稚気もご機嫌な怪作だったけど、本作はアンナと親友たちの適齢期を過ぎた女性の生っぽい姿や会話などに、マニャ君も大人になったのかね?と、妙なところで感慨深かったりして。
予告編
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