『コラボ・モンスターズ!! 』は、映画だったらシアターN渋谷でかかるような(つまり当サイトを好んでくれそうな方むけ)な作品とかをディープに扱う日本で唯一のトラッシュ・カルチャー・マガジン『TRASH-UP!!』と、3人の映像クリエイターとのコラボ企画で、新作3作品が一挙上映される。
3人のクリエイターとは、『運命人間』(04)、『グロヅカ』(05)等の西山洋市、『トワイライトシンドローム デッドクルーズ』(08)、今夏の公開を控える『Another アナザー』(12)等の古澤健、そして小中千昭と並びJホラーを脚本面から確立した『リング』シリーズ等の脚本家で、自身も『恐怖』(09)等を監督した高橋洋という三監督だ。
恣意的に作品を並べてみた3監督の新作は、それぞれの味わいは異なるも、実は普通の意味でのホラー作品はない。
またこの3人は、本作の配給・製作元でもある映画美学校の講師であり、本作は受講生とのコラボレーションというこれまでも同校で行われてきた活動を、より過激にプロとアマとのタッグにより新たな娯楽映画を生み出さんとするムーヴメントへ変えていこうとしたものだ。その宣言を映像でどうぞ。
◎コラボ・モンスターズ!! 宣言@恐怖バー
それでは試写で上映された順に三作品を紹介しよう。なお3本の上映時間は、西山、古澤篇がそれぞれ27分、高橋篇が47分となっている。
西山洋市監督の『kasanegafuti』は、三遊亭圓朝の怪談『真景累ヶ淵』を翻案した現代犯罪メロドラマ。
◎『kasanegafuti』予告篇2
恋人の真からのプロポーズを、「貴方と結婚すると父が不幸な死に方をする」と受けようとしない豊。だが豊の妹の園によれば、父は既に殺されているという。混乱する真は育ての親である叔父から、真の父こそ姉妹の父を殺した男だと知らされる。
そして、真は二人の家に現れた男を豊から父だと紹介される。それは真の父だった…。
西山監督自身のコメントによれば、コンセプトは「髷を着けない時代劇」とのこと。長屋を思わせる二人の住処、真の傍らの一升瓶、合の手囃子風な音楽などは、言葉の額面通りの味わいだが、死者の怨念や因果応報といった部分には劇中で直接触れることなく、想いと錯誤の果てのメロドラマは怜悧である。
ヒロイン豊には、インディーズ作品に多数出演し、近日公開の『先生を流産させる会』(11)ではタイトル・ロールの女教師を真剣勝負で演じていた宮田亜紀が、本作でも鬼気迫る熱演ぶりを披露している。
古澤健監督の『love machine』は、2010年公開『making of LOVE』に続く男の「LOVE道」第2弾とのことで、監督自身も主人公の親友役で出演している。
◎『love machine』予告編
理想の女性を求めて、日夜気になった相手にアタックし続ける佐伯。見かけはごく普通の男だが、その女性への想いは本気を超越した本能だという。その本能は親友内藤の妻・陽子にも向けられるが、佐伯の果敢なアタック中に、陽子は車に轢かれ死んでしまう…。
『泪壺』(08)等の小島可奈子が演じる陽子が兎に角キュート!
ライト感覚に楽しめるスラップスティック・ラヴ・ファンタジーながら、情と本能についてとか、ドキリとし考えさせられちゃう部分もあり。
高橋洋監督の『旧支配者のキャロル』は、本企画自体をそのまま映画化したかのようなメタな作りの人間ドラマ。
◎『旧支配者のキャロル』予告編
映画学校の卒業制作作品の監督に選ばれたみゆきは、講師であり女優の早川ナオミに作品への主演を依頼する。そして卒業制作作品『旧支配者のキャロル』の撮影はスタートするが、ナオミの現場に対する要求、指示は高度かつ過酷で、みゆきは強烈なプレッシャーにさらされ…。
講師(プロ)と受講生(アマ)、そして受講生同士の中でも作品に関わる自分の立場を優先するもの者と滅私で取り組もうとする者、作品の精度を第一に考える者と予算・日程等の制約の中で完成こそ目標と考える者等、思惑と確執が渦巻いている撮影現場。
そうした中での、撮影の日々をまさに肉体・精神両面での闘いのドラマとして描いた本作は、兎に角作品全編に漲る緊張感が尋常ではなく、瞬きすることさえ許されないような47分を体感させられる。
重々しく過剰な音楽も相俟って、内容は全くホラーじゃないのに、ホラーを観ていたとしか思えないような感覚になることは間違いなし。でも、陳腐な表現になってしまうが、根底に流れる“映画愛”は隠せない。それは全然、甘ちょろいものではないのだが。
『映画宝庫V3』的にはやはり『仮面ライダー電王』の野上愛理ということになるんでしょうか(僕は見たことないんだけど-苦笑-)…な野上愛理が、主人公のみゆき役で徹底的に追い詰められ、疲弊させられ、それでも映画という怪物に向かっていく姿を熱演。
容赦なく受講生を追い詰めるナオミ役は、前述の“コラボ・モンスターズ!! 宣言”も謳いあげている中原翔子、みゆきを支えようとするも、逆にみゆきから“奴隷根性”呼ばわりされちゃう受講生・村井役の津田寛治らベテラン演技陣の個性も、ドラマに厚みを与えている。
因みに怪奇・幻想小説ファンなら御存知かと思うが、タイトルの『旧支配者のキャロル』はクリスマス・キャロルの替え歌に由り、それはクトゥルー神話の古きものどもの到来を待望し讃える曲である。
◎The Carol of the Old Ones
三本を通して観終わった感覚では、以前に観た映画美学校の同趣向の作品に持ったシネフィル実験作的な匂いよりも、きっちりしたエンターテイメントとしての面白さを感じた。
勿論宣言で謳われている“異物感”を全く感じないってことじゃないのだが、ジャンルの越境等のチャレンジ精神を発揮しつつ、エンタメとしての部分を疎かにしてないのが、ぢつに巧妙だなぁと。
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