今回は前回の補足として、ツイ・ハークの旧作を紹介しよう。
『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』(オフィシャルサイト:http://www.dee-movie.com/)では、「祝"香港のスピルバーグ"完全復活!!ツイ・ハーク決定版はこれだ」(http://www.dee-movie.com/enq/enq.cgi)と題して、投票イベントを開催中だ。
んでここに候補としてあがってるのは、やっぱり前回それぞれ予告リンクを貼ったポピュラーな3シリーズが中心なんだよね。勿論、それに異論を唱えるわけではないし、大人の事情もあるんだろうなとは思うけど、個人的にはこれらだけじゃないだろうという気持ちが結構強いので、ポピュラーなプロデュース・シリーズは除いて、独断でセレクション。
ちょっち気合入ってるので「監督作品編」と「プロデュース作品編」の2回連続になってます。
この次期の香港映画は、ジェネオン・ユニバーサルから期間限定の廉価版DVDが出ているものが比較的多く、前述の『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』シリーズ、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズ等は、比較的最近廉価版再リリースされたばかりで容易に入手しやすいのだが、期間限定廉価版の場合その販売期間が終了すると途端に市場から姿を消し、プレミアがついてしまうものも少なくないので注意が必要(『男たちの挽歌』シリーズも再発されたばかりな印象だったが、もうプレミア・タイトルなのね)。
で、実は今回紹介する作品は、既に発売期間が終了しているDVD・廃盤DVDがほとんどなのだが、苦労してでも観る価値のある、傑作・快作・怪作ぞろいだ。気になる作品があれば、レンタル・中古・オークション等で探してみてはいかがだろうか?また、販売期間終了中の期間限定廉価版だと今はプレミアがついていても、次の廉価キャンペーン時にいきなり復活することも少なくないので、ウォッチ・リスト等にタイトルを入れておくだけでも、地道な努力として結果が出る時もあるよ。
【ツイ・ハーク 監督作品】
『蜀山奇傅・天空の剣』 (1984)
◎Zu Warriors From The Magic Mountain
戦乱にまみれた中国。純粋な青年兵士メンキ(ユン・ピョウ)は、霊峰・蜀山で世界征服を狙う邪悪な血魔一族との戦いに巻き込まれる。偉大な仙術使いチョンメイ道人(サモ・ハン・キンポー)から世界を救う二本の剣について教えられたメンキは、剣士や僧侶たちとともに剣の探索に向かうのだが…。
正直に書くと、これからはじめてこの作品に接することになる映画ファンには、この作品の凄さは伝わり難いかもしれない。当時ハリウッドのスタッフを招聘して描いた光学合成も、CG全盛の現在(01年にツイ・ハーク自身の手で作られた続編『天上の剣 The Legend of ZU』も、CGとVFX全開の作品になっていた)では、プリミティヴにすら感じるだろうし、ワイヤーワークと特撮を融合させたファンタジーは今では星の数ほど存在する。
でも、それらの元祖は、間違いなく本作なのだ。実際僕と同年代のファンタ系作品ファンなら、日本では85年の第1回東京国際ファンタスティック映画祭にて初上映され、その翌年東映邦画ロードショー系劇場で全国公開されたこの作品で、香港映画の流れが確かに変わったことを実感した者は少なくないはずだ。
また、特典映像でユン・ピョウが思いで深いシーンとしてあげている、100人の仙女が一斉に舞い上がる場面は、ワイヤー・アクションの到達点とでもいうべき名場面だ。
日本版DVDはジェネオン・ユニバーサルより今年の1月に廉価版が再発されたところなので、今なら然程苦労せずに入手可能(レンタル版は昔のビデオのみ)。
『上海ブルース』(1984)
◎Shanghai Blues 上海之夜
日中戦争中の上海、場末の道化師をやめて戦争に行く決意をしたドレミ(ケニー・ビー)と、クラブ歌手のシュウ(シルヴィア・チャン)が空襲の晩に橋のたもとで出会った。夜闇の中でお互いの顔も判らず、名前も知らない二人だったが、惹かれあい戦争が終わったらこの場所で再会することを約束して別れる。
終戦後上海に戻ったドレミが住むことになったアパートの下の階の住人は、偶然にも再会を約束したシュウだったのだが、互いにそのことに気づかぬまま暮らし始める。
ツイ・ハーク版『哀愁』or『君の名は』とでもいうべきロマンチックなメロドラマで、行くところがなくシュウのところに居候することになった田舎娘"踏み台"を交えて、すれ違い状況&三角関係がコミカルに描かれる。
つうかシュウよりも、"踏み台"を演じるサリー・イップの陽性な魅力とコメディエンヌぶりが、最高にキュートなのだ。
またシュウが勤めるクラブの雑用係を演じているのは"香港の薬師丸ひろ子"ことロレッタ・リー。
後にヘアヌード写真集を出し『ロレッタ・リーの ハード・ロリータ/禁断の果実』(93)等セクシー路線に転向する彼女の、真正おぼこ娘っぷりも注目だ。
日本版DVDはワーナー・ホームビデオより05年に発売され、翌06年に一度廉価版も出たが品切れ中。ただレンタル版の扱いもあるので、大規模店等なら在庫があるかと。
『北京オペラブルース』 (1986)
◎Peking Opera Blues 刀馬旦
辛亥革命で揺れる中国。
軍長官を父に持ちながら袁世凱を失脚させるためにレジスタンスに協力するチョーワン(ブリジット・リン)、貧乏暮らしからの脱出を夢見る場末の歌手ソンホン(チェリー・チャン)、女人禁制の京劇の舞台に立つことを夢見る座長の一人娘バッナム(サリー・イップ)。
ひょんなことから出会った境遇も性格も生き方も全く異なる三人の乙女たちは、波乱に満ちた冒険に身を投じていく。
ツイ・ハークの最高傑作の呼び声も高い、青春アクションドラマ。
『ディー?』が完全復活作であることは認めるけど、やっぱりこの奇跡の映画には敵わない。
見目麗しく男装の麗人に扮したブリジット・リン、女を武器にするチャリー・チェン、御本人のインタビュー曰く自分と同じくガサツな田舎娘役だったというサリー・イップ。三美女の競演によるドラマは、希望と多幸感に満ちている。
またチン・シュウトンによくアクション設計も冴え、二階建ての舞台に吹抜けの客席という京劇場"広和楼"の空間設計を活かした脱出劇は特に見物だ。
また製作順は前後するが本作のラストで、中国各地に旅立ったキャラクターのその後的な裏設定で『上海ブルース』ともリンクするそうだ。
ジェネオン・ユニバーサルから出た日本版DVDは、08年に廉価再発版が出たものの現在は品切れ中。でもこれ、サリー・イップの当時を振り返ってのインタビューとか、音楽担当のジェームズ・ウォンが歌手としてのサリーについて語るインタビューとか特典も充実なので、ファンならプレミア分払っても入手すべき逸品だ。レンタルは昔のビデオのみ扱いあり。
次回へつづく
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