*今回は新年初コラム記念で対話アイコン形式でお送りいたします
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくお願いするのだ」
「今日取り上げるのは、岡本喜八監督の『斬る』です。三隅研次監督の『斬る』と間違えないで下さい」
「どちらも面白い作品だよ。三隅監督の方は柴田錬三郎原作だし…」
テーブルの上には(写真に合わせてピザの名前)ピザがのっている。結構大きいサイズで美味しそうだ。
でも、何故ピザなのだろう…
「いや、別に意味は無いよ」
「珍しいですね。初めてじゃないですか、こういうの」
「こっちだって、毎回考えるの疲れるしね。じゃあ、ピザ食べようよ」
と言いながら、ピザカッターを手に取った。先端が車輪のように回る奴だ。
↑こんなお洒落なカッターも。まるで「トロン」のような…
「じゃあ、これ?切る?ね」
と、嬉しそうにピザをコロコロと切り出した。
…ここで、なんとなく気付いてしまった。
多分これなんだと。
もしかしてと思うんですけれども、漢字間違っていませんか?
?切る?じゃなくて?斬る?…
ま、いいか。先に進めよう。
『斬る』は、1968年、東宝で製作された山本周五郎原作、岡本喜八監督の時代劇作品である。
天保四年、上州小此木領にふらりとやって来たヤクザの弥源太(仲代達矢)は、青年武士たちが城代家老を暗殺する現場に遭遇する。
小此木藩は圧政によって人々の不満がたまっており、そんな状況を見た青年武士たちが、腐敗政治の元凶である家老を斬ったのだ。
青年武士たちは砦山に立てこもり、江戸にいる藩主の裁決を待つ。
一方、次席家老鮎沢(神山繁)は、浪人たちを集めて砦山を襲わせた。
そしてこの一件を、私闘とみなして、討手の浪人と青年武士、両方とも全滅させ、これを機に権力を掌握しようと企んでいた。
この作品の最大の特徴は、1962年に公開されて大ヒットした黒澤明監督作品『椿三十郎』とかなり雰囲気が似ているという点だろう。
そのために両監督の資質の違いが見事に現れていて、重厚な黒澤明の演出では味わえない、岡本喜八の軽快さが存分に味わえる作品に仕上がっている。
荒れた宿場で吹きすさぶ砂嵐の描写など、人が吹っ飛ぶくらいのオーバーな描写で、コミカルにさえ見えるのが面白い。また、佐藤勝が作曲したテンポ良いテーマ曲も、いかにもマカロニウエスタン調の軽快なものである。
仲代達矢が演じる弥源太は、過去に起きた事件のために、侍を捨てヤクザになったのだが、そこに、侍になりたい百姓、半次郎(高橋悦史)という対照的なキャラクターが絡んで展開してゆく。剛直な半次郎、飄々とした弥源太、二人の掛け合いが実に面白い。
仲代達矢の飄々とした演技は、他の監督作品ではまず見られないものだ。
脇を固めるキャストも、
青年武士の中村敦夫、地井武男、久保明、久野征四郎、中丸忠雄
飄々としているが鋭い和尚に今福将雄
討手の浪人に、岸田森、長谷川弘、中山豊
次席家老の配下に、黒部進、天本英世
と、岡本喜八作品の常連が大勢賑やかに登場、数多く登場する集団を、これらアクの強いキャスティングで無理なく裁いており、その手際の良さが際立っている。
黒澤作品と同じような物、という要求に、岡本喜八監督は自らの好みを存分につぎ込んで、見事に自分の作品にしてしまったといえるだろう。
「岡本喜八監督は、前年に東宝映画35周年記念大作『日本のいちばん長い日』をヒットさせていますが、その翌年に、これだけの娯楽映画を作っています」
【予告篇】日本の一番長い日 投稿者 Rui_555
「シリアスな大作の次は娯楽作品、ものすごい差だね。しかも、両方とも面白い」
「宿場はまるで西部劇のゴーストタウンですし、仲代達矢がリンチを受けるシーンなんて、マカロニウエスタンそのものです」
「西部劇のテイストが溢れているね、この作品」
「飄々とした登場人物が多いのも、いかにも岡本喜八監督作品らしいです」
「投げられた火箸を、竹光で受け止めるシーンが面白かったね。刀じゃなくて竹だから刺さっちゃう。あれは笑った」
「魚をたべている猫を、仲代達矢がひょいと跨ぐ所なんて、粋でおかしかったです」
と、そこに店員さんが料理の追加を持ってきた。
牛バラ二人前の焼き肉。メニューになかったので、無理して居酒屋に頼んだものだろう。
拝「これ、韓国風にハサミで?切る?んだ」
と言いながら、ニコニコしながら肉を切り刻みだした。
やっぱり漢字を?斬る?と間違っている…。
「これ、結構おいしいな…じゃあ、食べながらでいいから、いつもの?岸田森的視点?ド?ンとよろしくね」
岸田森は討手浪人の組長、荒尾十郎太を演じている。
次席家老鮎沢多宮(神山繁)が、砦山に立てこもった青年武士を討つために集めた浪人たちの組長を引き受ける。
浪人たちの報酬は士分だったが、一人、十郎太は斬った人数分の金を要求した。
それは女郎屋に売られてしまった、許嫁のよう(田村奈巳)を買い戻すためだった。
そのために、ストイックに自分を律しながら浪士隊を率いる。
だが、鮎沢の謀略で、立てこもった青年武士共々攻撃を受け、討ち死にしてしまう。
クールに見えて、実は人情味に厚いという儲け役である。
配下の浪人たちが謀略の犠牲になり、全員いきり立つ中「討手の隊長は、オレが斬る!」という啖呵を切るという、なんとも恰好の良い役だ。
↑すいません。以前の使い回しです
しかも、その討手の隊長(黒部進)に銃や矢で射られながらも突進、もう少しという所で斬れない、無念の討ち死にを遂げるのだ。
岸田森の、剣道三段の腕前を存分に活かした剣道の稽古シーンが素晴らしい。
右手一本で木刀を持ち、向って来る浪人たちをきっちり打ちすえて行く。しかも、これが登場シーンだからファンにはたまらない。
『斬る』は、岸田森が初めて出演した岡本喜八監督作品である。その後、1982年に急逝するまで、ほとんどの岡本喜八作品に岸田森は出演を続け、毎回個性的な演技を見せてくれることになる。
「『斬る』が公開された1968年は、この作品以外にも岸田森さん『怪奇大作戦』に出演しています」
↑時代劇専門フィギュアメーカー「アルフレックス」謹製の牧フィギュア
「そうなると、実相寺昭雄監督と初めて組んだのもこの年なんだ…」
「円谷プロダクションとも、この年が初めてです」
「岸田森さんの芸歴にとって、本当にターニングポイントの年だ」
「ところで次回ですけれども、また岡本喜八監督作品で行きたいのですが…」
「そうだね。じゃあ映画宝庫V3らしく『座頭市と用心棒』はどう?」
「大物キャラクター同士の激突作品。これは面白いと思います」
「じゃあよろしくね。次回もこの居酒屋で」
と、そこに店員さんが料理の追加を持ってきた。
「たこやきですね…」
「はい、楊枝。素人は?切る?よりも?突く?だね」
たしかにこんなセリフ、この映画にあったような…ま、いいか。
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