時間の経つのは早いもので、松の内からずいぶん過ぎてしまいましたね。
明けましておめでとうございます。印度です。
昨年のカナザワ映画祭レポに引き続き、2012年1回目は、
去年の”ジャンル映画”シーンを
「SF」「アメコミ」「ファンタジー」「戦争映画」
の各視点でプレイバックしてみました。
さらに今年の”ミリタリー”ファン期待の作品なども合わせてどうぞ。
●地球は狙われていた!‐侵略SF大豊作
2011年は侵略SF映画が豊作でした。
「スカイライン/侵略」と「世界侵略:ロサンゼルス決戦」のような直球勝負のストレートなものから、
「E.T.」へのオマージュ溢れた「SUPER8」、
西部劇と侵略SFとのジョイント企画(アメコミ映画でもありますが)「カウボーイ&エイリアン」などなど百花繚乱。
好きな者にはたまらない状況だったと思います。
そんな中、私が注目したのは「モンスターズ/地球外生命体」でした。
低予算・ノースターの映画という点では「スカイライン」と同じですが、
あちらがエイリアンの侵略を中心に据えていたのに対し、こちらは”侵略後の地球”が舞台。
宇宙からやってきた巨大な生命体が繁殖した末に、メキシコをほぼ占領している世界です。
繁殖期になると大移動を開始するので、人類(主にアメリカ軍)との間に戦闘が起こり、
最早年中行事と化しているのでした。
侵略者を殲滅する事も撃退する事も出来ずに封じ込めるのがやっと。
全編エイリアンの存在が日常化して定着しているという視点に徹した事が
低予算ながらも優れたセンス・オブ・ワンダーを感じさせる作品でした。
繁殖期のエイリアンの群れから逃げるというストーリー展開によって、
エイリアンそのものを余り出さない事(予算の都合)にも説得力が生まれます。
スペイン語で書かれた「エイリアン注意!」の看板、
TVでやっている子供向けの対エイリアン啓発CM、
そしてメキシコとアメリカの国境に作られた巨大な防壁など、
”今、そこにある不思議”を感じさせるビジュアルイメージに満ちていました。
そして、最後で見せたエイリアン同士の意外な”生態”もちゃんと伏線を張っているわけで、
全体的にはソリッドな小品ながらも語り口の上手さが光ります。
こういう風に色々な視点を持つ作品が出てくるのは、やはりファンだった世代の作り手達が自分達の見たいイメージを実現している影響なのでしょう。
▼映画『モンスターズ/地球外生命体』予告編 - YouTube
●アメコミはハリウッドの財産です‐アメコミ映画の隆盛
すっかりハリウッドの一ジャンルとして定着した感もあるアメコミ映画。
2011年も、「マイティ・ソー」、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」、
「グリーン・ランタン」などアメコミの大手DCやマーヴルのビッグタイトルが次々と映像化されました。
そんな中、印象的だった作品は「キャプテン・アメリカ:ザ・ファースト・アベンジャー」です。
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原作は1941年(昭和16年!)に始まり、ナチスや日本軍と戦う事でブレイクした、
リアルタイムで戦時下のヒーローでした。
日本で言えば、さしずめ「のらくろ」のようなもので、
第二次世界大戦とは切っても切り離せない関係にあり、
他のヒーロー(アイアンマンとかスパイダーマン)のように、
舞台を現代に移してリニューアルという訳にもいきません。
例えば「のらくろ」に反戦平和を訴えさせるようなもので、
現代に復活させるのはかなりハードルの高い原作なのでした。
どうやって今風の作品にするのかと思って観に行くと、時代設定は原作のままですが、
敵をナチスでは無く、ナチスから造反した秘密結社にしたり、
主人公の戦うモチベーションがアメリカへの愛国心ではなく、普遍的な正義であったり、何とか過剰なアメリカ礼賛色を薄めようとしていました。
(一部の国では、その辺にも配慮したようでタイトルを「ザ・ファースト・アベンジャー」にして公開されています)
こういう扱いの難しいコミックも手堅く映画化してしまう現状は、
製作者にもコミックを愛する世代(スパイダーマンを映画化したサム・ライミとか)が増え、
原作のエッセンスを尊重しつつ映像に落とし込むノウハウを身につけてきている事を表しています。
▼映画『キャプテン・アメリカ:ザ・ファースト・アベンジャー』予告編 - YouTube
●子供も大人も異世界へ!?ファンタジー映画の成熟?
SFよりも現在の映画界で受け入れられているジャンルといえば、ファンタジーでしょう。
SFのように楽しむために考えるというプロセスを踏まないので、間口が広い傾向があるのですが、
今年も「ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島」や「ハリー・ポッターと死の秘宝PART2」
「ガリバー旅行記」など子供や家族向けの王道的作品、
それに対して大人向けのファンタジーと言うべき「インモータルズ‐神々の戦い‐」など、
いつでも何らかの作品が公開されている娯楽映画の定番ジャンルになりつつあります。
一般的にファンタジーは子供向けジャンルと思われてきましたが、
特に「ロード・オブ・ザ・リング」三部作以降は、
大人向けの作品とかややホラー寄りのダーク・ファンタジーも受け入れられるようになり、
ファン層が広がった事も追い風になっています。
そんな中、ザック・スナイダー監督の「エンジェル・ウォーズ」は正に”大きなお友達”向けのファンタジー。
美少女(ホントはそういう年齢じゃない女優さん達だけど)戦士、メカ、モンスター、戦場と
ヲタの好物ばっかりをツユだくてんこ盛りにしたような映画で、
ストライクゾーンはとても狭いのですが、ツボを刺激された人には至福の一時を与えてくれます。
私にはたまらない一本でしたが、ここまで趣味趣向が偏っていると人に薦めるのは躊躇われるものがある、
見る人を選ぶ映画でもありました。
でも、いつもウェルメイドな映画ばかり観ていると、
たまにはこういうバランスの崩れた極端なテイストの作品を”珍味”みたいに堪能する喜びも又格別。
ジャンル映画ファンは、色んな作品を楽しむ広い心を持ちたいものです。
▼ザック・スナイダー監督最新作『エンジェル ウォーズ』予告編 - YouTube
●燃え上がる韓流・華流の戦場‐2011年戦争映画を振り返る
ミリオタとしては、これを忘れちゃいけません。
やはり戦争映画も振り返っておきましょう。
ミリタリー界では主流とも言えるドイツ軍ファンにお薦めなのは、「ミケランジェロの暗号」でした。
ユダヤ人美術商が親衛隊員になり済まし、ナチスの追求を逃れる虚々実々のサスペンスですが、
ドイツ軍や親衛隊の軍装や車輛なども見応えある作品です。
劇映画では無くドキュメンタリーですが、これもドイツ軍やナチス萌えの方に見て欲しいのが「ナチス/偽りの楽園」。
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戦前のドイツで大スターにして映画監督だったユダヤ人が
自分のいる強制収容所のプロパガンダ映画を撮る事になり、
「快適な環境でスポーツや文化的活動に勤しむ幸せそうなユダヤ人達」
の映像を作らされるという悪い冗談のような事実を取材した映画でした。
そんな中、近年はいわゆる”韓流”を世界的に展開させつつある韓国や、
経済的発展も著しい中国の大作戦争映画が目立ってきました。
朝鮮戦争時の学徒兵と北朝鮮軍の戦いを描いた「戦火の中へ」は、
韓流スターばかりがフィーチャーされる宣伝のせいで敬遠した方もいるかもしれませんが、
内容は「プライベート・ライアン」ばりのハードコア戦争映画。
DVDも出ているので改めて観てみて欲しい一本です。
それから「1911」。
辛亥革命のプロパガンダ映画みたい、
日本人に馴染みの無い題材なのに説明不足で話がわからん、
などイマイチな声もありますが、革命軍と反革命派の袁世凱(清朝に仕える軍閥)軍との戦いは流石に大スケールでした。
ミリオタ的視点で見ると、この戦いは機関銃と大砲と塹壕という、
この革命の数年後に行われる第一次世界大戦の前哨戦(日露戦争も)のような近代戦であった事がわかります。
小規模でしたが、第一次大戦のガリポリの戦いのような軍艦と陸上の砲兵との砲撃戦も
マニア的には見逃せないポイントでした。
やはり配給元にも遠慮があるのか、戦争映画はストレートに「戦争映画」として宣伝されることが少ないので、
ファンの目に止まり難いのも残念な事ですが、幸いなことにほとんどがDVD化されています。
ジャケも戦争映画っぽく無かったりするのですが、なるべくチェックしていきたいものです。
▼映画『ナチス、偽りの楽園 ハリウッドに行かなかった天才』予告編 - YouTube
▼ジャッキー・チェン主演映画『1911』予告編映像 - YouTube
●そして、2012年はこの映画が観たい!
2012年に公開される色々な映画の情報が聞こえていますが、
ミリオタとして一本上げるとすれば、「マイウェイ 12000キロの真実」です。
ノモンハン事件、東部戦線、そしてノルマンディと三つの戦場を一体どう映像化しているのか、期待が募ります。
最後に、これは公開されるかどうか微妙な映画ですが、
ネット上では随分盛り上がっているのが「IRON SKY」。
ナチスの残党が密かに月に落ち伸び、そこで一大帝国を作っていたという陰謀論ネタをそのまま映像化しています。
一時期資金難で製作が頓挫仕掛けたのを、
ネット上でカンパを募って完成までこぎつけたというからいい話ですね。
予告編を見るとウド・キアーが出ていたりして、製作サイドの好き者ぶりもわかります。
色んな妄想が膨らんでしまう映画ですが、果たして日本で観られる日は来るのでしょうか?
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