北陸に映画祭の極北を見た!カナザワ映画祭リポート?/アウシュビッツとハーレム

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さて、強烈過ぎる「炎/628」の鑑賞後、流石に気分を変えたくなりました。

 ちょうどお昼時でもあり、天気も上々なので、自転車を借りると金沢駅へ。
北陸各地のカレー屋が一堂に会した「カレー選手権」、いわゆるB級グルメ祭りをやっているので、そこでカレーライスのハシゴをして腹ごしらえ。
帰りに献血ルームで旅血(旅先での献血)をしたりして、夜に備えます。

今夜の一発目は「夜と霧」(1955)。

フランス・ヌーベルバーグの作家であるアラン・レネが撮った、あのアウシュビッツ収容所のドキュメンタリーです。
 そんな映画にも関わらず、何故か小学生(3?4年生か?)位の男の子がママと思しき女性と二人で、よりにもよって最前列に座っています。大丈夫か!オイ!この映画の内容知ってるのか?

 とか、内心は他の観客にいらぬ心配をしつつも、上映開始。


30分ほどの短編ですが、中身はギッシリ。当時のニュースフィルム、1950年代当時の廃墟と化したアウシュビッツ、そして記録された写真の数々がコラージュされ、乾いた声のナレーション(「ボルサリーノ」などに出ていたミッシェル・ブーケ)と共に人類史の暗黒面とも言うべき、収容所の実態へと迫っていきます。

狩り集められた人々が丸坊主、全裸にされ、ガリガリに痩せ細りながら行進し、あの「ガス室」へ。
戦後の映像だと、何とガス室の天井には爪の痕が残っています・・・。
収容者達から取り上げた宝石や貴金属が山積みにされ、死体からは金歯を集めて金塊が作られ、毛髪からはカーペット、遺骨は畑の肥料、脂肪から石鹸(!)までも作られていました。
ナチスはユダヤ人から文字通り全てを絞り取っていたのです。

戦後になって、連合軍によって解放されても収容者達はうつろな表情のまま。
連合軍は余りにも多い死体の処理に苦慮して、結局穴を掘ってブルドーザーで埋めるというナチスと変わらない処理方法をするのでした。

上映終了後、私が心配していた少年は泣く事も無く最後までしっかり鑑賞し、ニコニコとママと帰って行きました。
21世紀生まれの子は、この手の映像に耐性があるのか? それとも、こういう風に思ってしまう私が偏見を持っているのでしょうか?

 ところで、「炎/628」と「夜と霧」は、実は私がこの映画祭に推薦したのです。

 毎年のように映画祭の打ち上げに参加して、ゲストの高橋ヨシキさんと飲みながらナチス話に花を咲かせていたら、"ナチス通"という事になってしまったのでしょう。
映画祭代表の小野寺氏から、「ナチスの暴力を描いた映画を何か紹介して欲しい」という連絡を受け、自分の記憶の中で一番強烈な印象を残した映画として、この二本を上げました。
 そういう訳で、今日は朝も夜も観客の反応に内心冷や冷やしながらの鑑賞なのでした。

又も強烈なもの観たなぁと思いつつ。次の映画を観ます。

本日最後の一本は「クールワールド」(1964)。

ドキュメンタリー作家として知られる、フレデリック・ワイズマンがプロデューサーとして映画界に初めてデビューした作品です。

ボストン大学で教師をしていたワイズマンがニューヨークのハーレム地区の黒人少年達の生活を生々しく描いた小説「クールワールド」を読んで、衝撃を受け、貯金をはたいて製作したのが、この映画でした。
監督はニューヨークの女流インディペンデント映像作家であるシャーリ・クラークです。

全編実際にハーレムでロケされ、汚くて荒んで閉塞感溢れる黒人達の暮らしの中で、成り上がるために犯罪者に憧れる少年達を硬質な映像で捉えています。

「オレは殺し屋になるんだ。そうすれば皆がオレに一目置く」

 そう夢見る少年は荒んだ暮らしの中で仲間とツルんでグループを作り、彼女(というか、とても若い情婦)も出来て、暗黒街でのサクセスを目指して、拳銃を欲しがります。少年にとって、拳銃は自分をビッグにしてくれる、憧れのアイテムなのでした。

 しかし、頼みのギャングは抗争に追われて失踪。少年達も対立するグループと抗争し、拳銃が手に入らないのでナイフで相手を殺してしまい、「殺人犯」として逮捕されます。こうして、少年は自分の望みとは違う形で晴れて「殺し屋」となり、パトカーで連行されていくのでした。

 この映画は、後にやはりニューヨーク派であるマーティン・スコセッシにも影響を与え、いわゆる「スラムの黒人少年達の明日無き青春!」みたいな一連の映画の元祖でもあります。
全編に流れるディジー・ガレスピー・クインテットによる音楽も、ザワザワしたムードをかきたてていました。

 キャストは無名の人ばかりだと思っていたら、数シーンだけ出てくる主人公の少年の母親が、何と「マトリックス」のオラクル役だったグロリア・フォスターです。
あのネオにクッキーを薦めていた、貫禄あるお婆ちゃんですね。この作品が映画デビューで、当時30歳。
演劇を学んだ故郷のシカゴからニューヨークへ出てきて、ブロードウェイに立ち始めた頃でした。
彼女の役は言う事を聞かずにグレる息子に、

「お前みたいな息子はうんざり!もう帰ってくんな!」

 とブチ切れる母親(でも自分は売春している)でした。

 今日は色んな意味で強烈な映画を続けて見て、頭も胸も一杯という感じ。でも、また明日があるんですね。頑張ろうっと。

 次回は、アメリカの奴隷制を身も蓋も無く描いた傑作「マンディンゴ」を紹介します。お楽しみに!


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Comments [2]

No.1

今回も面白いレポートありがとうございます。
子供が来てたことに驚きました。
18禁とか無いんですね(昔の映画でそういうのがまだ厳しくなかったからでしょうか…)
親は歴史教育のつもりだったんでしょうか。
やっぱ映画体験はその場の観客も含めてのものなんですね。

No.2

kakigenkinさま

 又々コメントを頂き、ありがとうございました。

 一応、映画祭のパンフには

「この映画祭で上映される作品には、激しい戦闘シーン、殺人シーン、拷問シーンなどの暴力表現が多数含まれています」

 というお断りがありますが、特に年齢制限みたいなものは無かったと思います。

 以前、ナチスのプロパガンダ映画「意思の勝利」が上映された時には、小学生みたいな子供からお年寄りまであらゆる年齢層の人が来て、凄い熱気でした。マニアックなラインナップなのに、観客がマニア層だけでもない、というのがこの映画祭の面白いムードだと思います。

 ちなみに、「夜と霧」にはグループデートみたいな若者たちもいまして、上映前に男の子が彼女にこう言ってました。

「コーヴって映画知ってる?ああいう残酷なシーンのある映画なんだよ」

 「夜と霧」と「ザ・コーヴ」じゃ、共通点は"ドキュメンタリー"と"残酷なシーン"ぐらいじゃないかなぁと思いました。

 上映後、女の子は「う?ん・・・」という困ったような顔をしていましたね。人の好みはそれぞれですが、デートで見る映画じゃないだろうとは思いました。

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