カナザワ映画祭も二日目、朝から晴天です。爽やかな日曜の午前中、毎年観客も一際多い時間帯ですが、今日の上映作は旧ソ連の戦争映画「炎/628」です。
この映画、1985年というソ連でペレストロイカが始まり、あと数年するとソ連そのものが消滅してしまう微妙な時代に作られました。
それまでの共産党の正当性を訴えるプロパガンダ色の強い大味な超大作(「ヨーロッパの解放」とか)とも、ソ連崩壊後の新生ロシアで作られている西欧やアメリカの影響を受けた娯楽色の強い戦争映画とも違う、独特のムードがあります。
日本でも公開され、ビデオやDVDも出ていますが、余り知られていない作品と言えるでしょう。私も二十年ほど前にビデオで観ましたが、悪夢のような内容で記憶から消したくなってしまい、その後一切再見していません。
だから、この日はある意味自分のトラウマと向き合うような気持ちで21世紀美術館へやってきました。
いや?流石に日曜の初回だから、混んでます。思いのほか女性が多いのが、ちょっと心配。これ、凄まじい映画なんですけど・・・皆内容を知っているのかな?
この映画の舞台は、第二次世界大戦中のベラルーシ。開戦直後からドイツ軍の占領下にあり、数万人のパルチザンがゲリラ戦で抵抗していました。当然、これに対するドイツ軍の掃討や弾圧も過酷なものになり、住民全部を巻き込んだ血で血を洗う凄惨な戦いが何年も続きます。
物語は、とある農村に住む少年がパルチザンに入るところから始まります。森の中で老若男女が集まったパルチザン部隊に合流し、早速出撃するもののドイツ軍の砲撃であっけなく逃げ惑うことに。
仕方が無いので、部隊で知り合ったちょっと不思議ちゃんな美少女を連れて、家に戻ってきますが・・・空っぽ。自宅どころか近所一帯人っ子一人いない。
少年がパルチザンに入ったので、報復として皆殺しになっていたのでした。家の横には全裸の死体が山積み。こうして、少年の地獄行脚が始まります。
絶望の中で村の人を探すと、報復のために生きながら火炙りになった村長に「お前のせいだ」と文句を言われ、食糧を探しに出ればドイツ軍の攻撃で道に迷い、やっと小さな村に辿りつきました。
しかし、その村にはドイツ軍(正確には武装親衛隊)のパルチザン狩り部隊(アインザッツグルッペン=特殊任務部隊)がぞろぞろやって来ると、村人を広場に集めます。
最初は「単なる事務手続き」と言っていたのに、ドイツ兵は村人を倉庫に閉じ込めて、手榴弾を放り込み、火を放ち、銃弾を撃ち込み、ワイワイと盛り上がりながら、まるで祭りのように村人を虐殺していくのでした。
鬼畜の所業を続けるドイツ兵達の心の底から楽しそうな笑顔と、「お前に用事があるんだよ!」と倉庫から引きずりだされた女性や主人公の少年の恐怖と絶望でグシャグシャになった顔が実に対照的。
霧がうっすらとかかる長閑な農村に立ち上る黒い煙と燃え上がる炎が、映像に悪夢のような幻想的な佇まいを与えています。
主人公の少年はドイツ兵に囲まれて、頭に銃を突きつけられながら、「記念撮影だぞ、ほら!カメラ見ろ!」
少年の顔は恐怖のために皺だらけになり、髪もすっかり白髪になっていました。
ラストは一応パルチザンが反撃して、ドイツ軍を撃破しますが、捕虜になったドイツ兵は悔い改める訳でもなく、「お前らスラブ人は下等な人種だ!だから、子供の内に根絶やしにしなければならんのだ!」と堂々と言い放ち、皆殺しにされていきます。
こうして勝利の喜びも無く、重たいムードのままに、少年が戦場に落ちているヒトラーの肖像写真を銃撃して終わるのでした。
この映画は実話に基づいており、出演したエキストラの中には実際にドイツ軍に村を焼かれた人達も参加しているそうです。邦題の「628」とは、戦時中ベラルーシでドイツ軍に焼かれた村の数だということでした。
ミリタリーファンの視点で観ると、主人公の少年が持っているトカレフM1940自動小銃とかパルチザンが使っているコモソモーレッツ装甲牽引車(対戦車砲を引っ張る、小さな戦車のようなトラクター)とかレアなソ連軍兵器も登場するし、バッチリ軍装を決めたドイツ兵達など、画的な見どころも多いのですが、とにかくストーリーと映像のインパクトに息を飲まれるという感じで、観終わった後には凄いものを観たという充実感と、エライもん見ちゃったという疲労感が交錯しました。
出てくる観客も見ていると、女性達の顔が強張っているようにも見えます。やっぱり、日曜の朝からインパクトあり過ぎ、ですかね。
しかし、昨年の「世界怪談大会」の時には、やはり爽やかに晴れた日曜の朝から、数百万匹のミミズが襲ってくる「スクワーム」を上映するという、ゴキゲンなプログラムを組んだカナザワ映画祭らしいでしょう。こういうところが"わかっているねぇ!"という感じ。
さて次回は、ナチス繋がりですがアウシュビッツ収容所のドキュメンタリーと、ニューヨークを舞台にした実録少年ギャング映画の古典をご紹介します。お楽しみに!
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