武井「あれ?エコタロウさん」
いつもの通りに居酒屋での打ち合わせ、今回は拝編集長ではなくエコタロウさんがいた。
エコタロウ「拝氏(うじ)は、休みでござる。本日は拙者がお相手仕るので、よろしくお願いするでござる」
そういえば、サーバーの変更、大変だって言っていたからな…。それに前回、拝編集長はは大量のパスタを無理して食べ続けていたし…
うたた寝と見えたのは、食べすぎて動けなかっただけ?
今日は、テーブルにはシーバスリーガルが用意されていた。
「あれエコタロウさん、これ、岸田森さんの好きだったウイスキーですよ」
「今日はこれを飲みながら、じっくりと語りをお願いするでござる」
岸田森さんは、普段はオールド、奮発した時にはシーバスを飲んでいたと聞いた事がある。
「良くご存じでしたね。びっくりしました。調べるの大変だったでしょう」
さすがエコタロウさん。拝さんと違って細かく攻めてきます。
では、前回の続きから
『金田一耕助の冒険』のドラキュラは、岸田森が出演しなければシーンごと削除してしまおうと思っていた。それには、大林映画での吸血鬼の立ち位置を説明しなければならない。
吸血鬼を扱った自主映画『EMOTIO伝説の午後=いつか見たドラキュラ』という作品を1967年に製作していることからもわかるように、大林宣彦監督と吸血鬼は、とても密接な関係がある。
監督自身、吸血鬼というのは、ある種精神性のシンボルみたいなものだと語っている。自己愛と過剰な純粋さ、そして必ず滅び去ってしまうという所が、自分の映画の主人公と重なっているのだそうだ。そのために、自分が吸血鬼を描くと、自分自身を反映したものになってしまう。
岸田森にはドラキュラ的体質があると、早い時期から大林宣彦は考えていた。だが、起用する事のないうちに、他の監督によって吸血鬼というキャラクターを確立されてしまっている。このキャラクターを自分の作品に持ち込む事は、礼儀上出来なかった。
今回の『金田一耕助の冒険』はパロディ作品、他人が使ったキャラクターを借りて来てもまったく問題はなく、晴れて自分の映画に、堂々と岸田森の吸血鬼を登場させる事が出来たのだ。
「大林映画といえば尾道ですが、ここでは他の映画のロケが、ほとんどありません」
「確かに、山田洋次監督の寅さんも、日本中くまなくまわっていながら尾道は行っていないでござる」
「大林監督に遠慮していたのかもしれません。吸血鬼の事も、多分、これと同じような事だと思います」
「色々と、事情があるのでござるな…」
「大林監督は、あのカットで、映画一本分のドラキュラを撮ったと語っていました」
「たったワンカットの短い登場シーンに、こんなにドラマが詰まっていたのでござったか」
と、シーバスをストレートでゆっくり飲みながらエコタロウさん。今日は、打ち合わせが大人の雰囲気だ。
「岸田森、大林宣彦のコンビ、残りは後一本です」
「では、語りをお願いするでござる」
一九八一年に放映された、TVムービー『火曜サスペンス劇場 可愛い悪魔』に、岸田森は出演している。岸田森には馴染みの深い円谷プロダクション製作の二時間サスペンス作品で、大林宣彦監督の初テレビドラマでもある。
この作品で、岸田森の演じた役は、惨劇の起きた別荘の番人だった。
何をしゃべっているのかわからない、唸り声のようなセリフを喋り、ミリタリー調の妙な制服姿で登場する。昔のアングラ演劇に登場しそうな現実感のないキャラクターだが、大林宣彦の作り上げたファンタシィの世界にはマッチしていた。
出番はあまり多くないのだが、変わった風貌で目立つ役である。
この不思議なセリフ廻しは、岸田森自身の工夫だった。
大林宣彦監督はこの撮影中、岸田森の演技を見ながら、もっときっちりした言葉が言える場所で、一度ゆっくりと仕事をしたいと感じていたという。だが、それが叶う事はなかった。
この作品の一年と少し後、岸田森は急逝してしまう。そのために、大林宣彦監督とのコンビは、三本で突然終わりを迎えてしまう事になる。
どの作品も、じっくり演技を見せるという出演の仕方ではなかったのは残念だが、それらの短い登場シーンの裏には、これだけのドラマがあったのだ。
「大林監督は、岸田森氏を起用する事にこだわっていたのでござるな」
「岸田森さんが急逝した翌年に放映された、大林宣彦監督の『火曜サスペンス劇場 麗猫伝説』、元気だったら、多分岸田森さんは大暴れしていたと思うんです。そういう感じの役が、ちゃんとありました」
「重ね重ね早く亡くなった事が悔やまれるでござるな…
ところで、次回はいかがいたす?」
「エコタロウさんと話すと、何か落ち着いちゃいますね…
次回は編集長復帰ですから、派手な映画行きましょうか」
「拝氏が「ド?ン」って言うようなやつ、お願いするでござる」
「アクション映画で『狙撃』という作品があるんです。ホラーばかりだったので、ここらで景気づけ行きましょう」
「加山雄三氏が、無口な殺し屋を演じる奴でござるな」
「まったく毛色が違って良いでしょう。アクションならば「映画宝庫V3」にも合っているし」
「では、それでよろしくお願いつかまつる」
「次回も、この居酒屋で…って編集長にお伝えください」
コメントする
※ コメントは認証されるまで公開されません。ご了承くださいませ。