お久しぶりです。ご無沙汰ばっかりの印度洋一郎です。
カナザワ映画祭。
文字通り石川県金沢市で毎年9月に開催されている映画祭で、
そのテーマの尋常でなさが全国から映画の好事家達を集めることでも知られています。
2007年から始まり、
8回目の今年の「カナザワ映画祭2014」はテーマが爆音上映。
通常の映画の音響設備ではなく、
音楽ライブ用の設備を使用した、大音量の上映で映画を観よう
という
「スクリーンでなければ出来ない映画の楽しみ」
にこだわるカナザワ映画祭のいわば王道とも言えるコンセプトです。
でかい画面で見てこその映画の醍醐味。
その醍醐味に見合ったプログラムの数々(と上映の合間に食べられる美味しい食事の数々)が魅力のカナザワ映画祭。
少し時間が空いてしまい恐縮ですが、前回2014年9月のレポートを2回に分けてお送りします。
寒いですが、熱気はむんむんの映画祭レポートはじまり、はじまり!
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今年も又カナザワ映画祭の季節が来ました。
今回の「カナザワ映画祭2014」はテーマが爆音上映。
通常の映画の音響設備ではなく、音楽ライブ用の設備を使用した、
大音量の上映で映画を観よう
という「スクリーンでなければ出来ない映画の楽しみ」にこだわるカナザワ映画祭のいわば王道とも言えるコンセプトです。
さて、私は映画祭二日目の9月12日(土)の昼頃、金沢に到着しました。
来年の北陸新幹線開業を控え、駅前にも巨大な垂れ幕が下がっていますね。
早速腹ごしらえということで、金沢駅から徒歩五分ほどの古民家ダイニングバー「ノーサイド」で、
金沢B級グルメの代表「ハントンライス」をいただきます。
ここ数年は毎年金沢に来ているので、このハントンもあちこちで食べていますが、
いつも食べていた「がっつり!こってり!」なものとは一味違うおしゃれな感じの白身魚フライの乗ったハントンでした。
さて、映画を観る前にまず会場へ行って、チケットの確保です。
会場は毎度お馴染みの金沢都ホテルの地下劇場(正確には、セミナーホール)ですが、
今年から少しシステムが変わり、チケット販売サイト「peatix」で購入することになりました。
購入後はスマホに専用アプリをダウンロードして窓口で表示するか、
ウェブ上で購入画面をプリントアウトして、
その画面のバーコードを窓口でスキャンしてもらって確認するという方法をとります。
私の場合は、プリントアウトした画面を窓口へ持って行きました。
初めてのシステムなので、どうかなと思いましたが、スムースに確認終了。
駅前で開催していた「金沢ジャズ・ストリート」のジャズ・バンドのライブなど聴きながら、
ちょっと一服して、最初の鑑賞作品に行きましょう。
午後4時からの『U・ボート』(1981)です。
潜水艦映画の金字塔ですが、今回上映されるのは二時間強の劇場公開版ではなく、
三時間半ある「ディレクターズ・カット」版です。
▼ディレクターズ・カット版の予告編
元々、この作品は西ドイツ(当時)のTVドラマ(ミニシリーズと呼ばれる、長時間スペシャルドラマ)として企画され、
完全版は実に約五時間(!)あり、80年代にはドイツやオーストリア、イギリスなどではTVで放映されました。
その後、監督のウォルフガング・ペーターゼンが自ら編集し直した「ディレクターズ・カット」版が1997年に登場し、
今ではDVDやブルーレイもリリースされています。
五時間版よりも短いとは言え、上映三時間半という事で途中に10分間の休憩も挟みます。
映画館で休憩入れながら映画観るなんて、今時珍しいですね。
90年代に、『七人の侍』(1954)のリマスター版の上映で五分間の休憩があったことを思い出します。
開場30分ほど前に会場で並ぶと「カナザワ2014 Das Boat新聞」という壁新聞が張ってあり、
何と!金沢出身のUボート艦長がいたという驚きの歴史的事実を紹介しています。
こういう、ご当地ネタで楽しませるところが地方発の映画祭の味わいですね。
いよいよ上映始まり始まり?。内容は言わずもがなの名作ですから、気がついたシーンなど中心に紹介しましょう。
開始と共にいきなり追加シーンが登場。
Uボートに新しく赴任する艦長が車で港に向う途中に泥酔した乗組員達に遭い、
何と沿道から車に小便(!)をかけられる手洗い歓迎を受けます。
そして、続く士官用クラブでの出撃前の宴会シーンも追加シーンでした。
Uボートの乗組員(のみならず、戦闘に参加する軍人は皆)は、出撃したら生還出来る保障などありません。
だから、これが最後かもしれないと乱痴気騒ぎをするのです。
そして、出撃。劇中、Uボートはほとんど浮上して航行しています。
第二次大戦当時の潜水艦は、基本的に浮上して航行し、敵艦を攻撃したり、敵から隠れる時しか潜航しませんでした。
何故かというと、当時の潜水艦の推進機関はディーゼルと電気の二本立て(今風に言うとハイブリット?)。
水上では酸素を燃焼するディーゼルエンジンで航行し、その間に動力の一部でモーターを回して蓄電。
潜航する時には電気推進に切り替えて、密閉された空間である潜水艦内の酸素を動力機関で消費しないように行動していました。
戦後になって、原子力潜水艦が実用化されるまではこれが潜水艦の現実だったのです。
この映画の中でも、敵に発見されて潜航しようとすると、機関兵の台詞に「E機関が動きません」という字幕が出ます。
これは状況からすると、要するに「電気機関」という意味だと推察されるので
「モーターが動きません」と表記した方がわかり易いかもしれませんね。
潜航用モーターが動かないので、潜航出来ません(無理にディーゼル推進で潜航すれば艦内はすぐに酸欠になって、乗員全滅)、という意味なのでしょう。
この映画を観ているとつくづく思いますが、潜水艦の任務は忍耐の連続です。
水が少ないので髭も剃れない、風呂など夢の又夢。
艦内に冷蔵庫など無い時代ですから、積み込んだ食料も段々腐っていきます。
映画だからわかりませんが、当時の潜水艦の艦内はいつも異臭が立ち込めていたそうです。
そして、訓練と警戒に神経をすり減らす日々が続きます。
加えて、潜水艦は敵艦に見つかると潜航して隠れるしかありません。
攻撃することも可能と言えば可能ですが、機動力に劣る当時の潜水艦が水上艦との真っ向勝負は困難な事でした。
爆雷など投下されれば、逃げるか耐えるかしかありません。
潜水艦映画にはつきものの、敵艦に発見されて爆雷攻撃を受けるシーンでは、
この映画祭ならではの爆音上映の効果が発揮されました。
水中で爆発する爆雷の腹に響くような重低音が大音量で響き、何度も何度も続くので段々耳鳴りもしてきます。
きっと、実際の潜水艦の中はもっと凄い音だったんだろうなぁ、という感慨も沸きます。
そして、爆雷から逃れるために潜航深度を超えた海底へと向うと、船体が水圧でミシミシと軋みます。
この金属がこすれ合う、何とも不快な音も爆音上映のお陰で耳にねじ込まれるような勢いで聴こえてきます。
▼雷撃シーン!
それから、やっぱりジブラルタル海峡を突破しようとして、
イギリス軍の攻撃で海底に着底してしまうシーンのジリジリとした緊迫感。
乗組員の必死の努力で機能回復した艦で
「いい部下を持った俺は果報者だ」
と涙を流しながら浮上に賭ける艦長は何度観ても感動しますね。
この一連の描写があるから、浮上して波を切り裂きながら全力航行するUボートの艦橋で艦長が
「今度はお前ら(英軍)の餌食になるものか!」
と絶叫する姿にゾクゾクするようなカタルシスが生まれるのです。
ところで、多くの戦争映画ではUボートは悪役です。
冷酷なドイツ兵が乗っている不気味な潜水艦というイメージがステロタイプなところですが、
当然ながら戦争では味方も人間なら、敵も又人間。それぞれの人生があります。
この映画の一番の見どころはやはりリアルな潜水艦内での乗組員達の暮らしぶりもさることながら、
日頃は悪役としてしか認識されないUボートの中に、
戦争に疲れて戦いに疑問を持つ者、
祖国の勝利を信じて戦う者、
故郷に残した妻を気遣う者、
恋に落ちたフランス女性との関係に不安と期待が交錯する若者など、
様々な人間模様が描かれているのも注目したいところです。
特に印象深いのは、攻撃して炎上している敵の輸送船を確認するシーンでした。
炎から逃げ惑う乗組員を見て、Uボートの乗組員達が
「英軍の奴ら、救助しなかったのか」
と苦渋の表情を浮かべています(救助するのも危険だし、潜水艦には収容するスペースも無い)。
任務として攻撃はしても、別に敵船の乗組員一人一人に恨みや憎しみがあるわけではない、
そんな人間としての葛藤が見える演出でした。
映画に悪役として登場しているUボートにも、こんな人間ドラマがあったのかもしれないと思ってしまいます。
さて、見終わると耳の中がまだ反響しています。まだ一本目だというのに、これから三日間大丈夫かなぁ・・・
夜は駅前のタイ料理店でガバオライスを食べて、会場から徒歩五分のホテルに入り、明日に備えます。
長丁場の映画祭ですから、ペースを保って楽しみたいものです。
さて、次回は、まったり金沢観光をしながら観た、出てくる奴らは全部ワル(どっかで聞いたことある、このフレーズ)な西洋時代劇『フレッシュ+ブラッド』(1985)をお送りします!
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