こんちーす。
首都圏ではヒューマントラストシネマ渋谷で、昨日(10/24)より公開中の
“シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2014”を紹介する第二回だよ。
▼「シッチェス映画祭」ファンタスティック・セレクション2014
▼『シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2014』予告編 - YouTube
毎年ファンの間では
「魅力的な作品が多いのはわかるけど、1週間で6本制覇するのは結構大変!」
という嬉しいボヤキも聞こえてくるけど、
今回紹介する中の二本は配給さんも特に力が入っており、
1週間の特集上映終了後に一般上映が控えてるとのこと。
今年はそのあたりも考慮しつつ、スケジューリングするのが吉かも。
では、まずこの作品から行ってみよう!
●『パトリック 戦慄病棟』
オーストラリア郊外の精神病棟に赴任してきた看護士のキャシーは、
昏睡状態でベッドに横たわる少年パトリックを担当することになる。
その目は常に見開かれているものの、五感は失われ外界には反応せず、
時折反射反応として唾を吐くことしかしないパトリックの世話をしていくうちに、
キャシーは実はパトリックに意識があり自分に対して好意を抱いていること、
そして強力なサイキック・パワーを発揮することに気づくのだが…
70年代以降独自のファンタスティック映画を生み出して来たオーストラリア映画界において、
頑ななまでにジャンル作品に拘った二人の重要な監督の一人、
(もう一人は、『ロング・ウィークエンド』(78)のコリン・エッグルストンを推す)
リチャード・フランクリン監督による79年アボリアッツ・ファンタスティック映画祭グランプリ受賞作『パトリック』(78)の完全リメイク作品。
オリジナルはロバート・トンプソン演じるパトリックの目力演技が、
目を見開いているだけなのに見てる方が思わず目をそらしたくなる程に強烈で、
かつそんなパトリックとスーザン・ペンハリゴン演じるキャシーとのサイキックな猫と鼠のゲームもスリリングな傑作だった。
▼Patrick (1978) Trailer - YouTube
そんな名作の無謀とも思えるリメイクに挑んだのは、
勿論オリジナル版も登場し“Ozploitation!(オーストラリア製エクスプロイテーション映画)”の歴史を辿る
『マッド・ムービーズ 〜オーストラリア映画大暴走〜(Not Quite Hollywood)』(08)や、
▼Not Quite Hollywood - trailer (2008) - YouTube
や、同じくフィリピンで製作されたエクスプロイテーション映画の世界に迫る『Machete Maidens Unleashed』(10)
▼ Machete Maidens Unleashed - YouTube
等の、ジャンル映画の歴史にマニアックに迫ったドキュメンタリー作品を撮ってきたマーク・ハートリー。
基本オリジナル版に忠実な展開で、
ダークな闇に包まれた病院内のヴィジュアルや、
地方の私立病院という設定故かどこか懐かしい感じのする看護士のコスチュームなど、
70年代的なムードを感じさせつつ、
パトリックがコミュニケーション用に操る機器をタイプライターからPCやスマホへと変えるなど現代アレンジで描いていく。
オリジナルではプロローグ的に描かれていたパトリックの過去を、
クライマックスまで見せない構成や対決の結末など独自の演出も興味深い。
勿論惨劇には、デジタル処理も加わってより派手になっているし、
サスペンス・フルで流麗なスコアで作品を盛り上げるピノ・ドナッジオの音楽も、
ヒッチコキアンであったフランクリンのリメイク作品にはまさにツボだろう。
キャシーを演じているのは、
『サプライズ』(11)、
『パニック・マーケット3D』(12)等で、
新世代スクリーム・クイーンとして注目されるシャーニ・ヴィンソンが、
恐怖に怯えながらサイキック・パワーと対決するヒロインを熱演。
病院の秘密を知る厳格な先輩看護士には、
『ディボーシング・ジャック』(98)のレイチェル・グリフィスが、
パトリックをモルモットに危険な実験に勤しむ医師には、
『エイリアン3』(93)のチャールズ・ダンスといった実力派が脇を固めている。
ただパトリック役のジャクソン・ギャラガーが、
オリジナルに比べるとかわいいイケメン系なので、
同じく目を開いたままでもインパクトでは及ばないが、
哀しさを漂わせた今回のキャラにはむしろマッチしているのかも。
なお、余談だがオリジナル版には、直接繋がりはなく…
というか無許可で作られたイタリア製の
『Patrick vive ancora(Patrick Still Lives)』なる勝手に続編も存在する。
▼"Patrick Vive Ancora" Trailer (1980) - YouTube
出来のいい作品かどうかは兎も角として、
サイキック能力が男の欲望にストレートに結びついたスプラッター怪作なので、
好事家を自称する貴方にはちょっと薦めておきましょうかね。
パンピーはやめた方がいいと思うけど(笑)
●『ボーグマン』
昨年の本家シッチェス映画祭で見事グランプリに輝やき、
特集上映終了後に一般公開も予定されている今回最注目作の1本。
メイン・ストリームなカンヌ映画祭のコンペティション部門にも、
オランダ映画としては38年ぶりに対象作に選ばれた作品でもある。
事前に斜め読みした資料の
「謎の集団ボーグマン!彼らの殺人犯罪の一部始終を目撃せよ!」
というコピーから、勝手に『要塞警察』(76)とか『反撃』(82)とかの系譜を想像しつつ見たら、
その斜め80度くらい上を行く全く予想外にけったいな作品で吹いた。
いや、確かにこれは、観るべき傑作だ。
森の傍の高級住宅地。
髪も髭も伸び放題、服装もボロボロの浮浪者風の男が、
呼び鈴を鳴らして出てきた住人に
「風呂を貸して欲しい」
と請うている。
一軒目の家では、男は全く相手にされぬまま門前払いを食らわされたが、
二件目の家では、訝しがりながらも会話を交わしてしまった家の主人に頼み続け、
さらには姿を見せた主人の妻を顔見知りだとしつこく繰り返し、
ついには主人に酷く殴られ追い払われてしまう。
ところが、夫に殴られた男に責任を感じ同情した妻は、
夫に内緒で一晩だけのつもりで物置で男を休ませ、食事と風呂を与えてしまう。
ところが翌日になっても男は出て行こうとせず、
夫に内緒の妻につけこみ、ズルズルと納屋にいついてしまう。
そしてその家の子供や、ベビーシッターを言葉巧みに手なづけ、
後から住宅地に現れた四人の男女と共謀し奇妙な力を用いて、
やがて正面からその家に居ついてしまう…
兎に角、この集団の存在もやることもひたすら謎。
冒頭でこの男は、森の中の地下に上から蓋をした防空壕のような穴の中で暮らしている。
だが、神父とものものしく武器を手にした男たちの襲撃から男はほうほうの体で穴倉を後にし、
同じく地中に棲んでいた二人の男に危険を伝え森から脱出する。
ここだけ観ると、憐れな浮浪者が傲慢な村人に追われてる姿かと早計したのだが、
勿論実際は危険な存在に対し村人が立ち上がったところなのだろう。
んでこいつら、様々な特殊能力を持つ人外の存在であるらしく、
眠っている妻の夢を操って夫への不信感を募らせたり、
(この時の姿が、眠る夫婦の傍らに裸でしゃがみこんでいるというハインリッヒ・フュースリの絵画やケン・ラッセルの『ゴシック』の夢魔のイメージだ)
動物等に変身する能力も持っているらしい。
(このあたりは、かなり明確だけどあくまで匂わせるという感じ)
それでいて、屋敷に潜入するために、
身代わりに消す庭師を倒すのに使うのは毒を塗った吹き矢だよ、吹き矢(笑)。
ギャングとかがやりそうな死体の処理さえも、ブラックなユーモアが感じられシュールだ。
しかし、やはりその真骨頂は、人心を虜にし巧みに操る話術とその立ち振る舞いだろう。
相手に負い目を感じさせ、親切心を少しでも持つと、
徹底的にそこにつけこみ、
それでいて相手が自分たちに頼り始めるとつき放してその依頼心をさらに高ぶらせる。
飴と鞭どころか、まさに思うが侭の様相だが、
それでもそんなヤツラの言動には、案外日常や報道等でも“あるある”感を感じさせるものではないか。
冒頭に引用されたフレーズを現実化するかのような幕切れも、
にんまりさせられつつ背筋に冷たいものを感じさせる。
詳細を語らず観る者に全てをゆだねるこの作品を、
正直きっちり内容を紹介できるほど理解できてる自信はないのだけれど、
それでも空恐ろしくて魅力的な作品であることは断言する。
監督・脚本は日本では風変わりなコメディ・ドラマ『ドレス』(96)等が、
ミニシアター系で公開されているアレックス・ファン・ヴァーメルダムで、
ボーグマンの仲間の一人フレデリッヒ役で出演もしている。
劇中ではその名で呼ばれるわけではないが、
ボーグマン役には『オーバー・ザ・ブルースカイ』(12)のヤン・ベイヴートが掴みどころのない怪人を魅力的に演じている。
●『キョンシー』
『ボーグマン』と同様に、特集上映終了後にも一般上映が予定されるもう1本の注目作は、
80年代香港ファンタスティック映画を代表するシリーズとなった『霊幻道士』(85)のリブート版。
ところがこれがまた、コメディ・ホラーだったオリジナルからは想像し得ない、
タイプの異なるファンタスティック映画になっていた。
『霊幻道士』で道士の若き弟子役を演じ人気を博した役者のチン・シュウホウ。
しかし彼は今では落ちぶれ、妻子からも見放され生きる意味さえ失っていた。
廃墟のように古びた団地に一人越して来たチンは、首吊り自殺を図ったところを、 団地の1階で食堂を営む元道士だったヤウに助けられるが、
その際に自分に襲い掛かる双子の女の霊を目撃する。
その霊は、開かずの間となっていたチンの部屋で非業の死を遂げた姉妹らしい。
そして、団地に住む奇妙な住人たち。
開かずの間を恐れているが、心ここにあらずの母フンと幼い息子のパク。
老夫婦二人でつましい生活を送っていたが、
夫のトンの死後何もなかったように暮らしながら、トンの復活に奔走するムイ。
ムイの依頼で妖しい術でトンを蘇らせようとする導師のガウ。
やがて空虚な団地の中で、彼らと霊たちの運命が交錯し…
今回の『キョンシー』では、オリジナルの肝であったコメディ要素を完全に排除し、
ダークでモノトーンな映像の中で、もの哀しくシリアスな幻想恐怖譚が展開される。
監督のジュノ・マックは、歌手としてデビュー後に、
パン・ホーチョン監督作品などで俳優としても精力的に活動するなど、
マルチな分野で才能を発揮している俊英で、本作が初監督作になる。
御本人は、日本のアニメ等にも慣れ親しんできた世代で、
『宇宙大帝ゴッドシグマ』をモチーフにした日本未公開作品『LET'S GO!』(11)なる作品にも主演している。
▼保衛戰隊 之 出動喇!朋友! LET'S GO (TVC) - YouTube
そしてオリジナル版に関しては、子供の頃にビデオで初見し即はまったそうだが、
だからこそ80年代センスを繰り返す方向にはいかずに、
新たな世代向けのホラーとして本作を作りあげたそうだ。
そして作品のテイストこそ真逆なものになっているが、
キャストをはじめ作品のそこここに、
オリジナル要素が盛り込まれているのがオールド・ファンにも嬉しいところ。
冒頭で流れる曲は、オリジナル版で女幽霊登場場面で使われた
『鬼新娘』のマイナー・アレンジヴァージョンでニンマリさせられるし、
キャスト的にもストーリー紹介で書いたとおり、
主人公はオリジナル『霊幻道士』で、リッキー・ホイと弟子コンビで出演していた
チン・シュウホウが本人役で登場しているのをはじめ、
チンを助ける道士ヤウに扮するアンソニー・チャンも、
オリジナル版でラム・チェンイン演じる道士様の弟筋道士を演じていた。
『五福星』(84)シリーズ等でお馴染みのリチャード・ウンも、
本作ではキョンシー化してしまうトン役だが、
『霊幻道士3 キョンシーの七不思議』(87)では道士役を経験済みと、
三人の元道士がそろい踏みだ。
その他のキャストも充実しており、
老婦人パウ役にはジュノ監督も役者として出演していた
『ドリーム・ホーム』(10)等のパウ・ヘイチンが、
表向きには夫の死の哀しみを隠して平穏な生活を装うムイを、その哀しみの気配をたたえた静かな演技で好演。
フン役に扮したクララ・ウェイも、
『捜査官X』(11)でのおっかない女拳法使い役とはうってかわった儚気な表情が心に残る…
と書いたけど、クライマックスでは息子のために、
キョンシーとのガチンコ勝負を演じるあたりが流石は元“レディ・カンフー”だ。
一方、凶暴で素早い双子の幽霊や、
ワイヤー処理のオリジナルとは一味変えて水中撮影で浮遊感を表現したキョンシーなど、
デジタル・アナログ併用で描かれたホラー表現も面白い。
また、本作には『呪怨』シリーズの清水崇監督が、
ジュノ監督に請われてプロデューサーとして参加している。
なお、9月のプロモーション来日時にジュノ・マック監督と、清水崇プロデューサーに単独取材をさせてもらい、
作品や二人のコラボについてさらに興味深い話をうかがっており、
そのあたりは12月上旬刊行の『特撮ゼロ』創刊号に掲載する予定なのでしばしお待ちいただきたい。
その予告として、インタビュー時に伺った御二人からのメッセージをお伝えしよう。
「悲しみ…、哀切を感じて帰って欲しい。
自分にとって『霊幻道士』シリーズは、結末を観ずに終わってしまったシリーズのような思いがあり、
今回の作品で一つのピリオドがうてたのかと。
でもそれは、すなわち新たな始まりでもあり、本作をきっかけに香港でも5・6本の新作が製作されている。
新しい監督の新しいキョンシーの物語がまさにスタートしていて、これは香港の映画界にとってもポジティブで健康的なことだと思う」
(監督;ジュノ・マック)
「いろいろなことを含めて誰かが住んでいた廃墟を訪れて、
どんな人が住んでいてどんな生活があったんだろうと、
一人で想像しているような気分にさせられる映画。
普通、映画って、そういうことでは成立せず、広く視野を広げてってことになる。
僕自身も次々とホラー映画を求められているときに、
ただただ寂しい廃墟で男が一人暮らしていて、それだけで成立するような、
観れば観るほど閉じこもっていくような映画を作れないかと企画を考えたことがあったので、
まさに、しかも『キョンシー』でそれをやるというのは、すごいことだと思う。
僕が引き受けたのも、普通はキョンシーだと皆が期待して真似する方向性を、
一切排除しているのが気に入ったというか、
新しいものだと感じたので、そんなのを観て感じてもらえると嬉しい」
(製作:清水崇)
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“シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2014"
配給:松竹メディア事業部
2014年10月25日(土)より東京:ヒューマントラストシネマ渋谷 大阪:シネ・リーブル梅田 名古屋:シネマスコーレ 福岡:福岡中洲大洋にて6作品一挙公開!!
『キョンシー』、『ボーグマン』は特集上映終了後も通常興行として上映予定!
▼「シッチェス映画祭」ファンタスティック・セレクション2014
『パトリック 戦慄病棟』
PATRICK
2013年/オーストラリア/96min/R15+
(C)MMXIII Roget Clinic Pty Ltd, Screen Australia, Melbourne International Film Festival Premiere Fund, Film Victoria, Screen Queensland, Cherryhill Holdings Pty Ltd, PDER Pty Ltd and FG Film Productions (Australia) Pty Ltd
『ボーグマン』
BORGMAN
2013年/オランダ=ベルギー=デンマーク/113min/R15+
(C)Graniet Film, Epidemic, DDF/Angel Films, NTR
『キョンシー』
RIGOR MORTIS
2013年/香港/101min/R15+
(C)2013 Kudos Films Limited. All Right Reserved.
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