ご無沙汰しております、印度です。
すっかり暖かくなったと思ったらもう5月なんですね。
皆様いかがお過ごしでしたでしょうか。
ずいぶん間が空いてしまいましたが、去年のカナザワ映画祭2013のレポの続きをお届けします。
レアな作品が多いので、ぜひ皆さんにもお伝えしたいのです。
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さて、映画祭も二日目。
午前中の一本目はまだCGIが「コンピューターアニメ」と呼ばれていた80年代半ばの作品、
『スターファイター』(1984)です。
The Last Starfighter [Blu-ray/DVD Combo + Digital Copy]
トレーラーハウスの貧乏長屋に住む少年が、TVゲームの腕を買われて、という、今で言うとラノベのりの作品。
エイリアンから「君こそ私が探していた戦士だ!」と宇宙戦争へスカウトされる
現在の視点では色々と粗も見えますが、全編良質のジュブナイルに仕上がっており、藤子・F・不二雄先生の「S・F(すこし・ふしぎ)」な作品にも通じる魅力があります。
30年前のCGIもなかなか微笑ましく見えてしまいますね。
▼今見ても、結構グッとくる「スターファイター」予告編
そして、夕方からは今回の映画祭の目玉の一つである
『獣人島』(1932)が上映されました。
SFファンなら名前ぐらいは聞いたことあるでしょう。
SF作家の草分け、H・G・ウェルズの「モロー博士の島」の映画化作品です。
この原作は『獣人島』を含めて、三回映画化されました。
一番有名なのは、70年代のSF映画ブームに乗って映画化された『ドクター・モローの島』(1978)でしょう。
名優バート・ランカスターが風格溢れるモロー博士を演じており、『猿の惑星』(1968)でも知られる、特殊メイク・アーティストのトム・バーマンが担当した獣人達の姿も印象に残ります。
▼バーバラ・カレラが良かったなぁ…「ドクター・モローの島」予告編
その後も、これ又名優マーロン・ブランドをモロー博士に招いたものの、撮影現場が作品以上にカオスになってしまった怪作『D.N.A』(1996)などもありました。
D.N.A. / ドクター・モローの島 ディレクターズカット [Blu-ray]
▼獣人よりもマーロン・ブランドがキモい「D.N.A」予告編
そして、この『獣人島』こそが元祖なのです。
戦前にも日本公開されましたが、その後長らくリバイバルの機会も無く、
この映画祭が戦後初(!)の再上映となります。
この機会を逃せば、まずスクリーンで見ることも出来ないでしょう。
この作品が作られたのは1932年。
ちょうど前年にハリウッドの準メジャーと呼ばれたスタジオ・ユニヴァーサルが『魔人ドラキュラ』と『フランケンシュタイン』をヒットさせ、それまで”ゲテモノ”と蔑まれていたホラー映画が一躍注目されて、アメリカにホラー・ブームが起きていました。
準メジャーが当てたのですから、メジャースタジオとしては座視出来ません。
最大のメジャーであるMGMは、上品なスタジオカラーのなせる技なのでしょうが文芸調の『ジェキル博士とハイド氏』(1932)を作り、やはりメジャーのパラマウントが作ったのが、この『獣人島』でした。
メジャースタジオの意地というべきなのか、スタジオ撮影主体のユニヴァーサルに対し、モロー博士の島として、ロサンゼルス沖のサンタ・カタリナ島でロケまでしています。
物語は原作通りで、
南太平洋で難破した青年がモロー博士という謎めいた科学者が支配する島へと辿り着く
というもの。
この、モロー博士を演じるのは、『ノートルダムの僵僂(せむし)男』(1939)や『情婦』(1957)などに出演した、イギリスの名優チャールズ・ロートンです。
このロートン、尊大でサディスティックな役などには定評のある俳優でしたが、この映画でも、一見紳士的で理知的に見えて、動物を改造して作った獣人達をムチで服従させている、マッド・サイエンティストを怪演。
そして、作品の大きな見どころは「獣人」です。
特殊メイクを施された獣人が数十人登場するのですから、1930年代初頭の映画としては画期的でした。
メイクを担当したのは、当時ハリウッドでゴリラの名スーツアクターとして知られ、特殊メイクの草分けでもあるチャールズ・シェモラと、メイク・アーティスト一家に生まれた、やはりハリウッドにおける特殊メイクのパイオニアの一人だったウォーリー・ウェストモア。
ちなみに、ウォーリーの弟は戦後『大アマゾンの半魚人』(1954)の半魚人ギルマンのスーツを作った男、バド・ウェストモアでした。
この獣人達は、モロー博士の教育によって、日々
「四足で歩くべからず」
とか
「殺すべからず」
等と人間らしくなるための”掟”を暗唱させられています。
この獣人達に掟を暗唱させるリーダー格の獣人「ロウ・スピーカー(掟を告げる者)」を演じているのが、『魔人ドラキュラ』のドラキュラ役で知られるベラ・ルゴシ。
ルゴシは『ドラキュラ』でブレイクした後『フランケンシュタイン』のモンスター役もオファーされたものの、
「顔の見えない役はダメ!」
と拒否。
でも、メジャーのパラマウントから声がかかったと思ったら、顔なんか全然わからない顔面毛むくじゃらの役…
どうもルゴシは役者としては運が無かったようです。
▼もはや誰なのか全然わからない、「獣人島」のベラ・ルゴシ
そして、もう一人、モロー博士に忠実につき従う前屈みで歩く獣人ミンを演じているのが何と日本人俳優の駒井哲。
熊本出身で、サイレント時代から活動していたハリウッドの古株でした。
あの大監督セシル・B・デミルとも旧知の仲で「おやじ」と呼べる間柄だったそうです。
主人に忠実な獣人に日本人がキャスティングされているのも、当時のイメージなのでしょうか。
▼「獣人島」のロビーカードより。牙生やしてるのが駒井(くまい)哲
さて、最初は成り行きで漂着してきた青年を迷惑がるモロー博士ですが、ある事を思いついてからは
「この島でくつろいでいきたまえ」
などと態度を急変させます。
そして
「私が育てている、ポリネシア人の娘だ」
と紹介したのがエキゾチックな娘のロータでした。
この娘こそ、今や「ドクター・モロー映画」には欠かせないヒロインである「豹娘」です。
実は、原作の小説には、このキャラは出てきません。
映画化に際し
「やっぱり、映画には女っ気がいるだろ」
というハリウッド的解釈の産物ですがこれが大正解。
このヒロインが出てくることで、ストーリーがどんどん展開するのです。
『ドクター・モローの島』ではラテン系美女のバーバラ・カレラ、
▼ラストシーンがショッキングな「ドクター・モローの島」のバーバラ・カレラ
『D.N.A』ではイラン人の血を引くフェアルーザ・バーグ、
▼意外と出番の少なかったファイルーザ・バーグの豹娘
がそれぞれ豹娘を演じていますが、この映画では、これがデビュー作となったキャスリーン・バークという女優でした。
この三人に共通するのは”エキゾチックな容貌”でしょう。
このキャスリーン・バーク、演技もたどたどしいのですが、それが又人間であることに慣れていない豹娘のぎこちなさを、結果として上手く表現しています。
▼「獣人島」で一発屋になったキャスリーン・バーク
さて、豹娘は雌の豹を改造して作った、唯一の”女性獣人(変な言葉)”であり、主人公との関係が「人間と動物の血の混交」というアンモラルな展開をほのめかすのですが、この『獣人島』ではストレートにモロー博士がこう言い放ちます。
「あの男と豹娘の間に子供が作れるかどうか、やってみよう。
出来れば、私の作った獣人は完璧な人間だと証明される」
うわ?酷い話。
そんな事とも知らず、青年に好意を寄せる豹娘ですが、やっぱり技術的に限界があったのか、爪が鋭く伸びてきて、獣への退行変異が始まります。
この展開は、後の『ドクター・モローの島』にも取り入れられていますね。
そんな時、主人公を探すフィアンセが島へやってくると、モロー博士はオランウータンを改造した獣人に
「おい、あの人間の女、襲っていいぞ」
豹娘が上手くいかないなら、雄の獣人と人間の女性で試そうというわけです。
鬼畜ですねぇ。
しかし、ロートンは終始冷静で、ちょっと楽しそうな感じのキャラを作っています。
この強烈な人物造形は、後のSF映画やホラー映画でのマッド・サイエンティストのイメージ的な原点の一つと言えそうですね。
獣人に襲われそうになったフィアンセを助けて島からの脱出を図る主人公を、モロー博士は
「今日は掟を破っていいぞ、あいつらを殺せ!」
と命令したものだから、さぁ大変。
絶対だと思った掟を破ってもいいと気づいた獣人達は、日頃ムチや生体実験で自分達を虐待していたモロー博士にここぞとばかりに蜂起して、一斉に襲いかかります。
因果応報というべきか、獣人達は博士を捕まえると
「こいつも改造してやろう」
と研究室で連れて行って…
「ギャ?!」という悲鳴だけで現場を見せないのが、この頃の映画のお約束。
一方、主人公達はジャングルの中で追跡してきたオランウータンの獣人に襲われますが、そこを助けたのが、豹娘でした。
木の上から音をさせずに忍び寄り、獣人に襲いかかり、ちゃんと「豹」という動物のキャラを活かしています。
結局、獣人と豹娘は相打ちになり、主人公に
「あなたは生きてね」
と事切れます。
この活躍ぶりといい、出番の多さといい、『獣人島』のヒロインは当然この豹娘でしょう。
全体的にアンモラルなムード(イギリスでは何十年も上映禁止になっていた)漂う怪作ですが、アメリカじゃVHSもDVDも出ている、SFホラーの古典です。
日本ではほとんど知られていないのが惜しい作品なので、これを機に知られて、DVDやBlu-rayが出て欲しいものです。
▼今見ても、アンモラルさぷんぷんの「獣人島」予告編
さて、次回は聴衆を困惑と興奮へと叩き込んだ異色のトークライブ「新・映画理論講座」の模様をお伝えします。お楽しみに!
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