こんにちわ。印度です。
前回に引き続き、「映画観てないで、映画になれ!」と題して、カナザワ映画祭2013のレポートをお送りいたします。
さて、東宝東和配給の作品を続けて観た後で、
トークショー「東宝東和ギミック宣伝の極意」です。
この東宝東和の誇大宣伝全盛期に、
数々の宣伝企画を立案した凄腕宣伝マンである元東宝東和宣伝部次長の竹内康治さんと、
その宣伝をビジュアル面で支えたデザイナーの檜垣紀六さんを迎え、
お二人を取材した映画ジャーナリストの斉藤守彦さんを司会進行として行われました。
実際に、東宝東和の宣伝を再現した映画を観た後で、その宣伝マン達の話を聞ける。
何て贅沢なプログラム!
元々、戦前からヨーロッパ映画(当時の日本では、ヨーロッパ映画は専らインテリ層の観るものでした)の輸入で名を馳せた名門配給会社「東和商事」を源流とし、
いわゆる”名作”や”文芸作品”を配給していた東宝東和でしたが、
段々ハリウッド映画に押されて、興行収入にも陰りが見えてきたのが70年代半ばのこと。
そんな、じり貧になる名作路線から大転換を敢行したのが、
当時全く畑違いの経理部から抜擢された宣伝部長だったそうです。
元々ヨーロッパの名作に憧れて入社してきた竹内さんも、
新しい部長の大胆というか斬新というか、滅茶苦茶とも言えるアイデアには驚いたのですが、
部員達の試行錯誤の宣伝の末に見事大ヒットとなったが、あの
「決して、ひとりでは見ないでください」
のコピー(千葉耕一の怖ろしげな声!)も忘れられない『サスペリア』(1977)でした。
▼子供の頃はとにかく怖かった「サスペリア」
公開時、余りの恐怖で観客が死んだら、1000万円の保険金を支払うという「ショック保険」を宣伝し、
劇場に本職の看護師まで待機させる念の入れよう。
このキャッチー過ぎる宣伝が功を奏して、
ヨーロッパのしかもホラー映画としては異例の12億円の興行収入を稼ぎだします。
この作品が転機になって、いわゆる”東宝東和のギミック宣伝”が生まれたのでした。
その東宝東和イズムとは、竹内さんによると
「観客を楽しますこと」
に尽きます。
『ファンタズム』(1979)では、監督のドン・コスカレリが
「映画館を遊園地みたいにしたい」
と言ったことから発案したのが、例の「ビジュラマ」だったとか。
でも、実際に鉄球を劇場で飛ばしたり、小人に扮装させた社員を走らせたりしたものの、
タイミングが難しかったりして結局試写のみで断念したそうです。
他にも、
「映画の題名は、4?5字ぐらいで濁音と”ン”が入っていると当たる」
という宣伝部長の方針で、
『サンゲリア』とか、
『バーニング』(1980)とか、
『バタリアン』(1985)とか、
原題と全然関係無い東和的邦題が生まれました。
▼「バタリアン」のTVスポット(何故か石川県版)
中でも『サンゲリア』は当時入社したばかりの女子社員がワイン・カクテルの”サングリア”から思いついたそうで。
映画パンフレット 「サンゲリア」 出演 イアン・マッカロック/ティサ・ファロー
ウェス・クレイブンの『サランドラ』(1977)も、ギリシャ神話の魔物”サラマンダー”が元ネタ。
映画パンフレット サランドラ(1977作品) 発行所:東宝 出版・商品販促室(A4版)1984年発行 監督・脚本: ウェス・クレイヴン 出演: スーザン・レイニア
竹内さん「困った時のギリシャ神話だよね」
『サンゲリア』でも、もし恐怖の余り死んだ観客をハワイ(何故?)の墓地に葬るという
バージョンアップした「ショック保険」が話題になりましたが、これに関しても
竹内さん「実際に土地は押えてましたよ。
日本の保険会社は話に乗ってくれないから、
外国の保険会社を通じてやったと思うなぁ」
デザイナーの檜垣さんのお話も貴重でした。
『サスペリア』のポスターでは、赤が基本の映画広告の常識にあえて逆らって、
メインビジュアルに緑色を大胆に使い、
更にタイトル・ロゴをヘビがのたくったような字体にして、
見る人の不安感を煽るようにデザインしたそうです。
主役のジェシカ・ハーパーが
「華奢で可憐で色気が足りないので」
メインビジュアルには脇役の女優を選びました。
『バーニング』のポスターの下にシルエットで映っているのは東和の女子社員の皆さん。
映画パンフレット 「バーニング」 出演 ブライアン・マシューズ/リア・エアーズ/ブライアン・バッカー
絵面が寂しいので、写真を入れようということになったものの、ド素人だからポーズが撮れない。
檜垣さん「仕方が無いから何百枚も撮って、中から選んだよ」
▼「全米27州で上映禁止!」の「バーニング」
他にも、ジャッキー・チェンの初期の映画は、
ゴールデン・ハーベストが写真を全然送ってくれないから、
宣伝で来日したジャッキーを訪ねてホテルでポーズを取ってもらって撮影した
とか、
『Mr.Boo!』もやっぱり写真素材が無くて、イラストのポスターになっちゃった
とか、面白い話が一杯!
中でも『ランボー』(1982)は、
社員旅行で行った熱海の夕陽、ありものの摩天楼のスチール、
そして檜垣さん自身の腕を合成して作ったミラクルなポスターでした。
映画チラシ 日比谷映画「ランボー」監督 テッド・コッチェフ 出演 シルベスター・スタローン、リチャード・クレンナ、ブライアン・ドネイ、デビッド・カルーソ
そう思って見ると、又違って見えてきますよ。
そして、最後に司会の斉藤さんも
「ボクも色々言いたいことがあるんです!」
と熱っぽく語ったのが、この『メガフォース』(1982)。
40代の映画ファンは皆一言言いたいのではないかと思う、この映画。
竹内さんによると
「ゴールデン・ハーベストが世界に打って出るっていうから、こっちも期待してね。
フィルムが来ないからポスターじゃ車を大きくしたら、
実際に観たら、あんなに小さくて…
ポスター自体はいい出来だったから、アメリカの配給会社からも引き合いが来たけど、
実際の映画観たら『いりません!』だって(笑)」
▼「正義は勝つのさ!80年代でもな!」のキメ台詞も虚しい「メガフォース」
こんななりふり構わぬ宣伝が可能になったのも、
東宝東和はワーナーや20世紀フォックスなどのハリウッドメジャーの日本支社では無い、
日本地場の独立系配給会社であることも一因でした。
メジャーの大作は系列の日本支社に押えられていて、手が出せない。
だから、マイナーな作品の掘り出しものを探してきて、
あの手この手の宣伝でとにかく世の中の関心を惹く。
そして、その気になった観客が劇場に足を運んでもらえれば勝負あり。
例えば、デヴィッド・リンチの出世作『エレファントマン』(1980)も、
劇場が他の映画の都合でスケジュールが空いてしまい、
急遽公開にこぎつけたピンチヒッターだったといいます。
映画チラシ ヒビヤ有楽座「エレファントマン」監督 デビッド・リンチ 出演 ジョン・ハート、アンソニー・ホプキンス、アン・バンクロフト
当時存命だった東和の創業者にして日本映画史の巨人、川喜多長政会長が
「この映画はいい」
と太鼓判を押していたこともあり、超特急で宣伝を仕掛け、
エレファントマン=ジョン・メリックの顔を絶対見せないようにして、
見事ヒットさせたのでした。
▼TVでは国広富之が吹き替えていた「エレファントマン」
当時中学生だった私は、この映画のTVCMを見て、
「一体どういう映画なんだかわからないなあ…」
と思っていたものです。
ただ、エレファントマンってどんな顔しているのなぁと気になりましたから、
見事に竹内さんの宣伝の術中にはまっていたわけですね。
終始淡々とした口調で次から次へととんでもないエピソードが出てくるお二人の話を聴いていて、
あぁ東宝東和の宣伝を観られる時代に生まれついて運が良かったな、と思いました。
とても今だったら出来ない、
世の中が受け入れないような宣伝ばかりが現実に行われていた、
夢のような時代だったのです。
伝え聞く昔々の映画の興行は、いかがわしくて煽情的で
宣伝していた映画と全然違う映画が上映されることや、
別の短編映画同士を勝手に編集して一本に仕立て上げるニコイチ商法もあったとか。
それでも多くの観客が喜んで映画館へと足を運んだといいます。
東宝東和はそんな活動写真時代から続く、
映画本来のあり方を現代まで伝えていた、最後の活動屋だったのかもしれません。
さて、次回は『ファントム・オブ・パラダイス』と
観客総参加で盛り上がった『ロッキーホラーショー』の模様をお伝えします。
映画チラシ 「ファントム・オブ・パラダイス」監督 ブライアン・デ・パルマ 出演 ポール・ウィリアムス、ウィリアム・フィンレイ
お楽しみに!
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