ご無沙汰しております、印度です。
秋です。今年もカナザワ映画祭の季節がやってまいりました。
もちろん、私も参加してきましたので、今回よりそのレポートをお届けします。
今年のカナザワ映画祭のテーマは「A STEP BEYOND MOVIE THEATER」。
“映画館の彼方への一歩”とでも申しましょうか。
映画館で映画を観ているだけじゃなくて、一歩踏み出して、映画と一体になって楽しもう
という趣旨です。
日本映画界の誇大宣伝の代表であった東宝東和や、
アメリカで上映中の劇場に様々なギミックを施して観客を驚かせた伝説のプロデューサー、ウィリアム・キャッスルの作品をフィーチャーし、
映画だけでは無く、映画館の空間そのものを作品の一部として楽しもう、という企画が一杯。
DVDやブルー・レイなどのソフトやネット配信の映画を家で観られる時代になり、
「映画館にわざわざ足を運ぶ必要ってあるの?」
という声も聞こえる世の中に、あえて映画館で観ることの楽しさを思い出そう、
というなかなか素敵なアイデアです。
私が参加したのは、初日である9月14日(土)から。
まず観たのは、ゾンビ映画の歴史に輝く名作(でしょう)『サンゲリア』(1979)。
映画パンフレット 「サンゲリア」 出演 イアン・マッカロック/ティサ・ファロー/リチャード・ジョンソン/オルガ・カルラトス
入場する時に、何と”ゲロ袋”をもらいました。
これは、1980年の日本公開時に配給元の東宝東和(出た!)が、
アメリカ公開時には映像の余りのグロさに吐いてしまう観客が続出したこと(本当かな?)から
「気持ち悪くなったら、思う存分吐いて下さい」
と劇場で配ったという企画の再現です。
おぉ!
只の紙袋に「サンゲリア」の赤いハンコを押してあるだけなのに、何だか観る前からワクワクしてきます。
この、観る前に観客の想像力を刺激して、期待感を必要以上に高めるのが、
いわゆる80年代?90年代の東宝東和イズムでした。
私は田舎育ちで、リアルタイムで実際に経験する機会が無かったので、ことさら興奮してしまいました。
で、イタリアのホラー映画の巨匠、ルチオ・フルチ監督の代表作ですから、
内容については今更語ることも無いのですが、
やはり顔面にウジ虫がわいているゾンビのビジュアルに代表される、
全編を通じた泥臭い恐怖感は今でも色褪せません。
技術的には見劣りする部分も無いではないけれど、
尖った木製のドアの破片が女性の目に突き刺さる
シーンの痛さが伝わる演出(じわじわと近付いていくのが又痛い!)の秀逸さは永遠でしょう。
そして、海底でゾンビとサメが戦う斬新なシーンも忘れ難いものです。
ところで、ラストシーンで、
ゾンビが溢れて、パニックになっているはずのニューヨークのブルックリン橋の歩道をゾンビ達が歩いているのに、
下の車道で車がスムースに走っているのは一応人々が避難しているという解釈でいいのでしょうか?
(実は早朝のゲリラ撮影だったからですが(笑))
そして、二本目はやはり東宝東和配給の『ファンタズム』(1979)。
映画パンフレット 「ファンタズム」 出演 マイケル・ボールドウィン/ビル・ソーンベリー
これは…わけわかんね?な映画として知られています。
私も少年時代にTVで初めて観た時には、途中で寝てしまいました。
何でも、今回は日本公開時に試写会のみで行われた伝説の上映方式「ビジュラマ」が復活するとか。
ここは「え?東和じゃん!」とか野暮なツッコミは無しで、わくわくしながら観るのが楽しい観賞態度というものでしょう。
で、観てみると、何だ結構面白いじゃない!
いわゆるホラーだと思って観ると確かにデタラメな映画ですが、
これは不幸な出来事(両親の死、兄との別離)に直面した、
孤独で感受性の強い少年の心象風景をつづった映像詩”ダーク・ジュブナイル”とでも言いたい作品でした。
ボクの周りで悪いことばっかり起きているのは、何か皆が知らない秘密があるんだ!
だから、大好きなお兄ちゃんとこの秘密を探って、冒険するんだ!
という、思春期特有の自意識過剰な少年の妄想が全編に爆発しています。
今で言うとモロ中二病ですね。
そう思って見ると、町中に突然現れる死の世界の使者トールマンや
死者を小人に変えてしまう異世界も、又違った光景になってきます。
突然人間の頭に突き刺さる、刃物のついた空飛ぶ銀の球体”シルバー・スフィア”の唐突感も、
子供の夢がそのまま映像になったような奔放さに溢れています。
だから、お兄ちゃんが酒場で知り合った行きずりの女性と、
いい感じで墓地で青カン(死語?)してると、
主人公の少年はドキドキしながら茂みの中から覗き見するわけです。
この手の状況にありがちな「青い性」的ムードは微塵も無いのがこの映画のいいところ。
少年にとっては、
大好きな兄ちゃんをどこの馬の骨だかわかんない女に取られてたまるか!
という不安感と嫉妬心で一杯なシーンなのです。
そこで、小人を目撃し「ウワ?!」と悲鳴を上げながら、
真っ最中のお兄ちゃんの横を逃げて行く少年の姿には館内大爆笑。
折角の時間を邪魔されたお兄ちゃんの
「お、お前か?」
というリアクションにも失笑が…
客席から「つっこむの、そこ?」という絶妙な一言(女性)も聞こえてきて、
スクリーンと観客の間に幸福な時間が流れています。
などと意外にも楽しく観ていると、出ました、ビジュラマ!
フードを被った小人が画面に出てくると、ステージの上をドタドタと何かが走っています。
お、小人のコスプレをした人が、小人のシーンになるとステージの上を行ったり来たり。
これが伝説のビジュラマか…
▼当時のチラシ 驚異の新視聴体験装置って…
(サムネイルをクリックすると大きな全体画像でご覧になれます)
後で知りましたが、この時小人役で走っていたのは、このカナザワ映画祭を毎年取材している
雑誌「映画秘宝」編集部の田野辺尚人さんだったそうです。
田野辺さん、あまりの熱演でステージから転げ落ちてしまい、出血するほどの怪我をしてしまったとか。
体を張って私達を楽しませて頂いて、ありがとうございます。
それにしても、この映画の顔で、
後にシリーズ化された時にも無くてはならないキャラとなったトールマンを演じたアンガス・スクリーム。
まるでノッポになった西川のりおという強面の風貌ですが、髪も黒々として若い(当時50代前半)です。
十数年前にロサンゼルスで開かれた、ホラー雑誌のイベントにゲストで来ているのを観ましたが、
ステージ上でエドガー・アラン・ポーの詩「大鴉」を朗々と暗唱する物静かな老紳士でした。
当時は70代でしたが、長身にスーツをビシっと着こなし、かくしゃくたる様子でしたよ。
▼アンガス・スクリーム近影、御年87歳!
次回は、東宝東和で伝説のギミック宣伝を手掛けた、ご当人達が登場する注目のトークショーです。
お楽しみに!
*******2013/10/15********
第2回アップしました!
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