先行開催されていた東京ファンタが無くなってしまったその後も、
夕張市の財政破綻などの危機的状況に直面しながらも、
地元の方々、映画人、映画祭関係者、そして映画を愛する多くのファンの支持に支えられ、
今年の2月で23回を迎えたゆうばり国際ファンタスティック映画祭。
そんなゆうばりファンタの中でも、
新たな才能の発掘の場として第1回より継続されている
“ファンタスティック・オフシアター・コンペティション”部門で、
第21回(11年)の栄えあるグランプリに輝いた
『エイリアン・ビキニの侵略』(10)のオ・ヨンドゥ監督の受賞後第1作が、
今日3月23日より一般公開となるSFアクション・ミステリー篇
『探偵ヨンゴン 義手の銃を持つ男』だ。
ヨンゴンは“どんな依頼もお受けします”がモットーだが、
借金を形に美人でがめつい事務所の社長にこき使われている善良だけど冴えない探偵。
ある日そんな彼の元を訪れた謎めいた若い女から、殺人依頼を持ちかけられる。
ヨンゴンはソンヒョンと名乗るその女の依頼を断るも、
彼女のことが気になり後をつけた彼の目の前で、
女はいきなり三人の男に拉致され、
さらに連れ込まれた車が走り出した直後に事故を起こし、
女は命を落としてしまう。
女の死に責任を感じ独自に依頼の背後の調査に乗り出したヨンゴンは、
数日前に考古学者が博物館で殺害された事件に辿り着く。
そして出向いた博物館で出会ったのは死んだはずのソンヒョン本人だった。
だが彼女は、ヨンゴンのことを知らず、最初に出会った時にあった手の傷がない。
そして殺された考古学者の研究は、太古の遺物であるタイム・マシンだった…
監督・脚本のオ・ヨンドゥは72年生まれ。
映像製作集団“キノマンゴスチン”を設立し、
自主制作したオムニバス・ゾンビ・ホラー『隣のゾンビ』(09)は、
プチョン国際ファンタスティック映画祭で審査員特別賞と観客賞を受賞。
日本でも第20回ゆうばりファンタでの上映後、限定レイト公開を経てソフト化されている。
隣りのゾンビ~The Neighbor Zombie~ [DVD]
エイズの特効薬として開発されていたウィルスが変異した
ゾンビ・ウィルスの漏洩により破滅に瀕した世界。
ソウルでも、感染の拡大に伴い、政府による感染者掃討作戦がはじまっていた。
だが、多くの人々は、たとえゾンビ化しようとも、愛する恋人や家族を殺すことはできず、
彼らを匿っていたのだが…
ロメロの『ゾンビ』(85)で、
浮かれるスティーヴンにピーターが突きつけた言葉が意味する世界を、
廉目(かどめ)ではあるがそれなりのグロ描写を交えた悲喜劇として提示してみせた作品で、
ヨンドゥは全6話中の第1話“すきま”と第2話“逃げよう”を監督している。
このうち“すきま”は、『エイリアン・ビキニの侵略』、
そして本作でそれぞれヨンゴンを演じているホン・ヨングンのほぼ一人芝居編で、
ヨングンは第4話・6話では監督・脚本として参加している。
また“逃げよう”は『エイリアン・ビキニ〜』のタイトル・ロール、
そして本作の女社長(役名はどちらもハ・モニカ)を演じているハ・ウンジョンが主演と、
その後に続く彼らのチームワークの出発点となった作品だ。
(ウンジョンはヨンドゥの監督デビュー作の『クリスマスを切る』(07)にも出演しているそうだ)
▼隣りのゾンビ?The Neighbor Zombie? - YouTube
続く製作費30万円強で作ってしまった長篇が『エイリアン・ビキニの侵略』(10)
こちらは、
ソウルの町の勝手に警備員な童貞青年ヨンゴンが、
偶然出合った男たちに追われていた美女ハ・モニカを助け出し、自宅に匿うことにする。
ところがハ・モニカには、隕石で地球に飛来したエイリアンが憑依しており、
生涯で一日だけ子孫を生めるタイミングの今夜、
出会ったヨンゴンの精子を欲していたのだった…
ってな話。
先に書いたとおり、こちらがゆうばりの
ファンタスティック・オフシアター・コンペティションのグランプリ受賞作である。
インディーズ臭は色濃いものの奇想天外な設定と、
気合入り気味なヴァイオレンス描写がその筋的には楽しい一本。
ただ個人的には、後半多少息切れ感があったのが残念だったが…
▼映画『エイリアン・ビキニの侵略』予告編 - YouTube
そして、本題の新作『探偵ヨンゴン 義手の銃を持つ男』。
『探偵ヨンゴン〜』は韓国映画表記になっているが、
ゆうばりグランプリの賞金が製作にあてられ、ゆうばり映画祭が製作をサポート。
また、日本での配給元のキング・レコードや、
ゆうばりでヨンドゥ監督と意気投合した林海象監督らもプロデュースとして参加しており、
IMDB等の表記では韓=日合作扱いになっている。
今回ヨンゴンの役柄が韓国映画では少ないらしい探偵なのも、
林監督からの条件で韓国版“探偵事務所5”的立ち居地になるのだとか。
そして、作品規模的には勿論低予算であることには変わりは無いものの、
本作はインディーズを言い訳としないご機嫌な商業作品に仕上がっている。
これまでの作品が、ほぼ室内劇であったのに対し、
本作ではソウルの仁寺洞でのロケを多用し、作品世界を広げてみせる。
『エイリアン・ビキニ〜』でもスパイス的に使われていた
“時間”が本作のメイン・テーマ。
パラドックス的にはやや腑に落ちない部分が散見されつつも、
知ってしまった未来を変えるため、ソウルを駆けぬけ戦うヨンゴンたちの姿が、
実にエネルギッシュかつテンポよく描かれているため、
突っ込む間もなく気持ちよく乗せられてしまうこと請け合いだ。
そして今回ヨンドゥ組初参加となったヒロインのソンヒョンを演じるチェ・ソンヒョンの、
ちょっとファニーな持ち味を滲ませながらの美人さんぶりが!
社長役というサイドにまわりつつ、
やっぱりエロ・ケバさが光るハ・ウンジョンとのタイプの異なる綺麗どころによる競演も必見かと。
▼映画『探偵ヨンゴン 義手の銃を持つ男』予告編 - YouTube
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『探偵ヨンゴン 義手の銃を持つ男』
YOUNG GUN IN THE TIME
2011年/韓国/95min
提供・配給:キングレコード/配給協力・宣伝:太秦
2013年3月23日(土)より新宿K’s cinemaにてレイトロードショー!ほか順次公開
(C)kinomangosteen/KINGRECORDS
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