残暑お見舞い申しあげます。
ベッドの上に今流行りの涼しくなるという、いぐさマットを敷いて寝ている印度です。
さて、夏休みアメリカまんが祭り(勝手に命名)の第二弾として
「ダークナイト・ライジング」が公開中です。
バットマン ダークナイト ライジング BATMAN THE DARK KNIGHT RISES ポスター (120713)
「スーパーマン」と並ぶ、老舗DCコミックの二大看板ですが、
バットマンの映画デビューは実に70年前。
意外なことに、実写化されたのはスーパーマンよりも前でした。
当時、スーパーマンは既にアニメ映画化されていたからかもしれません。
バットマン初の映画化は1943年のこと。
普通の長編映画では無く、当時流行っていたシリアル(連続活劇)と呼ばれる、30分程度の短編を週替わりで上映する作品でした。
このジャンルは、低予算の子供向け作品ばかりだったのですが、コミックの映像化の歴史はここから始まります。
この時のバットマンは時代背景もあってか、アメリカ政府のエージェントとなっており、
敵はアメリカ国内に暗躍する大日本帝国のスパイ組織でした。
▼バットマンが「JAP!」を連発するゴキゲンな元祖BATMAN(1943)
悪役のドクター・タカは、この頃戦争映画『サハラ戦車隊』(1943)でアカデミー賞にもノミネートされた、
J・キャロル・ナッシュという役者さんが怪演しています。
その後も、やはり連続活劇の『バットマン・アンド・ロビン』(1949)が作られますが、
コミックそのものの人気も下降気味の時代に入り、次に復活するのは60年代。
そのきっかけは、あの成人誌「プレイボーイ」の発行人ヒュー・ヘフナーが面白半分に劇場を借り切って、
戦時中のバットマン映画を上映したところ、
「今見るとすっかり時代遅れになった違和感を楽しむ」人が続出してバカウケ!
この動きをすかさず見てとったTV関係者が
「確信犯的に安っぽくバカっぽく作る」というコンセプト(当時の流行語で”Camp!”と言いました)で
TVドラマの『バットマン』(1966‐1968)が誕生。
多くの日本人にとって、初めて映像で見たバットマンがこの作品でしょう。
子供の頃に再放送で見た私は、アダム・ウェストの緊張感の無い体型
(お腹もむっちりメタボだった・・・)をしたバットマンに唖然としたものですが、
まだCamp!というウィットを楽しむ年齢ではなかったのです。
▼どうみてもバラエティにしか見えないTV版「バットマン」の劇場版(1966)
アクションシーンになると、コミックそのままの擬音が画面に炸裂するのも、
ちょっとなぁ…という違和感もありました。
こんな具合に、長い間まともな扱いを受けてこなかったバットマンがシリアス&ダークに復活したのが、
皆さんご存知のティム・バートン版『バットマン』(1989)。
今ではバットマンというと、概ねこの作品のイメージが原型になっていますが、
ここまでは長い道のりというか歴史があったのですね。
▼真っ黒なバットマンに皆がビックリしたバートン版「バットマン」(1989)
当時、原作であるコミックも長らく続いた仮面探偵っぽいバットマンのイメージを、
鬼才フランク・ミラーが「バットマン/ダークナイト・リターンズ」によって払拭し、
新しい時代に突入していました。
バートンの『バットマン』はイメージとしては、このフランク・ミラーの作品の影響が濃厚です。
その後、ダークでビザールなバートンの『バットマン・リターンズ』(1992)や、
ケバケバしさとわかり易さが賛否両論のジョエル・シューマッカーによる
『バットマン・フォーエヴァー』(1995)と『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲』(1997)と続き、
再びバットマンは休止時代に。
それをクリストファー・ノーランが過去以上にダークさ、リアルさにこだわって復活させたのが『バットマン・ビギンズ』(2005)。
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バットマンの誕生譚を現代的に語り直すという、
やはりフランク・ミラー原作の「バットマン・イヤーワン」をストーリーの下敷きにしています。
現代のバットマンにおける、フランク・ミラーの存在の大きさがわかりますね。
ブルース・ウェインの両親を目の前で殺されたトラウマ、
そしてその心の傷の産物であるバットマンを描いた『ビギンズ』は、
大富豪であるブルースが何故バットマンになるのか、を掘り下げた作品です。
バットマンのオリジンは元々連載の過程で後付けのように作られた設定なのですが、
その言ってみれば適当に作られた設定を逆手にとって、
深みのある話を作り出すのが長い歴史を持つアメコミというジャンルの奥深さでしょう。
色々な作品で繰り返し語られていること、それは
「ブルースの心の闇こそがバットマン。
ブルースは、バットマンでいる時だけが生きている実感があるという倒錯した人生を送っている」
ということ。つまり、
ブルースは狂っている。狂っているからこそバットマンになるのです。
これはバットマンの敵ヴィラン達にも共通していて、
ジョーカーもペンギンもトゥーフェイスも皆独特の価値観(狂っているとも言う)で悪事を起こします。
だから、原作のバットマンの世界ではマフィアなどの普通の犯罪者達は、
ヴィラン達(バットマンも)を「フリーク」と呼んで嫌悪し、敵視しているのでした。
犯罪者も含めて普通の人から見れば、
バットマンもヴィランもその行動の結果は違うけど、
ヘンなカッコしてヘンなことをしている、アブナイ人達だということです。
バットマンとヴィランは対立しつつも似たもの同士。
狂っているヴィランと戦えるのは狂っているバットマンだからなのか、
いや、バットマンにとってヴィランこそが自分が存在するために必要な相手なのかも。
そんなヴィランの中でも、特に純粋に狂っているのがジョーカー。
ノーランのバットマン第二作の『ダークナイト』(2008)では、
金でもなく、恨みでもなく、只人々に恐怖を与えることを目的としているジョーカーが登場して、
これが遺作となったヒース・レジャーがバットマンを食ってしまうような
畢生の圧倒的な怪演技を見せたのも記憶に新しいところでしょう。
特に一般人と犯罪者の命を互いに天秤に掛けさせて、
自らの良心をギリギリまで揺さぶろうとするやり口には観ていてゾクゾクしました。
そんな『ダークナイト』を経た『ダークナイト・ライジング』ですが、
一本の映画として観た場合、前作のような人間の心に問いかける根源的な問いのようなディープな要素は薄まった印象があります。
ゴッサム全体を核テロで封鎖するようにスケールが大きくなって、確かに完結編という風格も出てきますし、
新登場の飛行メカ「ザ・バット」の活躍も見ごたえ十分です。
しかし、今回の敵のベインはジョーカーに比べるとやっぱりキャラが弱いのも否めませんし、
ラストに出てくるもう一人の敵(ネタバレになるからナイショ!)の存在も途中で察しがついてしまうし、
まぁ蛇足かな、と。
やはり、『ダークナイト』を観て期待値が上がっているから、どうしても厳しい目で観てしまうのかもしれません。
という具合で色々と不満はありますが、三部作の一つとして、
そして完結編として観た場合、この作品は意外にもヒーロー作品として王道を歩んでいます。
バットマンが最大の危機に陥り、
ブルース・ウェインとしての富もバットマンとしての装備も全てを奪われて、
地の底へと追放され、正にどん底。
そこから復活し、文字通り身を捨ててゴッサムを救う(だから、ラストのどんでん返しは、無かったことにして欲しいけど・・・)
気恥ずかしくなる、だけど燃える、今も昔も皆がヒーローに求める姿がここにありました。
そして、バットマンだけではなく、ゴッサム警察のゴードン本部長(ゲイリー・オールドマン)や
若き刑事ブレイク(ジョセフ・ゴードン)、
一度は我が身可愛さから逃げようとしたフォーリー副本部長(マシュー・モディーン!久しぶり!)さえも
ベイン達に立ち向かい、バットマンと共に戦います。
ヒーローはバットマンだけじゃない。
正しいことのために立ちあがる勇気と意思があれば、誰もがヒーローとなれる。
人間の持つ闇の世界に生きるダークヒーローと言われるバットマンなのに、
どうしてどうして王道なヒーロー賛歌じゃありませんか!
これこそ、ヒーロー映画を観る醍醐味、ではないでしょうか?
特にスーパーパワーを持たない、
普通の人なのに頑張ってヒーローをしているバットマンの世界だからこそ、説得力があるのです。
それから、バトルヒロイン(とモンスター)が好きな私にとって、
キャットウーマンがこれだけ活躍する映画を嫌いにはなれません。
元々キャットウーマンは他のヴィラン達とはちょっと違う存在です。
犯罪者だけど、犯罪を行うことでバットマンと繋がっていたい。
いや、犯罪を通じて戦う時だけがお互いの心の深い部分に触れ合える得難い一時かもしれない…
そんな相手です。
だから、敵でも味方でも無い、誠に屈折した関係と言えるでしょう。
今回のキャットウーマンは、精神的にも肉体的にもタフなセリーナ・カイルを
アン・ハサウェイが好演していました。
黒づくめの女泥棒ファッションもいいですが、
ブカブカの囚人服着て、ちょっかいを出してきた囚人の腕をヘシ折るシーンのカッコよさにも痺れます。
▼キャットウーマンのシーンが多めのTVスポット(囚人腕折シーンあり!)
是非ハル・ベリーの黒歴史な『キャットウーマン』(2004)を無かったことにして、
アン・ハサウェイ主演の「キャットウーマン」の映画化を熱望するものであります!
ps。
私事ですが、現在発売中の『SFマガジン2012年9月号』アメコミ特集に寄稿しております。
ご興味のある方はぜひ(^^)/
(関連リンク)
▼アン・ハサウェイ、「キャットウーマン」スピンオフに意欲 : 映画ニュース - 映画.com
▼『ダークナイト ライジング』ゲイリー・オールドマン&ジョセフ・ゴードン=レヴィット 単独インタビュー - シネマトゥデイ
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