『スノーホワイト』元々は怖いグリム童話? いや、ダークなスーパーヒロイン映画!

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ご無沙汰してます、印度です。

現在『スノーホワイト』が絶賛公開中ですが、今年は何故かグリム童話の当り年です。

snow

「白雪姫」の映画化はもう一本、
ジュリア・ロバーツが女王、フィル・コリンズの娘リリー・コリンズが白雪姫役の
白雪姫と鏡の女王』が秋公開を控えていますし、
成長したヘンゼルとグレーテルがウィッチハンターになった
ヘンゼルとグレーテル』が来年公開の模様です。

さて、この『スノーホワイト』、
いわゆるフェアリーテール(おとぎ話)が原作なのに、
人は惨たらしく殺されるし、
小人さん達もあんまり可愛くないし、
クライマックスは史劇みたいに白雪姫が軍勢率いて、悪の女王の城に攻め込むし…
「こんなの白雪姫じゃ、な?い(涙)!」
などという声もちらほらと聞こえますが、
元々グリム童話というのは土俗的で血生臭いのです…


もちろん、この映画は現代風にアレンジはしてありますが、
元々のグリム童話はゲルマン民族の民間伝承を元にしており、
今の私達とは異なる価値観に基づいていました。

shirayuki

だから、子供向きにリライトされたものではない原作をよく読むと、
残虐な処刑(内側に釘のついた樽に入れて転がす、焼けた鉄の靴を履かせる)、
食人(赤ん坊を食べる)、
切株描写(切り落とした自分の手を背中に縛り付けて彷徨う)、
近親相姦(親娘で結婚)、
など、ゴアゴアでアンモラルな話が少なくありません。

同じ童話でも、シャルル・ペロー(シンデレラ)とか、アンデルセン(人魚姫)とかに比べると
格段に怖いので、一時期はナチスと結び付けられて、
「ゲルマン民族の持つ残虐性の起源」みたいな言われ方をする事もありました。
(昨今の解釈では、昔話にはこの手の残虐描写はつきものらしいので、普遍性の表れということでしょうか)

それが、段々時代が進むにつれて、
野蛮な物語”が教会や子供に読ませる親などに批判される内にマイルドなおとぎ話へと変わっていきます。
特にそれに決定づけたのは、ディズニーでしょう。

ウォルト・ディズニー - Wikipedia
disney

例えば、現在私達が持っている「白雪姫」のイメージは、
恐らくディズニーのアニメ映画『白雪姫』(1937)が原型になっているのではないでしょうか。

白雪姫 スペシャル・エディション [DVD]
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ディズニー「白雪姫」ブルーレイ版予告

その後作られた映像作品も概ねは、そのイメージを踏襲しており、
例えばファミリー作品を多く手掛けている安心のブランド、
ホールマーク・プロが作ったTVムービー『スノーホワイト/白雪姫』(2001)などは、
現代風にアレンジされたディズニーアニメのフォロワーの一つと言えそうです。

▼ホールマーク版「スノーホワイト」
(白雪姫は「ヤング・スーパーマン」のクリスティン・クルック(春麗もやってた!))

それが、90年代になると元々のダークなグリム童話に着目した作品も出てきます。
(日本でも、桐生操の「本当は恐ろしいグリム童話」とかレディコミなんかでブームになりまし
たネ)

今回の作品のいわば先駆を成したのが、
シガニー・ウィーバーとモニカ・キーナが女王(正確には男爵夫人ですが)&白雪姫を演じた
TVムービー(日本では劇場公開)『スノーホワイト』(1997)でした。

▼97年版「スノーホワイト」(「おとぎ話は終わった」ってコピーはこっちが早かった)

この作品、ファンタジーと言うよりも、ホラー風味の昼ドラ調ドロドロ家族劇という感じでしたね。

さて、今回の『スノーホワイト』ですが、フェアリーテールでもホラーでもなく、
ダーク・ファンタジー系のアドベンチャームービーとでも言える作品に仕上がっています。

全編ほぼ霧や靄(もや)や煙にくすんだ荒涼たる風景の中で物語が展開し、
色彩豊かなのは妖精の土地だけという画作りにも、ダークな世界観が感じられました。

snow_bg

だから、スノーホワイトも、小人さんと楽しく暮らしていると、
騙されて毒リンゴを食べされちゃうような受身のヒロインではなく、
心臓をくり抜かれそうになるや排水口に飛びこんで城を脱出!という今風のアクティブなヒロインです。

snow_action

それには留まらず、狩人と共に魔物が跋扈する森を抜け、
大地の妖精である小人を味方につけ(いつも日本語では”小人”と呼ばれますが、
英語ではDwarf:ドワーフ、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズにも出てきた地底に棲む妖精の一種)
毒リンゴを食べさせられても愛の力(やっぱり・・・)ですぐに復活して、
「私に続く者はいるか!」と民衆に檄を飛ばして軍勢を従えるという、
いかにもファンタジーのヒロインらしいプリンセス。

snow_kansyuu

戦装束(いくさしょうぞく)に身を包んで決戦に臨むのも、
アリス・イン・ワンダーランド』(2010)もそうですが、
現代のファンタジーヒロインのお約束になりつつあります。

snow_armer

対する女王ラヴェンナも記号的な悪役ではなく、
美貌と魔力と強い意志を武器にして男達の間を生き残って来たタフな女性として設定され、
それ故に自分の武器である美貌が失われる(自分より美しい女性=スノーホワイトが現れる)ことを
恐れるのが、老いてゆく女性の嫉妬だけでは無い説得力が加わっています。

snow_queen

全体的に、この光と闇を象徴する二人のヒロインの戦いという構図が濃厚なので、
男性キャラクターは『マイティ・ソー』(2011)の俺様演技も記憶に新しい
クリス・ヘムズワースの狩人以外は一様に影が薄く(小人達は男というよりもクリーチャー扱いなので)、
日本で言うと、『美少女戦士セーラームーン』(1993‐1997)みたいなスーパーヒロイン作品みたい
なムード
もあります。

snow_pair

大体、海外でもこの手のスーパーヒロインものはキワモノなのでしょう。

スーパーガール』(1984)然り、
『バーブ・ワイヤー/ブロンド美女戦記』(1996)然り、
『キャットウーマン』(2004)然り、碌な作品がありませんが、
この『スノーホワイト』はスーパーヒロイン映画という視点で見るとなかなかしっかりした作りになっています。

意外にも、なのですが、この作品を後世から見れば、
スーパーヒロイン映画の新時代を拓いた一本になるかもしれません。

snow_battle

それにしても、演じる女優の格の違いなのでしょうが、
明らかに主人公のはずのスノーホワイトよりも、
悪の女王ラヴェンナの方に焦点が当っており
(今までの作品でも、この傾向はまま見られましたが)
やはり正義のヒロインという制約の無いキャラなので、
より自分の意思や欲望や恐怖が生々しい形で表現出来る悪役は美味しい
ということなのでしょう。

それから、私が取り上げるのですから、やっぱりクリーチャーのことにも触れておきたいですね。

予告編にも登場して大いに期待させたのが、黒い森の外れに棲むトロルです。

snow_troll

これもドワーフのように、北欧神話由来の妖精の一種で
ファンタジー作品(『ハリー・ポッターの賢者の石』(2001)や『ロード・オブ・ザ・リング』三部作にも出ていましたが)では常連。

この作品でのトロルは角を生やした姿で、植物のような動物のような、
どちらともつかない風貌をしているのがちょっと目を惹きます。

トロルのシーン 「スノーホワイト」より

CGIを担当したスタッフによると、サイやゾウの皮膚、
そして木の根をモチーフに、このようなハイブリッドな姿を創造したとか。

「スノーホワイト」 クリーチャーエフェクトのビハインドシーン

劇中にはありませんでしたが、
スチール(パンフの裏表紙にも使われています)になっている霧の中で、
トロルとスノーホワイトがシルエットで向かい合っている幻想的なシークエンスも観てみたかったものです。

snow_troll

それから、白雪姫には欠かせない「鏡よ、鏡」の魔法の鏡から出てくるミラーマン
ラヴェンナが声をかけると鏡の中から液体状で流れ出て、人型になるクリーチャーでした。

snow_mirror

出番は少ないのですが、こういう流体の映像処理は正にCGIのお家芸というところで、
『ターミネーター2』(1991)のT-1000から早二十年余り、洗練された動きを見せていま
す。

クリーチャー繋がりで言うと聖域に棲む妖精達もいますが、これがまんま『もののけ姫』(1997)。
スノーホワイトの前に白いシカが現れるくだりなんか、まるっきりサンとシシ神でした。

「もののけ姫」完コピ! 「スノーホワイト」の妖精の森

見比べてみよう! 「もののけ姫」

西洋の古典を映画化したら、中には日本のアニメの影響がにじんでいる。
喜ぶべきことなのでしょうか…

小説やアメコミでも飽き足らず、
とうとう昔話にも手を出すほどハリウッドはネタ切れだ!と企画力の枯渇を嘆く向きもあるようですが、
おとぎ話を大人向けのファンタジーに作り変えてくれれば、私達ジャンル者には大歓迎。
ほら日本にも、「桃太郎」みたいな格好の題材もあるじゃないですか!

映画『スノーホワイト』予告編 - YouTube

映画『スノーホワイト』公式サイト 大ヒット上映中!


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