武「今日は期待しています」
拝「何が?」
武「どんな料理が出て来るのかです。
今日取り上げる映画は『南極物語』じゃないですか。だから、南極に関係した料理かな…なんて」
と、つい頬が緩んでしまった。
南極基地での料理はかなり美味しいらしいと聞いた。
映画『南極料理人』(09)では、料理が本当においしそうに見えたし、そのレシピをまとめた本「ごはんにしようよ。」も出版されている。
映画に登場した、伊勢エビを丸ごと一匹使った超ジャンボフライ、なんて一度でいいから食べてみたい。期待しているのはそういうのですよッ、拝編集長!
拝「凄い期待しているね。今日のメニュー、確かに"南極"と関連したものなんだ。でも、ちょっと方向性がねぇ…」
と、そこに店員が料理を運んできた。
…かき氷だった。
南極は氷の大陸だからか…。
この甘さ、酒に合わないとは思うのだが…あ、そういえば、拝編集長は甘いものでも大丈夫だった。
しかし、かき氷とサワーだと、お腹が思いっきり冷えそうだな…
なんだろう、今感じている頭の痛さは。
氷を食べたせいで起きる"アイスクリーム頭痛"に違いない…と信じよう。きっとそうだ。
『南極物語』は、南極越冬隊の実話をもとに描く、1983年7月に公開された大ヒット映画である。
『もののけ姫』(97)に抜かれるまでは、日本映画歴代一位の興行記録を保持していた作品だ。
↑主演”荻野目慶子”版ポスター
昭和33年2月、交代のために、第二次越冬隊が観測船宗谷で南極昭和基地へと向かった。しかし、悪天候のために昭和基地へはたどり着けず、越冬は中止された。
宗谷へ帰還する第一次越冬隊は、ギリギリの装備しか持ってくる事が出来ず、一緒に越冬した犬たち十五匹を、連れて帰って来ることは出来なかった。
初夏、第一次越冬隊の犬係だった潮田(高倉健)は、大学講師の職を辞して、犬を供出してくれた人々を訪ねる謝罪の旅を続けた。それを知ったもう一人の犬係、越智(渡瀬恒彦)も合流する
その頃南極では、残された犬たちが生き残るために、極限の状況下、すさまじい戦いを展開していた…。
フジテレビが、大規模な資本を投入して製作した劇場映画。元々はテレビドラマとしての企画だったが、劇場用作品として予算をふんだんに投入して製作された。
現在では、テレビ局の映画製作は別に不思議ではないが、この当時、これだけ大規模な作品の製作は珍しかった。
1970年代後半くらいから、映画界には異業種の映画製作参入という流れが加速しており、『南極物語』もその中の一本だった。このコラムでは何回も取り上げている角川映画も、その流れの一つである。
映画は、南極に残された犬たちの描写にかなり時間を割いている。そのために、実話ではあるけれども、南極での犬の場面は、完全に製作者側の思い描くフィクションとなっている。
もちろん、犬の越冬は、誰も見た事がない以上フィクションとなるのは仕方のない事だが、映画の魅力の大半は、そのフィクションの部分に集約されているといっていい。
人間たちに見捨てられて、首輪をされたままの犬たちが次々に死んでゆく姿や、海への滑落、アザラシの襲撃や、オーロラとの遭遇など、その描写は厳しいもので、動物愛護の映画かと思って観ると度胆を抜かれるシーンも数多くある。情感のこもった小池朝雄のナレーションも、非常に効果を上げた。
南極ロケで実際に撮影された背景も臨場感たっぷり。劇場用35ミリフィルムカメラを南極に持ち込んだのは、この映画が初めてという事だ。
監督は蔵原惟繕が担当。『キタキツネ物語 THE FOX IN THE QUEST OF THE NORTH SUN』(78)『象物語』(80・監修)と、動物映画には定評のある、日活映画出身の監督だ。
誰もが知っている感動の再会の見せ方など、観客を楽しませるポイントをキッチリ押さえた演出も好感が持てた。
また、特筆すべきは、全編に神秘的な味付けを施す印象的なBGM。この映画公開の前年『炎のランナー』(82)で、アカデミーオリジナル作曲賞を受賞したばかりのヴァンゲリスの起用は話題となった。
テーマ曲はもちろん、劇中のBGMの透明感は素晴らしい。
武「素晴らしいテーマ曲でしたね」
拝編集長「『ブレードランナー』(82)『1492コロンブス』(92)の作曲家だよ!心して聴かなきゃ」
武「今度、何かの機会にヴァンゲリスを取り上げて下さい」
拝「考えておくのだ」
武「ところで、この映画2006年にディズニーでリメイクされています」
観た、観た!さすがにお国柄もあって、日本版みたいに犬には無茶させられないから、悲惨さはなかったな…。日本版と違って、最後まで犬の毛並みが良かったし」
武「木村拓也主演のテレビドラマ『南極大陸』(11)も、題材は一緒です」
拝「いくらキムタクでも、高倉健さんにはかなわないよね」
武「拝さんにとっては、この映画ちょっと物足りないんじゃないですか?女性があまり活躍しないですよ」
拝「何を言っているの!犬の持ち主役で荻野目慶子ちゃん、可愛かったじゃない。
それに夏目雅子さん。渡瀬恒彦さんとのカップルで、まるで『時代屋の女房』(83)だよ!」
武「『時代屋の女房』も『南極物語』も、同じ年に公開ですよ…」
拝「あ、そうなんだ。という事は、夏目雅子と渡瀬恒彦は"ベストカップル'83"って事だね。そうに違いない。
じゃあ、そろそろ"岸田森的視点"ド?ンとよろしく」
岸田森は越智(渡瀬恒彦)が通う、京都の喫茶店のマスターを演じている。
南極に関わる人々は、やむを得ず南極基地へ置き去りにしてきた犬の事で、非難を受けていた。
南極越冬隊に参加した越智は、帰国後にその事で苦悩、フィアンセ(夏目雅子)でさえ、南極の話題に触れるのはタブーだった。
だが、マスター(岸田森)は、そんなことはお構いなしに越智に向って、世論がおかしいと怒り、非難を繰り返している雑誌記事を怒りにまかせて越智に差し出す。
登場はたったワンカット。けれども、店の奥にある蝶の標本を触ろうとする女の子に、気配だけで「あかん!それ触ったらアカン」と注意する、時代劇の剣豪のような面白い役作りをしていた。
撮影は、映画公開一年前の、1982年7月中旬と思われる。京都の祇園祭を訪ねた岸田森の写真が残されており、撮影もその時に一緒に行ったのだろう。
撮影後の7月末に岸田森は入院、9月に手術を受け、一旦は回復するも症状は悪化、年末に急逝する事になる。
この時岸田森は、京都にいる蝶仲間を呼びだして、京都弁の指導を頼んで撮影に挑んだ。
そして、蝶の熱狂的なコレクターとしても知られる岸田森は、画面にインパクトがほしいと考え、その蝶仲間から撮影に使うために標本を持って来てもらったというのだ。
この映画のチーフプロデューサーは貝山知弘、『化石の森』(73)『はつ恋』(75)、それに以前取り上げた『狙撃』(68)『弾痕』(69)などで岸田森と組んでいる。
また、もう一人のチープロデューサー田中壽一は、岸田森が常連で出演していた岡本喜八監督作品で監督助手や製作を務めていた事もあり、また、『犬笛』(78)のプロデューサーでもある。
岸田森の出演は、ここら辺の繋がりだろうと考えられる。
武「この映画が、公開されたものとしては岸田森さんの最後の作品となります」
拝「遺作かというと微妙だね…撮影は『制覇』(82)のほうが後だし」
武「ところで岸田森さんの登場した喫茶店ですが、まだ残っているみたいなんです」
拝「へぇ」
武「京都の"西洞院綾小路南東角"…なんですがわかります?」
拝「何か暗号みたいだね…」
武「こちら、食べログにありましたので、どうぞ」
http://r.tabelog.com/kyoto/A2602/A260201/26013684/dtlrvwlst/1381360/
http://nais.blog.so-net.ne.jp/2006-05-01
武「レトロな雰囲気で、撮影当時の面影がまだ残っているそうです」
拝「次回は何か考えている?」
武「『鬼輪番』なんていかがでしょうか?」
拝「それ、小池一夫原作だね」
武「はい。なかなか過激で、いかにも70年代っぽい、面白い映画です」
拝「じゃあそれ、よろしく。次回もまたこの居酒屋で」
といいつつ、拝さんメニューを見て夏季限定の"凍結酒" 頼んでいる…。
なんか、テーブル中みぞれ状態の氷だらけだ。
見ているだけで、頭痛と腹痛がしてきた…
もう、今日の料理はあきらめて、お腹を壊さないように、なにか暖かいものでも食べて帰ろうかな…
岸田森「日本の一番暑い時が、南極の一番寒い時やって」
夏目雅子「マスター!やめてぇな。南極の話は、うち嫌いやって言ったやないの」
(背景の女の子が蝶の標本を触ろうとして)岸田森「あかん!」
岸田森「それ触ったらあかん!」 渡瀬「ほらほら、話そらさんと」
岸田森「これですわ(週刊誌を叩いて)これが悪いんですわ。これを読んださかい…」
(このブログはフィクションです。あなたが、いくら実在の人物とダブると思っても、あくまでもフィクションであることには変わりありません。その点に関しては"一任"させていただきます)
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