こんにちは、印度です。日本全体が暴風圏になったり、なかなかスリリングな春です。我が家では庭木が猛烈な風でピサの斜塔みたいになりましたが、皆さんのお近くでは桜はいかがですか?
さて、最近では猫も杓子という感もある3D映画ですが、その流れは今や世界規模になりつつあります。
そんな中、モンスターファンならチェックしておきたい作品が登場しました。
『チョムバギ/韓半島の恐竜 3D』です(韓国では北朝鮮との関係もあり、"朝鮮"という言葉は余り使われません。朝鮮半島も「韓半島」と表記します)。
韓国では1月26日に公開されるや、韓国のアニメ映画の興行収入を記録更新しました。
*以下、韓国の映画は、日本公開(TV放映・ソフトリリース公開を含む)作品は邦題、未公開作品は原題を直訳した仮題(未)として表記します。
近年、韓国では恐竜の化石の発見が相次いで、研究も急速に進展しているのですが、慶尚南道では世界最大規模(2000頭!)の恐竜の足跡化石が発見され、この映画の発想の元ともなっているようです。
ストーリーは、肉食恐竜タルボサウルスの一家に生まれた、末息子のチョムバキ(斑点付き、という意味)が、宿敵ティラノサウルスに父を殺されながらも、成長して一族を率い、父の仇であるティラノと宿命の対決をする、というもの。
何だか『ライオン・キング』ミーツ『ダイナソー』みたいな気もしますが、予告編を見ると"群れで子育てをするタルボサウルス"とか、恐竜映画好きにはオッ!と思うようなシーンも見られます。
とかく、恐竜をキャラ化した映画(『ダイナソー』や『リトルフッド』シリーズなど)では悪役である肉食恐竜を主人公にした事で、よりアグレッシブにストーリーが展開しているのではないかという期待も出来ますね。
韓国では、国内で新発見された恐竜の正体を求めて、研究者がモンゴルのゴビ砂漠まで赴いた調査の記録が、2008年に『恐竜発掘大作戦~よみがえるアジアの恐竜たち~』というTVドキュメンタリーとして教育チャンネルであるEBSで放送されましたが、この番組で恐竜がCGIで描かれて大きな話題になりました。
このドキュメンタリーが生みだした恐竜人気がきっかけとなり、更にヴァージョンアップされる形で作られたのが、この『チョムバギ』です。
↑『恐竜発掘大作戦?よみがえるアジアの恐竜たち』
これが映画デビュー作となったハン・ソンホ監督は、元々EBSのプロデューサーでもあり、『恐竜発掘大作戦』でも制作担当でした。そしてVFXスーパーバイザーとして、『ユリョン』(1999)や『ナチュラル・シティ』(2003)など韓国のジャンル映画を牽引する作品を作り出してきたミン・ビョンチョン監督を迎え、それまでの韓国映画には無い大規模なCGIによる恐竜達(50種類)を造り出しています。
↑ハン・ソンホ監督。
この映画にはソウル市も出資しているのですが、国を挙げて映画産業を支援している韓国らしい制作体制ですね。日本なら、恐竜映画に東京都が出資してくれる、なんてことはあり得ないでしょう。
韓流ブームもすっかり定着した日本ですが、ブームというなら、ホストみたいなイケメンが総進撃なドラマばっかりやっていないで、こういう作品も公開して欲しいものです。
ところで、ジャンル映画好きの間では結構有名な話ですが、韓国は日本やアメリカと並ぶ、世界でも数少ないモンスター映画の産地でもあります。
その歴史は実に1962年に遡りますが、韓国初のモンスター映画は『プルガサリ(未)』でした。後に北朝鮮も同じ題材で映画を作ったことも知られていますが、こちらが元祖です。この作品は韓国初の本格的特撮映画でもありました。尚、登場したプルガザリは巨大怪獣では無く、等身大のモンスターだったようです。
↑「大怪獣ヨンガリ」
その後もまるで日本の怪獣映画ブームと機を一にするように、1967年には韓国でも『大怪獣ヨンガリ(未)』と『宇宙怪人ワンマグィ(未)』という二本の怪獣映画がほぼ同時に公開されました。
ちょうど日本では『ゴジラの息子』や『ガメラ対ギャオス』、そして『大巨獣ガッパ』に『宇宙大怪獣ギララ』が公開されていた時、玄界灘の向こうでも怪獣ブームが盛り上がっていたのでした。
『ヨンガリ』は日本から大映のスタッフやエキスプロの面々が渡韓して特撮シーンを担当した事でも知られますが、『ワンマグィ』は完全に韓国のスタッフが作った純韓国産怪獣映画の走りでもあります。この『ワンマグィ』は、数年前に神武さんと共にソウルの国立映像資料院(日本のフィルムセンターに相当する施設)で観たので、機会があれば是非ご紹介したいですね。
↑『宇宙怪人ワンマグィ』
70年代には『ヒッピー惨殺(未)』(1972)という映画も作られていますが、これは済州島に汚染物質で突然変異した半魚人が現れ、科学者の造ったロボットと戦い、科学者の助手でもある巫女(ムーダン=朝鮮半島土着のシャーマン)が魔術でそこに絡んでくるという、カルト色満点な内容でした(アメリカではTVで放送されていますが、観た人によるとサイテー映画の類だとか・・・)。
1976年には、あのディノ・レ・ラウレンティスの『キングコング』のブームに当て込んで、「時代は大猿だ!」とばかりに巨大ゴリラが韓国を襲う韓米合作『APE(未)』という作品も出現。巨大ゴリラVS巨大ザメの対決が一部では有名な、これ又カルト作品です。さしずめ、『北京原人の逆襲』(1978)の不肖の兄貴分というところでしょうか。
↑『APE』
そして80年代、韓国の怪獣ファンの間でも「最低作!」「問題作!」として知られる『飛天怪獣(未)』(1982)という作品も登場。
これ、日本の円谷プロの『帰って来たウルトラマン』や『ウルトラマンA』や『ファイアーマン』の怪獣シーンを繋ぎ合わせて一本の映画にしちゃうという、アメリカ映画『裸の宇宙銃を持つ男』(1980)にピープロの『スペクトルマン』の怪獣が突然登場するような荒業を見せた怪作です。
それにしても登場するのは全部恐竜という設定なのですがテロチルスやドリゴンは兎も角、ベムスター(他にはベロクロンも出るとか・・・)を"恐竜"と呼ぶのは幾らなんでも無理があり過ぎでは。
↑マットアローにテロチルスって…みたいぞ『飛天怪獣』
90年代になると、韓国の喜劇王であり映画監督でもあるシム・ヒョンレが本格的に怪獣映画を作り始め、韓流怪獣映画の新時代が始まります。
1993年に人気キャラの"ヨング"と仲良くなった恐竜が大暴れする『ヨングと恐竜チュチュ(未)』を皮切りに、原始時代の人間と恐竜との戦いを描く「韓流恐竜100万年」といった感じの『ティラノの爪(未)』(1994)、ヨングが宇宙から来たブタみたいなモンスターと戦う『ヨングと宇宙怪獣ブルグァリ(未)』(1994)、ヨングが李氏朝鮮時代にタイムスリップしてドラゴンと戦うヒロイック・ファンタジー風味の『ドラゴン・トゥカー(未)』(1996)、そして『大怪獣ヨンガリ』をリメイクした大作『怪獣大決戦ヤンガリー』(1999)などを連発して、正に一人円谷プロ状態。
↑『ヨングと恐竜チュチュ』…一瞬な○お○みかと…
↑『ドラゴン・トゥカー』の写真
↑『怪獣大決戦ヤンガリー』
21世紀に入ってからも、鬼才ポン・ジュノ監督による傑作『グエムル‐漢江の怪物』(2006)、真打ちシム・ヒョンレ監督の超大作『D-WARS ディー・ウォーズ』(2007)、オブビートな本編と血みどろなモンスターエフェクトの落差が楽しい『人喰猪、公民館襲撃す』(2009)、韓国初の3Dモンスター映画『第7鉱区』(2011)など、ジャンル映画好きには記憶に新しい作品が次々と作られています。
↑韓国の円谷英二、シム・ヒョンレ(最近、スキャンダル続きで大変だそうです)
日本の怪獣文化の影響を受けつつ、独自の発展を遂げながら連綿と続く韓国の怪獣・モンスター文化はなかなかに興味をそそられるものがあります。未公開の作品も多いですが、近年は日本でも公開されるものが増えました。やはり、韓流ブームのお陰なのでしょう。そうした流れを受けて、『チョムバギ』も是非日本で観られる日が来る事を願ってやみません。
↑日本版よりモンスターの出番が多い「第7鉱区」英語版予告編
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