狼は生きろ、豚は死ね…反逆のピカレスクロマン!

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拝「今日は、レバ刺しなのだ」

皿の上には、ネギとゴマを散らしたレバ刺しの薄切りが並んでいた。
確か、生で食べるレバ刺しは、厚生労働省が規制を検討していると聞いた。だから、今のうちに駆け込みで食べようというのか。

武「このレバ刺し、臭みがなくてあっさりしていますね。おいしいです」

拝「それ、コンニャク」

武「コンニャク、ですか?」

きょとんとしている私を見て、拝編集長は満足気な表情で自分もコンニャクレバ刺しに手を伸ばしている。
確かに見た目は、レバ刺しそのものである。しいて言えば切り口が綺麗な直線すぎるというのが違うくらいか。

武「これ、美味しいですね。あまりにそっくりなんで、騙されちゃいました…あ!」
今日取り上げる映画は『白昼の死角』。法の盲点をついた詐欺を描いた作品だ。つまり、騙されるメニューか…。

拝「安い回転寿司なんて、まったく違う魚使っているって言うし。まあ美味しいから、こういう風にだまされるの、いいじゃない」
と、編集長はニコニコしている。

今日のメニューは、こういうので攻めてくるのだろう…まあ、いいか。
何がこれから出てくるのか不安だけれど、とっとと先へ進めよう。

『白昼の死角』は、終戦後の復興を背景に起きた東大生出身者による犯罪?光クラブ事件?を題材にした、高木彬光原作のピカレスクロマン。角川春樹が製作した、いわゆる角川映画の一本として映画化された。


昭和二十三年、東大始まって以来の秀才と言われた隅田光一(岸田森)が焼身自殺を遂げる。同級生らと設立した金融会社「太陽クラブ」は、戦後復興期に急成長を遂げるが、そのために目をつけられ闇金融容疑で検挙、信用を失い崩壊していったのだ。

隅田を包む情け容赦ない炎を見て、一緒に会社設立に参加した鶴岡(夏木勲)は、犯罪者として生まれ変わる決意を固めた。そして鶴岡は、手形金融「六甲商事」を設立、法の死角と盲点をついた完全犯罪を遂行しようとする…

次々と仲間を失いながらも、完全犯罪の道を突き進む主人公の生きざまを描いた、ハードボイルドタッチなピカレスクロマン。
映画公開当時、元総理大臣が逮捕されたロッキード社による収賄事件、いわゆるロッキード事件が日本中を騒がせていた。そのために、この映画のように法律の盲点を突いたピカレスクロマンは、終戦直後を舞台にした作品とはいえ、非常にタイムリーな企画だったといえる。

見どころは、金をだまし取ってゆくために次々と繰り出される、手の込んだ大掛かりな詐欺。あまりにも鮮やかに法律の盲点をついてゆく手口を見ていると、犯罪というよりも一種のマジックを見ているような爽快感があるのだ。映画は、この爽快感により支えられているといっても過言ではない。これが、ピカレスクロマンの醍醐味と言えるだろう。角川映画初主役となる夏木勲(現・夏八木勲)が、決して派手にならない渋い演技で映画をまとめている。

ヒット作を連発していた角川映画は、その経済力に物を言わせて、70年代映画を支えた脇役たちを豪華にキャスティングしているのが特徴である。本作品にも、かなりのクセ者俳優が集まっている。
主役に肩入れするヤクザに千葉真一

犯罪をなんとしても暴こうとする執念の検事を天地茂

無慈悲な犯罪に嫌気がさしてゆく主人公の相棒に、中尾彬、竜崎勝

主役のために、命まで投げ出してしまう愛人、島田陽子

夫の犯罪を知り、悩み苦しみ自殺する丘みつ子

金をだまし取られたために落ちぶれる最初の犠牲者、長門勇

夏木勲と鬼気迫る対決の末、金をだまし取られ壮絶な割腹自殺を遂げる佐藤慶

映画『ブレードランナー』やTVシリーズ『バトルスター・ギャラクティカ』でおなじみエドワード・J・オルモスの怪しい公使館秘書ぶり…

ほかにも成田三樹夫、室田日出男、内田朝夫、大前均、田崎潤、嵐寛寿郎、沢たまき、夏樹陽子柴田恭平、藤巻潤、内田良平、岸田森…と、本当に豪華絢爛である。この組み合わせだけでも一見の価値がある。


↑こちらはTV版。主演は渡瀬恒彦。かっこよすぎ!

拝「狼は生きろ!豚は死ね

武「いきなりですね」

拝「一度は人に言ってみたかったんだ、このセリフ。言われるのは絶対嫌だけど。」

武「別に私にじゃなくても…この映画のキャッチフレーズ、懐かしいです。当時TVCMで良く流れていました」

拝「主題歌のダウンタウン・ブギウギバンド『欲望の街』、イントロが印象的だったね」
武「このコラムで取り上げた『蘇える金狼』で千葉真一さんが、岸田森さんに襲われる直前、この歌を唄っているんです」

拝「同じ角川映画だからって、ずいぶんくだけているね。そういえばとんでもないゲスト出演者がいた(笑)」

武「角川春樹さんですか?」
拝「佐藤慶さんの会社の社長役。違和感が凄かった。ほかにもロッキード事件で有名になった当時現職の鬼頭判事補。まるっきりセリフ棒読み状態」

武「西田敏行さんや、突然登場する丹波哲郎さんなんか、登場シーンが少ないけれどもかなり豪華なゲストだと思います」

拝「そういえば、オープニングのタイトルバックがすごいでしょう。
空襲で焼け野原になった街が、いきなり地割れを起こして、その中から『白昼の死角』っていうタイトルがド?ンと登場!最初は特撮映画かと思っちゃった」

武「あれはすごかったです」

拝「じゃあ、そろそろ?岸田森的視点?も、ド?ンとお願いね」

岸田森は、太陽クラブの設立者隅田光一を演じている。
この隅田は、1948年に起きた光クラブ事件の主犯、山崎晃嗣をモデルにして描かれたキャラクターである。東大法学部きっての秀才で、世相を巧みに操りながら貸金業で急成長を遂げた。だが、その急成長ゆえに闇金融容疑で検挙され、貸金業は崩壊、行き詰まり自殺する。

原作では、前半かなりの部分隅田が主役で物語が進行して行くが、映画ではその死後活躍する鶴岡に焦点が当てられている。そのために、岸田森の登場シーンはかなり少ない。
映画が始まってすぐに、隅田は焼身自殺を遂げてしまう。実際の事件では服毒自殺なのだが、主人公鶴岡の人生を左右する事になる事件のため、よりインパクトのある焼身自殺に変更されている。
驚くべき事に、この火だるまのシーンは、岸田森が自らに火をつけて撮影しているのだ。

完全に火だるまになった所はさすがにスタントマンだが、映像を見ると、服に火が実際についたままで演技をしている。少ない登場シーンで、インパクトを出そうとしたのかもしれない。
『巴里の空の下』を口ずさみながら灯油を振りまき、踊りながら火を放つ演技には鬼気迫るものがあった。数ある岸田森の死にざまの中でも、かなり大変な撮影の一本だっただろう。

武「他には、東大生として学生服姿で登場します」

拝「それに、後半の主人公が見る幻覚の中に、白塗り姿で突然登場するね」

武「何故か野球のユニフォームを着て、アンダースローで投げているんです。白塗りのまま」

拝「それにしても、岸田森さんは結構無茶をするね。前回の『乱れからくり』火曜サスペンス版の47秒間瞬きしないシーンとか…」

武「悪役が多かったので、死に際の演技は毎回凝って考えていたという事です」

拝「そうなんだ…。凄い死に際演技が二本続いたから、ここまで来たら次回も岸田森さんの死に際が凄い作品で行けない?」

武「そうですね…『おんな極悪帖』はいかがでしょうか?この映画の岸田森さんのしぶとい死にざま、見ものですよ」

拝「面白そうだね。じゃあそれ、よろしくね」

と、そこに料理が運ばれて来た。
ソーセージ、イクラ、サイコロステーキ、フカヒレ…

武「これもやっぱり、コピー食品でしょう。もう騙されませんよ」

拝「さあね…食べて見たら?じゃあ、次回もこの居酒屋で」

そういうと、ニコニコとしながら料理を食べ始めた。
私も食べて見ると、…実に美味い。
これ、もしかして本物かも…でも、まてよ?今日は『白昼の死角』だ。…どっちだろうか。騙されているのかいないのか…
まあ、美味しければどっちでもよいか。
気にしない気にしない。


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