【名作探訪】大グモ映画の今昔『タランチュラの襲撃』

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こんにちは、印度です。
温かくなったと思えば、又寒くなったりしますが、皆さんいかがですか。

今回は日本で昨年DVDが出て、めでたく日本初ソフト化となった『世紀の怪物 タランチュラの襲撃』(1955)を紹介します。このDVD、解説を私が担当しましたが、字数の関係もあって、そちらでは触れられなかった事なども突っ込んで書いてみましょう。

世紀の怪物 タランチュラの襲撃 デジタル・リマスター版 [DVD]
世紀の怪物 タランチュラの襲撃 デジタル・リマスター版 [DVD]

 モンスター映画の中で、大クモはその姿形の凶々しい不気味さもあって、しばしば登場する重要なキャラクターです。
映画史の中でもその登場は早く、最も初期のものとしては有名なホラー小説「ジキル博士とハイド氏」を映画化した、1920年の『狂へる悪魔』ではジキル博士の幻覚として大きなクモが出現しています。何と、同じ頃の日本でも当時の大スター尾上松之助主演の時代劇『渋川伴五郎』(1922)の中で大グモの妖怪が登場していました。


↑『狂へる悪魔』の蜘蛛


モンスター映画のマスターピースでもある、『キング・コング』(1933)では結局カットされてしまったのですが、ストップモーション・アニメのパイオニアであるウィリス・H・オブライエンによって、スカル・アイランドの谷に出現する巨大グモが撮られていました。
長らく幻の映像でしたが、今ではDVDの映像特典やネット上の動画サイトでも観られるようになっています。


↑『キングコング』幻の巨大蜘蛛

 その他、ファンタジー映画の中でもしばしば大グモは登場し、『バグダットの盗賊』(1924)では水中に棲む水グモ、そのリメイク版の『バグダットの盗賊』(1940)でも巨大な仏像の中に巣食う人喰いグモなどが登場していました。


↑『バグダットの盗賊』(40)の人喰い蜘蛛

 しかし戦後になり、それまでの古代生物やファンタジーの中の存在としてのモンスター・スパイダーとは違う出自を持つ新たな大グモ映画として登場したのが、この『世紀の怪物 タランチュラの襲撃』でした。
直接的には巨大アリの軍団が人間を襲う、ワーナーの『放射能X』(1954)が打ち出した、"放射能によって巨大化する突然変異昆虫"というアイデアが元ネタになっているのですが、その後色々と現れた大グモ映画の事実上の祖ともなりました。

 監督のジャック・アーノルドは、この映画を撮る直前にTVアンソロジー『空想科学劇場』(1955-57)の第6話「思想に与える食糧なし No Food for Thought」の原案と監督を担当していますが、ストーリーはほぼこのエピソードが原型となっています。


↑元ネタになった「思想に与える食糧なし No Food for Thought」

 実際に見るとわかりますが、冒頭部分の展開は全く『タランチュラの襲撃』と同じですね。人里離れた場所で研究を続ける科学者が未来の食糧危機に備えて、放射線を当てた特殊な食糧を開発していた、という大筋も一緒です。
しかし、後半になると展開が全く違うので、初見の時には結構驚かされました。偶々ですが、『逃走迷路』(1942)の悪役オットー・クルーガーと『間違えられた男』(1958)のヒロインのヴェラ・マイルズという、ヒッチコック映画の出演者が顔を揃えているのが面白いですね。
そう言えば、『タランチュラ』の方の科学者だったレオ・G・キャロルもヒッチコック映画の常連でした。

 さて、この『タランチュラ』は公開されると大ヒットを記録し、巨大昆虫(厳密に言うとクモは昆虫ではありませんが・・・)系モンスターの古典の一つとなります。
当然のように、フォロワーも次々と登場し、自分の映画の中で何でも巨大化させてしまう男、人呼んでMr.BIGことバート・I・ゴードンも『吸血原始蜘蛛』(1958)で製作・監督・SFX(『タランチュラ』同様、本物のクモを撮影)までやれば、ウィリス・H・オブライエンも『黒い蠍』(1958)でストップモーション・アニメによる巨大サソリやシャクトリムシと共に大グモも登場させ、元祖モンスター・メイカーの貫録を見せました。


↑「吸血原始蜘蛛」の予告編

 60年代には我が日本の怪獣ブームの最中に、『ゴジラの息子』(1967)ではクモ怪獣クモンガがゴジラと戦い、TVでも『ウルトラQ』(1966)のホラー色の強い第9話「クモ男爵」ではタランチュラ、『ウルトラセブン』(1967-1968)の第18話「空間X脱出」でも宇宙人の操るグモンガといった巨大グモが登場しています。伝統的にスーツ主体の日本怪獣の中では珍しく、このクモ怪獣達はどれも操演(ワイヤーワークでモデルを操作する技法)で表現されていますが、クモ独特の形状を考えると当然でしょう。

 その後も70年代には祭りの山車のようなハリボテ然とした大グモが語り草の『ジャイアント・スパイダー大襲来』(1976)、80年代には透明なボディが印象的な異世界のクリスタル・スパイダー(スティーブ・アーチャーによるストップモーション・アニメ)が登場した『銀河伝説クルール』(1983)など、大グモは映画の中のモンスターとして欠かせない存在であり続けました。


↑「銀河伝説クルール」のクリスタル・スパイダー

 そして、CGIが映画にすっかり定着した90年代以降は、エイリアンのDNAがクモを巨大化させた『スパイダーズ』(2000)、昔懐かしい化学廃棄物による突然変異グモの大群が襲ってくる『スパイダー・パニック』(2002)など新世紀の大グモ映画が次々と登場。中には、21世紀もストップモーション・アニメで頑張る底抜けモンスター映画番長のフレッド・パイパーの『アラクニア』(2003)などもありますが、巨大生物パニック映画のブームの中でも根強い人気は変わらないようです。

 メジャーな大作でも、『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002)のアラゴク、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003)のシェロブなど、大グモ・クリーチャーはファンタジーに欠かせない存在であり、アニマトロニクスやCGIといった現代のVFXによって、よりリアルに、よりアクティブになってきてきました。

 大グモはこうして見ると、映画の中で実に100年にもなろうかという歴史を持っている、古くて新しいモンスターなのですね。

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エスピーオー 2011-11-02

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