拝「今日は日本酒持ち込もうとしたけれども、ダメだったのだ…
珍しい銘柄なんだけど」
武井「さすがに居酒屋に酒持ち込みはまずいでしょう。で、何を持ち込もうとしていたんですか?」
拝「三重県の酒なんだけれど『るみ子の酒』っていう特別純米なんだ」
武「『夏子の酒』みたいですね。」
拝「今日取り上げる映画は『ダイナマイトどんどん』じゃない。だから、それに合わせて選んだ日本酒なんだ。
『探偵!ナイトスクープ』で、小枝探偵がリポートした事があったけど、知らない?」
「ダイナマイトどんどん」と「日本酒」と「探偵!ナイトスクープ」…この組み合わせ、なんとなく予想がついてきた
武「それってもしかして?爆発?する日本酒ですか?」
拝「良くわかったね。一度本物の栓を開けてみたかったんだ。」
確かこの日本酒は?活性濁り生原酒 爆発酒?というオリジナリティ溢れる名前で販売されたはずだ。
『探偵!ナイトスクープ』では、栓を開けると四、五メートルくらい中身が噴き出し、文字通り爆発していた。
武「お店に迷惑ですよ…それに、爆発だけじゃなくて、お酒自体も美味しいらしいですよ」
いくら今日の映画のタイトルに?ダイナマイト?があるからって…
『大爆発』や『新幹線大爆破』を取り上げなくてよかった。
『ダイナマイトどんどん』は、第二次世界大戦敗戦後の混乱期、対立するヤクザが、抗争を?民主的?に野球で対決しようとする様子を描く、岡本喜八が監督した喜劇映画。
火野葦平の連作小説「新遊侠伝」が原作である。
昭和二十五年、北九州ではヤクザの抗争が激化していた。この事態を打開しようと、GHQの指導の元、野球大会で決着をつけさせる事にする。
これを機に、一気に勢力を拡大しようとする新興ヤクザ橋傳組は、資金力にものを言わせて、全国各地から野球上手な渡世人を集め出した。一方、昔堅気の岡源組には助っ人が集まらず、娼婦相手に野球を教えていた傷痍軍人の五味(フランキー堺)をやっと迎えただけだった。
いよいよ始まった野球大会の第一回戦、岡源組は、斬り込み隊長加助(菅原文太)の参加で番狂わせの大勝利を収める。
勝利に沸く岡源組に、助っ人として銀次(北大路欣也)が送り込まれてきた。銀次は、加助が惚れていた割烹の女主人、お仙(宮下順子)が心を寄せている男だった…。
それまで東宝映画中心に活躍してきた岡本喜八監督が、徳間書店傘下で再建した大映映画で製作した作品。東映から配給された。
ヤクザの抗争を喜劇タッチで描く作品に、ヤクザ映画の老舗東映映画のスターたちをメインにキャスティング、製作は『仁義なき戦い』シリーズなどのヤクザものを数多く手がけている俊藤浩滋、という本格的な「ヤクザ映画」布陣で臨んだ、岡本喜八監督としては異色な作品である。
野球の試合が、いつの間にか喧嘩になっているという展開が突飛すぎて面白い。ラストは予想通り大乱闘で終わるのだが、それまでの試合準備が、そのまま喧嘩の準備というアンバランスさが楽しかった。
どのような立場になっても、単純で懲りない面々が画面せましと大暴れするのだ。
菅原文太が演じる加助は、野球など子供の遊びとバカにしているが、惚れた女お仙の手前、ライバルの銀次(北大路欣也)に対抗して発奮する。
これは、菅原文太の代表作の一本『トラック野郎』シリーズの桃次郎そのままのノリ。伸び伸びと単細胞な斬り込み隊長を演じている。
ほかにも、昔堅気の親分を嵐寛寿郎、新興ヤクザの親分を金子信雄という、これもいかにもの善悪親分のキャスティング。何を喋っているのかまったくわからない嵐寛寿郎の可笑しな演技や、ユニホームをきっちり着こなしてすましている金子信雄の珍妙さが、他の映画では見られない面白さだ。
もちろん、岡本喜八映画の常連たちも大挙登場。中谷一郎、田中邦衛、伊佐山ひろ子、岸田森、二瓶正也、草野大悟らが、東映出演陣に混じって大活躍をしている。
拝「ニンキョ?!」
武「言ってみたかったんでしょう。映画での嵐寛寿郎の雄叫び、本当におかしかったですから」
拝「フランキー堺の『ブぁっかも?ん!』もよかった」
武「最後の最後に、フランキー堺の戦争体験がさりげなく絡んでくるのが、岡本喜八監督らしかったです。そういえば岡本喜八監督本人も、特別出演しています」
拝「どこに?」
武「菅原文太と北大路欣也が殴り合いをするシーンです。小屋から転げ出てくる労務者役」
拝「それは気付かなかったな」
武「同じシーンに俊藤浩滋プロデューサーも労務者役で出ています」
そこに料理が運ばれて来た。そういえば今日はまだ何も来ていなかった。
いきなり五目御飯のお膳である。お酒にご飯、ちょっと合わない感じだ。
武「この五目御飯、椎茸がよい感じに出汁が出ていて美味しいです」
拝「ん?五目御飯じゃないよ、加薬御飯だよ?かやく?。間違えないでね」
呼び方の違いだけで、内容はほとんど同じだと思うが…今日の映画?ダイナマイト?に合わせて?かやく?という事か…
まあ、美味しいから良いか。
では?岸田森的視点?どんどん行きます。
岸田森は、新興ヤクザ橋傳組の代貸、花巻修を演じている。
その最大の特徴は、ピンクのスーツと帽子という変なファッションセンス。
戦争に負け、すべてが新しくなる時代にぎこちなく適応してゆく、そんなチグハグさを服装で表したのかもしれない。形をまず作ってから演技に入るというのは、岸田森の演技の一つの特徴である。
また、時代に適応しようというぎこちなさは口調にも現れており、独特な口調で英語を混ぜた言葉を話すと思えば、突然九州の方言混じりで話す。そして、正式な場所では変なイントネーションの標準語と、三つの言葉を使い分けていた。特に演説会の時の変な標準語イントネーションは秀逸で、笑わされた。
実はこの役の演技プラン、なんと「ピンクパンサー」だったという。
正確に言うと?ピンクパンサーの人形?である。あの、ゴム製で針金が仕込んであり、自由に曲げる事が出来る、当時はやっていたものだ。あり得ないポーズをさせて遊んだ記憶のある人もいるだろう。
初めて脚本を読んだ岸田森は、今回の役はこのような感じに演じたいと、岡本喜八監督の前で?ピンクパンサーの人形?の演技をデモンストレーションしたそうである。
そのために、あのピンクの服装が生まれたとの事だ。
ラストの野球場での大乱闘中、岸田森は刑事に追われて、スコアボードの前を逃げまくるが、あのシーンは映画『ピンクパンサー』の真似だそうである。クルーゾー警部とピンクパンサーが、上下二段で追いかけあう、オープニングアニメシーンだ。
全編、きっちり決めようとして、微妙にずれる役を熱演、オープニングからラストまで、数多い出番を楽しそうにこなしていた。
拝「岸田森さん、セリフのイントネーションが全体におかしかったね」
武「かなり役を作り込んでいたのだと思います」
拝「ピンクのスーツって、あまり目立たないような感じだね。思ったより普通というか…」
武「実は、これポスターをデジカメで撮ったやつなんですけれども、こちらは物凄く派手なピンクなのが判ると思います。
映画のフィルムだと、どうしても色が褪せて見えるので、目立たないのではないでしょうか」
拝「本当だ。これ、街中で見たらびっくりするね…。ところで、次回も岡本喜八監督?」
武「はい。監督作品で大きな役というと、あと一つ『近頃なぜかチャールストン』がありますので、それで行こうと思います」
拝「老人独立愚連隊の話、あれ面白かったね。じゃあ、それよろしく。
次回もこの居酒屋で」
そう言いながら、編集長は店員に何かを頼もうとしている。
今日のメニューはなんとなく物騒なので、変なものが出ないうちに早く帰る事にしよう…
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