拝「あ、こぼしちゃった!」
武「だから無理だって言ったじゃないですか…目をつぶってお酒注ぐのは」
拝「おかしいな…座頭市はちゃんと出来ていたのに」
今日取り上げる映画は『座頭市と用心棒』
主役の市は盲目。酒好きの市は、徳利からお猪口に注がれる酒の音を聞いて、見事にこぼさず酒を注ぐ。
拝編集長は、それを実際にやってみたくなったようだ。
やってみると判るが、これはかなりの高等技。拝編集長に限らず、すぐに出来る人はあまりいないだろう。(まぁ普通はやらないよね)
ところで、今日の料理はうな丼だ。
武「リッチですね。」
拝「今日の映画、登場人物がゴージャスじゃない。だからメニューも豪華なんだ」
武「そうですか、ありがとうございます」
うな丼は美味しそうなので、ついお礼を言ってしまったが、
その理由だと、大作映画はすべてうな丼になってしまう。
…ま、それでもいいか。嫌いじゃないから。
『座頭市と用心棒』は、1970年に勝プロダクション製作、大映配給で公開された「座頭市」シリーズ第20作目。
勝新太郎の座頭市と、三船敏郎の用心棒という、大映、東宝映画の看板キャラクター同士の激突が、映画会社の垣根を越えて実現した映画である。
殺伐とした暮らしに飽き飽きした市(勝新太郎)は、三年前に訪れた平和な里へと訪れる。しかし、その里はヤクザ小仏の政五郎(米倉斉加年)一家のために変わり果てていた
市はそこで小仏一家の用心棒、佐々(三船敏郎)と出会う。佐々は、市が容易ならぬ相手と悟ると、居酒屋へと連れて行き一献酌み交わす。
その店で市は、三年前この村で出会った優しい女性、梅乃(若尾文子)と再会する。だが、里と同様、梅乃も変わり果てていた。
凶状持ちのために捕縛された市は、生糸問屋の烏帽子屋弥助(滝沢修)の口利きで釈放される。烏帽子屋は、政五郎の実の父だった。けれども、政五郎は、実父が隠している金の延べ棒を横取りしようとして、用心棒の佐々に頼り切っているのだ。それを知る烏帽子屋は、市を手許において、自分の身を守ろうとしていた…
公開当時、大手映画会社には五社協定という申し合わせがあり、映画会社同士の人材の行き来が非常に難しかった。そんな中、1960年代後半くらいから、スタープロダクションの製作作品で、会社の垣根を越えた共演が次々と実現、『黒部の太陽』『風林火山』などが新鮮さもあってヒットを飛ばしていた。
勝新太郎の勝プロダクションでの製作作品『座頭市と用心棒』も、この流れの延長にあるといえる。だが、他のスタープロ作品と違うのは、いくら勝プロダクション製作とはいえども「座頭市」は大映映画の看板シリーズ。
そこに、東宝の看板スター三船敏郎を出演させる、という形になってしまったのだ。しかも、三船敏郎のヒットキャラクター、用心棒そのままである。これはかなり異色な共演だったが、観客にとっては夢の対決だった。
そのためもあり、大映も製作に力を入れ監督の人選にも非常に気を使った。大映の監督ではなく、三船敏郎が信頼を置いている岡本喜八が、東宝からわざわざ呼び出されたのだ。
現在発売されているDVDは、東宝マークから始まるので違和感はないが、これは後に映画の権利を東宝が買い取ったため。公開当時は大映マークではじまったのだ。
岡本喜八監督のクレジットには現在でも「(東宝)」とわざわざ書かれているところに、その名残がある。
岡本喜八監督は、少数のスタッフと共に京都の大映撮影所に乗り込んでの撮影となったが、環境の違いから、現場ではかなりの混乱が起きた。この時のエピソードは「天才 勝新太郎」(春日太一著 文春新書)に詳しく書かれているので、興味のある方は一読をお勧めする。
三船敏郎の用心棒がそのまま登場する作品、という事もあるのかもしれないが、一つの宿場を舞台にして、ヤクザたちを同士討ちさせるという物語は、黒澤明監督作品『用心棒』と似た構成である。
前回取り上げた『斬る』も、同じ黒澤明監督の『椿三十郎』と似ていたが、『座頭市と用心棒』もまた、岡本喜八監督と黒澤明監督との資質の違いが表れた作品といって良いだろう。
黒澤明の描く用心棒というキャラクターは、素性がわからないところが魅力的なのだが、岡本喜八の描く用心棒は非常に人間臭く、公儀隠密でありながら、ヒロイン梅乃をめぐって座頭市と恋のさや当てをする。
座頭市もそうだが、二人ともヒーローではなく、欲もあり、どこか抜けた人物として描かれていた。
もちろん、映画のラストは座頭市と用心棒の対決、これは想像通り引き分けに終わる。大映と東宝を背負うどちらのキャラクターも斬るわけには行かなかったのだ。それだけの枷がありながらも、岡本喜八は見事に物語を展開させ、一つの宿場内で絡み合う人間模様を描き出している。
結局、これまでの「座頭市」シリーズとはかなり違った群集劇に仕上がっており、勝新太郎の作り上げて来た世界観とは、かけ離れてしまった作品として仕上がっている。けれども、この作品は『座頭市』(89)が作られるまで、シリーズ中最大のヒット作となった。
拝「二人のいがみ合いが面白かったね。何か子供っぽいんだな…ヒロインを巡るやり取りとか」
武「二人で『バケモノ!』『ケダモノ!』って呼び合ってるし」
拝「三船敏郎が市の前に初めて登場するシーン、伊福部昭の音楽が重厚に流れるから、何かゴジラの登場シーンみたい。三船はまるで怪獣扱い(笑)」
武「二人は三度、対決しています。
一度目は引き分け。市は、用心棒の刀の鞘で戦う…」
拝「刀を鞘に戻しちゃう。あれは笑った」
武「二度目は、勝敗がついていませんけれども用心棒の負けだと思います。砂ボコリで目が開けられなくて、用心棒がギブアップ」
拝「盲目の市には砂ボコリがまったく影響なし(笑)しかも、『メクラ』セリフを連発!」
武「ラストは引き分け、というか対決中止。多分、このまま続けたら、仕込みが折れた市の負けだったのでは、と思います」
と、そこに店員が追加メニューを持ってきた。
天ぷらの盛り合わせだ。けっこうな量が載っている。うな丼に続いて、かなりのボリュームだ。これもゴージャスメニューの一つか?
拝「お、頼んでおいたよりも豪華だな。じゃあ、食べ始めながら、いつもの?岸田森的視点?ド?ンとよろしく!」
岸田森は、物語中盤から登場する凄腕のヤクザ、九頭竜を演じた。
グリップに九頭竜の柄がある二連発の短銃?久頭竜?を使うので、その名で呼ばれているその出番を箇条書きにしてみると
・父、烏帽子屋弥助が政五郎に狙われている事を知った、江戸にいる息子、三右衛門(細川俊之)によって、父の元に送りこまれる凄腕のヤクザという設定。
・だが、実際にはヤクザではなく跡部九内という名前の公儀隠密。この里で、金座の金の横領事件を調査のために潜入している佐々(三船敏郎)の監視のためだった。
金の延べ棒に目のくらんだ佐々は、監視のために送り込まれていた隠密の同僚を、密かに政五郎に殺させていたので、その調査も兼ねて送り込まれてきた。
・政五郎一家の用心棒となり、三右衛門をたきつけて金の延べ棒のありかを探し出そうとする。
・金を独り占めしようとして、口封じに同じ隠密の佐々を倒そうとする。しかし、短銃を撃ちつくしてしまい、佐々に斬り殺される。
という、かなりクールで複雑な役回りだ。座頭市と用心棒がこう着状態に陥った時に、颯爽と物語に登場してくる第三の男、というかなり美味しい役。
黒澤明監督『用心棒』で言うと、仲代達矢の役回りだ。そういえば、仲代と岸田森、二人とも銃を使う。
他の登場人物が、あくまでも人間臭いのとは対照的に一人クール、白っぽいメイクと太い眉、まるで?死神?のような感じすらあるニヒルな役だ。恰幅の良い勝新太郎と三船敏郎とは対照的なシャープさが印象的だった。
拳銃だけではなく、八州廻り六人を、流れるように一瞬で斬り捨てる大技も見せてくる。役人(神山繁)に止めを刺す時に、返り血を傘で防ぐ仕草が格好良かった。
ラストでは、さすがに三船にはかなわずに、胴を脇差で斬り払われて絶命。倒れる時に派手に転倒するのは、さすが岸田森らしい演技だった。
武「岸田森さんは、この作品で勝新太郎に気に入られて、その後晩年まで勝プロダクション作品に出演を続けます」
拝「この作品も岸田森さんにとってターニングポイントだ」
武「この映画の、次の勝新太郎主演作品『玄海遊侠伝 破れかぶれ』にも、岸田森さん敵役で出演します」
拝「このブログ第一回目で取り上げた『子連れ狼 三途の川の乳母車』も、その流れでの出演だね」
そこに店員がやって来た。だが、料理を中々出そうとしない。
何度も中身を確認しているが、拝編集長は「だいじょうぶだから」と譲らない。
いったい何を頼んだのだろう…不安だ。
拝「何を出し渋っているんだろうな…さあ、食べようか」
店員がテーブルに置いて行った料理は、うって変わって地味に、梅干しと…スイカ
これって、もしかして…
拝「今日は、頂上対決の映画でしょう。だから、料理でも頂上対決なのだ!」
と、気合いを入れている。
ウナギと梅干し、天ぷらとスイカ…って、これ喰い合わせだ。
確かに、胃腸では頂上対決が勃発する、だろう。私は、さすがに手が伸びなかった。
武「これ、ブログのネタ用のメニューですよね、編集長」
拝「何で?梅干は、口の中さっぱりするじゃない」
多分、拝編集長の事だから、知っていて面白がってやっているのだろう。
まったく…
じゃあ、次回もこの居酒屋で。
拝「それ、俺の決め台詞なのに…」
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