濃厚なトークライブの余韻に浸りながらも、私にとって今年のカナザワ映画祭最後の一本がとうとうやってきました。
「アンデスの聖餐」(1975)です。
この映画は、1972年10月に起こったウルグアイ空軍機墜落事件をテーマにしたドキュメンタリー。ハリウッドでも、イーサン・ホーク主演の「生きてこそ」(1993)として映画化されました。
↑リメイク版。同時期に生存者の20年後を追ったドキュメンタリーもありました
ウルグアイの大学生のラグビーチームが親善試合のためにチリに向かう途中で、一行を乗せたウルグアイの空軍機(輸送機・民間のチャーター機の替りだったようです)がアンデス山脈に激突して遭難。
全員の生存は絶望と思われましたが、約二カ月後自力で人里まで降りてきた二人によって、生存者がいることがわかります。"奇跡の生還!"と世界的なニュースになるのですが、その直後からある疑問が囁かれ始めました。
「動物もいない、草木一つ生えていないアンデスの山中で、二カ月間もどうやって生き延びたのか? もっとはっきり言うと、何を食べて生き延びたのか?」
真相はすぐに明らかになりました。生存者達は、先に死んだ仲間達の死骸を食べていたのです。
この映画は、こういう事件の顛末を淡々と正にドキュメンタリータッチで描き出し、期待してしまうようなおどろおどろしい演出はありませんでした。
構成として、事件の記録と並行し、この事件で息子を亡くした父親が事故現場を訪ねて行く旅に密着した映像も流れます。
生き延びた者は生涯十字架を背負い、遺族も又複雑な思いを抱いていた事がわかります。
今回上映されたのは日本公開版で日本語ナレーションがついていたのですが、事故現場を訪ねる遺族の父親の声は八奈見乗児が吹き替えていました。
公開当時、ちょうどアニメ「タイムボカン」でグロッキーを演じ、「ポチっとな」とかやっていたのに、こちらでは終始哀しみに満ちた声で静かに演じています。
全体として、真面目な映画だったのですが、最後の最後で生存者達が食べていたという、「仲間の死体」の写真が出てきました。
医学部の学生が死体を天日に干し、さばいて"加工"したそうですが、バラバラになった骨とか、くりぬかれた頭蓋骨(ちょっと肉が残ってます)とか、エグ過ぎる写真が一杯! 生存者達は感覚が麻痺していたらしく、救助に来た人達にその"食べ物"を平気で見せていたとか。
さて、これで私にとって、今年のカナザワ映画祭は終わりました。ちょうどメインのプログラムやイベントも終了したという事で、映画祭スタッフの皆さんも打ち上げをすると聞き付け、私も混ぜて頂くことにしました。
会場は21世紀美術館から歩いて10分位の住宅地の中にある、古民家を改造した「ビストロ・YUIGA」。外は和風なのに、中は洋風という構えの店です。
スタッフやゲストの皆さんが三々五々集まってきています。この自由な感じもカナザワ映画祭らしいところ。毎年来ているので顔見知りも随分増えました。
ワインを飲んで、料理を食べながら、「映画秘宝」編集部の田野辺尚人さんにも久しぶりに再会し(この前編集部に行ったのはいつだっけ?)、映画祭の映写技師の方から古いフィルムを扱う苦労話など伺い、映画祭の代表である小野寺さんに来年観たい映画を直訴したりしていると、町山智浩さん到着です!
町山さんをお迎えして、一同カンパ?イ!
流石に人気の町山さん、入れ替わり立ち替わり皆で挨拶に行っています。それじゃ、私も。
「あれ?前にアメリカであったよね?」
実は10年近く前、ロサンゼルスで行われたホラー雑誌主宰のイベント「ファンゴリア・ウィークエンド・オブ・ホラーズ」の会場でお会いして以来なのですが、ちゃんと覚えていてくれました。感激です!
↑こちらは2011年の動画。店番がチャツキーか…
最近の仕事の話などしていると、兵器や軍人を全部女の子として表現する萌えミリタリーのことになり、
「じゃあ、フェルディナンド(ドイツ軍の重対戦車自走砲)はどんな女の子になるんだろうね。オレ、ドイツ軍の対戦車自走砲好きなんだよ」
と意外な事にミリタリー話で盛り上がってしまいました。
こんなに楽しいカナザワ映画祭ですが、元々は2003年に設立された「金沢コミュニティシネマ」が始まりです。
当初は、"金沢に公設民営の映画館を作る"という目標があり、その活動の一環として「金沢コミュニティ映画祭」が2003年から2006年にかけて開催。
私が初めて来たのは、「怪奇と幻想」がテーマで、カール・ドライヤーの「吸血鬼」(1932)や東宝の「獣人雪男」(1955)が上映された2006年のコミュニティ映画祭でした。
その映画祭が発展的にリニューアルされ、2007年から始まったのが現在のカナザワ映画祭ですから、コミュニティ映画祭から数えると今年で8年目。特にカナザワ映画祭になってからは、作品のセレクトもマニアックになり、ここでしか観られないようなレアな映画が毎年登場しています。
とかく地方の映画祭というと、名作・傑作という評価の定まった作品が上映されることが多いですが、そういう世間の評価とは一線を画し、「観たいと思う映画を観る!」という代表の小野寺生哉氏の強烈なパッションによって、全国的に観てもオンリーワンな映画祭たり得ているのでしょう。
今回紹介した作品のように、万人向けとはとても言えない映画も少なくないので、地元でも賛否の意見はあるようですが、全国から集まって来る観客は増え続け、遂に昨年は約三千七百人に達しようという盛況ぶりです。
財政的な支援(一口一万円)をするサポーターを常時募集しているように、決して資金が潤沢にあるわけでもない地方の映画祭、しかも地域としては保守的だと思われる北陸でこのようなマニアックな映画祭を続けることは並々ならぬ努力の賜物ではないでしょうか。
私達のようなジャンル映画を愛好する者にとって、正に垂涎の映画の宴がこれからも発展し、続いていく事を願わずにはいられません。そして、そのためには何よりも一人でも多くの観客が集まる事が大切です。来年は、是非あなたもカナザワ映画祭に行ってみてはいかがですか?
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