さて、「マンディンゴ」を観た後、そのまま次のプログラム「バイオレンス・トーク」の行列に並びます。
カナザワ映画祭では毎回トークライブが色々と企画されています。
今までも、死体写真家の釣崎清隆さんの「ショックメンタリー」や、「映画秘宝」編集部のギンティ小林さん、田野辺尚人さん達"新耳袋"Gメンの「怪談新耳袋殴込!」など、ディープな内容で毎回大盛況でした。
これから始まるのは、ネットでチケットが発売されるや瞬時に売り切れたという人気のトークライブ。
鋭い映画評やアメリカ社会への深い洞察で知られる評論家の町山智浩さん。
雑誌「映画秘宝」のアートディレクターであり、ホラー映画の造詣も深い高橋ヨシキさん。
ヒップホップ・グループ「ライムスター」のラッパーにして、映画、アイドル、サブカルをなど幅広いテーマを語り尽くす稀代のトークマスターである宇多丸さん。
この三人の論客が「暴力とは何か?」を語ろうというのですから、期待も高まるというもの。
会場である21世紀美術館の地下は忽ち大行列になり、開場してもゾロゾロと十分以上も入場が続きます。
決して広いとは言えない地下シアターですが、通路や客席の前のスペースにもギッシリと臨時席が並び、とうとう満員札止めに(本来のキャパシティは182人ですが、この時の観客は228人でした)。
私は早々と入ったので、最前列から二列目という至近距離。町山さん達三人が正に眼前です。
町山さんは目の前に迫らんばかりにギッシリ入った観客を見て、
「近いな?これじゃ面接だろ」
と言いつつも、
「じゃあ、皆さん、大草原の小さな?」 「イェ?!(と返す観客)」
*コール&レスポンスとはまぁ関係ありません
などとコール&レスポンスをしながら、トークのはじまりはじまり?。
まず話は「心に残る暴力映画」から始まりますが、宇多丸さんが何故か「007ムーンレイカー」を挙げた事から意外なところで盛り上がります。
「こんなの暴力映画?」とツッこむ町山さんとヨシキさんに対して、「いや、子供の頃観た時にはそう思ったの!」と反論する宇多丸さんですが、"無重力空間をフワフワ泳ぐ間抜けなジェームス・ボンド"の写真で場内大ウケ!
余談ですが、ムーンレイカーとはイギリスの地方のスラングで「湖に写った月を熊手で集めようとする人」、つまり馬鹿者の意味だそうです。
コリンヌ・クレリー出てたよね。スグ殺されちゃうけど
こんな具合に観客も温まったところで、町山さんが「バイオレンス映画は見て楽しくなるアクション映画とは違う」という深作欣二監督の発言を引用しながら、「バイオレンス映画とは、バイオレンスについて考えさせる映画」と定義し、その典型的な作品として、サム・ペキンパー監督の「わらの犬」を上げます。
オリジナルの方。最近リメイクましたが
リメイクの方。主演は「Xメン」の眼から光線放つ人
暴力に批判的なインテリが引っ越した田舎で住民の理不尽な暴力に遭い、耐えに耐えた末に怒りを爆発させて復讐!という映画ですが、当時「暴力映画ばかり作る監督」とリベラルな評論家や観客から批判されていたサム・ペキンパーが、それへの反論として撮ったのだそうです。
この映画を見ていれば、皆主人公のダスティン・ホフマンに感情移入してしまう。あんなに酷い目に遭ったんだから、そりゃ反撃して当然だ! こんな野蛮な田舎者どもなんて、もっとやっつけてしまえ!と。そして、きっと観終わった後はカタルシスがこみ上げるはず。
でも、それでいいの? それって皆さんが日頃批判している暴力の連鎖、復讐の論理じゃないの?と映画の構造自体が観客に意地の悪い問いかけをしているのです。
人間は暴力を批判するけれど、誰もが内なる暴力を抱えて、時として暴力は快感を生む。それと無縁な人間などいるのか?
又、いたとしてそれは人間として健全なのか?
この映画は、人間というものの本質をバイオレンスという解り易い形で問いかける、正に「バイオレンス映画の極北」なのでした。
他にも、戦争から帰ってきて、平和な日常に適応出来ない不器用者の物語「ランボー(第一作)」、母を殺され、山火事で焼け出され、闘争の末に森の王となるディズニーの「バンビ」など、町山さんお勧めのバイオレンス映画の話が続きます。う?ん・・・映画の見方が変わりますねぇ。
フツー同時にネタにはならないよね
そして、町山さんは「ヒツジやシカみたいな平和的に見える動物にも、生態の中に闘争が組み込まれている。生き物とは元々闘争する、暴力的な存在」という生きる事の本質に迫る意見へと進んでいきます。
こう書くと、固いシンポジウムみたいなムードになったように感じるかもしれませんが、語り口は軽妙でしかもわかりやすく、場内は笑いが絶えません。
カナザワ映画祭常連のヨシキさんと宇多丸さんが、アウェイ状態の町山さんにツッこんだりする展開もあり、御三方が喋り倒している内に二時間がアッと言う間の濃厚なトークとなりました。
後半には、ヨシキさん監督作である短編「BAILOUT!」の初上映というサプライズもありましたが、閉塞感漂う中でサバイバルを図る男と女のテンションの高いドラマでした。
最後に町山さんが一言。
「本当に暴力的な人は、暴力映画なんか興味無いよね」
だから、暴力映画を見たがる私達は、きっと暴力とは縁遠い平和な人間なのでしょう。
次回は、南米の食人ドキュメンタリー「アンデスの聖餐」と、町山さんが降臨した打ち上げの模様などをお送りするレポート最終回です。お楽しみに!
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