拝編集長「人生初『吸血鬼ゴケミドロ』、どうだった?」
武井「…気味悪かったけど面白かったです。
額を割ってエイリアンが入り込んで、
吸血鬼になって、
最後に土になっちゃうって…かなりエグイ設定ですね」
「でしょ。何で今まで見ていなかったのかな。
怪奇特撮映画の傑作だよ。
また、こういう映画探しておいてあげるから、紹介よろしくね」
そう言うと編集長は、ニコニコしながら、
ツマミのそら豆のサヤを、わざわざこちらを向けて、パックリ開けた。
多分、ゴケミドロ侵入シーンを再現してるんですよね、それ。
こちらは、映画のグロい額割りシーンを思い出してあまり食欲が無いのに…
絶対に編集長は、楽しんで映画をチョイスしていると思う。
いや、そうに違いない…
『吸血鬼ゴケミドロ』は、1968年のお盆公開作品として
製作された松竹の怪奇映画である。
不時着したジェット機に取り残された乗客たちを、
血液を常食とする宇宙生物ゴケミドロが襲撃するという、
いたってシンプルな物語展開だ。
元々は『マグマ大使』などを製作したピープロダクションが、
特撮テレビシリーズとして企画したもので、
紆余曲折の後に松竹からこのような形で映画化された。
ゴケミドロが、人体に入り込むゴア描写はかなりのもの。
額がパックリ割れて、そこにスライム状のゴケミドロが入り込んでゆくのを、ストレートに描くのだ。
((拝)ここでは写真ではなくイラストレーター・オーグロ慎太郎さんのブログイラストをご紹介。
こんな感じでホント凄いシーンなんすよ!)
▼オーグロ慎太郎の「夜明けのない朝」: 「吸血鬼ゴケミドロ」(1968)
もちろん、造り物のヘッドを使っての撮影だが、
その造り物感が、リアルなものよりも余計気味悪く感じさせる。
これだけ直接的なゴア描写は、当時の日本映画では珍しかった。
映画は、極限状態の乗客たちが本性をさらけ出す人間ドラマが見どころ。
気持ち良いぐらいに、乗客たちが欲望へと走ってゆくのだ。
宇宙生物を研究したいがために、誰かを犠牲にしようと言いだす学者、
自分可愛さのために、なりふり構わない政治家、
ベトナムで夫を亡くし戦争を憎んでいるにも関わらず、
生き残るためにライフルを撃ち逃亡する未亡人…
極限状態に置かれた人間模様といえば、東宝の『マタンゴ』があるが、
生々しいエゴの剥き出し加減は『ゴケミドロ』に断然軍配があがる。
そして、やっと主人公たちが脱出してみると、
世界中で同じ事が起きていた
という不安感漂うラストシーンは非常に斬新。
ベトナム戦争、70年安保直前の、
不安定な社会情勢を反映したような名ラストシーンだ。
拝「地球に押し寄せるUFOの大群で映画は終わるけど、
二人の空撮から宇宙空間までぐ?んと引いてゆく撮り方、斬新だね!
今はCGで良くやるけど」
武井「先駆けともいえる作品です。
先日見たリメイク版『V』でも、同じようなシーンがありました。
当時の限られた技術で、良く撮ったと思います」
「あの、政治家北村英三と、武器商人金子信夫のバトルは凄いよね。
『外人だから、後腐れは無い』なんて言いながら、
金髪未亡人を犠牲にしようとしたり、もう人格滅茶苦茶」
と、イカの塩からをツルッと食べながら編集長。
そういえばさっき
「そら豆のサヤに塩から詰め込んだらゴケミドロだ!」
なんてとんでもない冗談言ってたな…
まさか本当にはやらないだろう。
武井「最初にゴケミドロになる高英男さん、
人間離れした感じ、忘れられませんね…
というか、そのままでも正直怖いです」
拝「今回、岸田森的視点はないけれども、
そこらへんも含めてド?ンと書いておいてね」
この映画で一番印象的なのは、何と言ってもゴケミドロを演じた高英男。
元々役者ではなくシャンソン歌手。
NHK紅白歌合戦にも出演している。
1960年代を中心に俳優として活躍しており、
その独特の風貌とフランス仕込みの上品な物腰で、
個性的な悪役を持ち味にしていた。決してカルト俳優ではない。
高の演じた吸血鬼は、まるで餌を貪るように血を吸う。
岸田森が演じた吸血鬼とは、まったく正反対の肉食系のものだった。
吸血鬼の血を吸うという行為には、本来性的な意味が込められているのだが、この映画に関しては、捕食と言った方が良いイメージで描かれている。
また、極端な色彩効果、
わざと不安定な構図や画面を歪ませる効果を多用して、
不安を盛上げる佐藤肇の演出も見事。
同監督は、同じ頃テレビシリーズ『ザ・ガードマン』の怪談シリーズなどでも存分に手腕を発揮している。
乗客たちの極端な人間模様の描写は、
いかにも『ザ・ガードマン』とそっくりだ。
ほかにも、菊池俊輔の怪談調のBGMも、
ドライな展開の映画に、古めかしいウエットな雰囲気を付け加え、
そのアンバランスさが映画を盛り上げていた。
武井「この映画、丸山(美輪)明宏主演の『黒蜥蜴』と併映だったんです」
拝「シャンソン歌手の、女装の映画に吸血鬼の映画…
なんとも、すごい二本立てだ」
「ゴケミドロのUFO、後にピープロダクションが製作した
テレビシリーズ『宇宙猿人ゴリ』に流用されているのは有名な話です」
「UFOはモロにアダムスキー型。
光る円盤に向って歩いてゆくシーンは、
ハワード・メンジャーの有名な金星人とのコンタクト写真そっくり。
もちろん、両方ともインチキ写真だけど、
当時はみんな信じていたから、映画にそのまま使われたんだな…」
「ところで次回だけど、本文で触れてた『マタンゴ』はどうかな。
『ゴケミドロ』とシチュエーションが似ているし、
ついでだからド?ンと書いちゃってくれない?」
「編集長、何かだんだん、岸田森さんから離れて行きますけど、
本当に大丈夫でしょうか?」
「特撮だからきっと大丈夫!次回のメニューだって考えやすいし。
じゃあ、来週もこの居酒屋で!」
メニューって、何?
いや、あまり深く考えてはいけない。
私は全力を挙げて疑問に目をつぶる事にした。
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