武井「今回取り上げる『子連れ狼 三途の川の乳母車』
ですが、"特撮"という視点で書きますか?」
拝編集長「まあ、スプラッタといった方が良いかな?
あれも特撮の一種でしょ。そうに違いない。」
「確かに、この映画の描写、半端じゃないですものね。」
「そうそう。腕や足が吹っ飛ぶのは当たり前。
映画初っ端から、頭で刀を受けちゃって血しぶきが飛びまくる
”顔面白刃どり”でしょ。
忍者が手足鼻耳全部削がれてダルマになっちゃう
”人間なます斬り”なんてのもあったし。
そういうのド?ンと書いちゃって下さいよ。ド?ンと!」
編集長によると、今回はこういう事だそうです。
こう話しながら、
店員さんに注文したつまみがアジの叩きとかトロブツっていうのは…。
この人はそういう趣味なのか…。
1970年から漫画アクションに連載され大ヒットしていた
劇画「子連れ狼」は、1972年から
勝プロダクション製作、東宝配給で映画化。
計六本製作されている。
このシリーズの特徴は、
主役若山富三郎のアクロバティックな殺陣と残虐な描写。
今でもこれだけの描写には、なかなかお目にかかれない。
極端な描写になってしまったのには、いくつかの要因がある。
・劇画で描かれていた世界観を、忠実に映像へ移植した
・大作映画としてではなく、身軽なプログラムピクチャーとして作られた
・そこに、三隅研次監督の映像美が加わった
だいたい、この三つだろう。
残虐描写とは書いたが、残虐に見えるシーンは殆どなく、
逆に、あまりにも潔く血しぶきが飛ぶ様子が、
映画の圧倒的なスピード感になっている。
グロを見せつけるというのではなく、
ちゃんと映画構成の一部になっている所がこのシリーズ最大の特徴だ。
「タランティーノ監督の『キル・ビル』なんて、
この作品にもろ影響を受けてるから。
元祖スプラッタ映画、なんていう人もいるし。」
と、編集長。
そういえば、今食べているアジの叩き、美味しいでしょうか?
「ところで、岸田森さんは、何の役やってたんだっけ?」
「公儀護送人弁天来三兄弟の一人です。」
「ああ、覚えてる。あの砂漠で、砂の中からカギで人をイモみたいにグワァっと掘り出すシーン、あの砂からジワジワ滲み出てくる血には燃えたね。
じゃあ、それで「岸田森的視点」ってやつ、ド?ンと書いておいてね。」
編集長はそれだけ話すと満足したのか、刺身盛りをつつきだした
…舟盛りの真ん中、アジの姿造りが乗ってますけど…。
公儀護送人とは、その名の通り、
幕府の命を受けて重要な囚人を護送する凄腕のボディガード。
編み笠と、マントにしか見えない道中合羽(?)といういでたち。
必ず三兄弟で行動する様が妙にスタイリッシュである。
兄弟は、歳の順に
弁馬 大木実
天馬 新田昌玄
来馬 岸田森
という濃い三人組。
兄弟は、刀ではなく、鉤、棍棒という珍しい武器を使うのが特徴。
岸田森が使う武器は、「霰鉄拳」。
どう考えても江戸時代には絶対に存在しなかったであろう武器で、
一言で言うと鉄で補強したグローブに棘をつけたもの。
攻撃と共に刀を受け止める事も出来るという優れモノだ。
岸田森は、もくもくと殺戮を続ける兄達とは違い、
一人高笑いしながら敵を殺してゆく。
出番は少ないが物凄く目立つ役作りで、
多分原作にはない岸田森オリジナルのものだろう。
岸田森自身は、自らの風貌がシャープだという事を意識していて、
ごついタイプの出演陣の中で
それを活かして目立つという役柄を演じる事が多い。
特に岡本喜八監督作品などがそうだ。
弁天来三兄弟の時も、
岸田森はセリフの間合いを意識的に変えたりしながら、
他の二人との差を出している。非常に計算高い演技プランだ。
それだけの役作りで挑んだ拝一刀との一騎打ちだが、
いきなり胴太貫を投げつけられて
「刀を、投げるなんて…」と絶命してしまう。
映画のオープニングで、
一刀から胴太貫を奪うために「顔面白刃どり」までしていた、
という事を踏まえてのセリフなのだが、ちょっとあっけなかった。
「思い出した。でも、これは構成の問題でしょう。
岸田森はやりたい放題だったし、マントのさばき方なんて、格好良かったよ」
店員にマグロの中落ち注文しながら、
編集長はマントさばきを腕を振り回しながら嬉しそうに実演してくれた。
ウーロンハイのコップが倒れなかったのが奇跡だ。
「北大路欣也版テレビシリーズ『子連れ狼』は、描写大人しかったし。
そう考えると、70年代の映画の破れかぶれパワー、凄いね。」
「そうですね。でも70年代にテレビ化された
萬屋錦之介版は殺陣迫力ありましたよ。」
「そうだった。ところで錦之介版に公儀護送人、出て来たの?」
「はい。歳の順で井上昭文、藤木敬士、剛達人。これはこれで濃いです。」
「う?ん…ダイバダッタにツイスト男に熱血青春生徒…。
岸田森の役を剛達人とは凄いね。
イメージ正反対だ。でも、これはこれで見たいね。」
「今度DVD貸します」
「よろしくね。」
「今度と言えば、次回は何にしましょうか?」
「特撮映画に出た岸田森って、何かあったっけ。」
「『ゴジラ対メカゴジラ』があります。
インターポールの捜査官役。」
「じゃあ、それでド?ンと行きましょう。
で、また来週もこの居酒屋で打ち合わせ、よろしくね!」
「…はい」
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