ある日のことである。
例によって飲み屋でぐだぐだと打ち合わせをしていたらガッキーの話になった。
ツバサによるとガッキーの最新作は「デンデラ」だという。
理由はない。題名を聞いた瞬間に主演はガッキーに違いないと決定したのだという。
どこをどう取り繕っても関係ないことを説得すると、どんな映画なのか聞かせろという。
説明しているうちに、ツバサが寝てしまったので、ここに書くことにする。
監督がかの今村昌平のご子息ということで「楢山節考」(83)の後日談という風に喧伝されているが、どちらかというとスピンオフ。
しかも、浅丘ルリ子、草笛光子、山本陽子、倍賞美津子、赤座美代子、山口美也子、白川和子など平均年齢○歳の婆さまたちによる集団アクション活劇でもある。実に恐ろしい…
(以下多少物語の結末に触れた部分があります。ご注意ください)
姥捨てにあった婆さまだけの村・デンデラを率いる村長(草笛)の目的は自分たちを捨てた村への復讐にこりかたまっていた。
否、復讐という目的を与える事で婆さまだけの集落を維持していたのだ。
やがて、村へ向けて出立という時になって、30年間現れたこともない雌熊がデンデラを襲う…というお話。
実際、主演は浅丘ルリ子となっているが、どちらかというと進行役で主役はどうみても復讐鬼と化した草笛光子。
なんというか、こういう泥臭い役がピタリとはまってそれでいて、堂々たる貫録がある。
入場料が一律1000円というから、なんか訳あり?なんて思っていたが、草笛光子を見ていたら土下座したくなってきた。
それくらい旨いのである。今後はMITUKOと呼んでもいいですか?ってなもんだ。
70で捨てられ、100歳になるまでの30年間、訳は明かされないが村と、男への憎しみと復讐だけを支えにしてきた鬼婆。
だが、その真実は拾ってきた婆さんたちと、デンデラの存続の為にどうしても生きていく目的を与える必要があったからだ。
狂うことで必死に生にしがみついて、村を能動的に守ろうとする凶暴な母神。
対照的なのが倍賞美津子で、隻眼アイパッチがかっこいいが穏健派で村の攻撃には反対派。
デンデラを繁栄させることこそ復讐と説くのだが、実は最も悲惨な過去を秘めている。
婆さんが主役でなければ、老マタギ集団の復讐とかいくらでもB級アクションに鞍替えできそうな話だが、お話は骨太である。
誰もが、一度は死を迎え入れようとしたが、生き返らされ、否応なく生きるための地獄を歩かされるのだ。
時代劇でお馴染みの「死に際の美しさ」ではなく、生き残ってしまい、存在を拒否されようとも生きる苦痛を選ばされた半死者のドラマなんである。
漸く決行にうつした村への復讐を熊と雪崩に阻まれ、雪崩に立ち向かって死んでゆく草笛MITUKO。
デンデラを守るためにアイパッチを外し、凄艶な笑みを浮かべて熊もろとも相撃ちにもちこむ倍賞MITSUKO。
それらを横目に、漸く自身の生への執着に気付き、熊に無謀な戦いを挑む浅丘と山本。
その先には運命の皮肉ともいえる結末が待っているのである。
やっぱりこれは、「楢山節考」の後日談でもなんでもなく、姥捨てという強制的なお葬式から引っ張り出され、わざわざ生きることを強いられた人間の素直な生への渇望と、あっさりと人間の営みを破壊する自然とを絡ませた痛快な「婆さま最後のすかしっぺ」映画なんだな。
原作を読んでいないのであれだが、説明不足な箇所やらも多いのかもしれないし、決して明るい映画でもなければ、アクション映画でもない。
それでも、強引に生きる権利を奪われた者の反撃を描くという点では、結構燃える映画。
なんというか、70年代の邦画にありがちな「無茶」な映画の匂いがして好きなのだ。
少なくとも、大ヒット間違いなしのTV芋づる式映画に辟易してる人なら見て損はなし!
凄いぞ光子と美津子!!ダブルMITSUKO !!
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