え〜っと、突然ですが、今年の1月のロードショー公開時にも、
スマッシュ・ヒットを記録した時間SFアクション
『LOOPER/ルーパー』(12)のDVD&ブルーレイが現在好評発売中です!
このセル版ディスクの封入特典スペシャル・ブックレット(鷲巣義明氏構成・編集)に、
私、殿井君人がレビューを寄稿してます。
勿論ワッシーの原稿も読めますし、何より作品自体が面白いから、
レンタルと言わずに是非お買い求めいただければ幸いです!
▼? 映画『LOOPER/ルーパー』DVD予告編 - YouTube
…とアカラサマな告知ではじめちゃいましたけど、
今回の紹介作も作品規模はともかくとして、
時間テーマ作品としての面白さは折り紙つきの新作邦画。
本日(8月10日)よりロードショー公開される
SFジュブナイル『江ノ島プリズム』だ。
その日、修太は2年前に死別した親友・朔(さく)の三回忌に出席した。病弱だった朔と、活発なミチル、そして修太は、
小学生の頃からの親友同士で三人はいつでも一緒だった。だが高校2年の冬にミチルは突然イギリス留学が決まり、
出発当日修太が預かったミチルからの手紙を読んだ朔は、
ミチルを追い駅に向うが体調が急変しそのまま帰らぬ人となったのだ。それ以来ただ一人残された修太は、朔の死に関して自責の念に囚われ続けていた。
三回忌の後、そんな修太に朔の母は朔の死は修太のせいではないと諭(さと)すと、
朔の持ち物を形見分けで持ち帰るように伝える。修太は、朔の書棚に残されていた子供向けの『君もタイムトラベラー』という本を譲り受け、
帰りの江ノ電で付録の腕時計型タイムマシンのオモチャ
“タイム・ウォッチ”をつけ二年前に想いを馳せていた。そしてふと気づくと、車内には制服を着た朔の姿が!
そう、修太は2年前の朔が亡くなる前日に、タイムスリップしていたのだ。修太は状況に戸惑いながらも、何度も二年前と今を行き来して朔の死を回避し、
そしてミチルに想いを直接朔に伝えさせるため、
二年前の昨日を必死にやり直そうとするのだが…
時間ジャンルって、
VFX(特撮)や大掛かりなセット、目を見張るアクション…なんかに頼らなくても
(ぶっちゃけ低予算であっても)
設定とアイデアと世界観をきっちり描くことで、
説得力のある作品を生み出しうるファンタジーの1ジャンル。
それ故に昭和後期以降の特撮技術低迷が叫ばれた邦画界でも、
記憶に残るジャンル作品が何本も作られてきている。
代表例としてはは大林信彦監督の“尾道三部作”の第2作で、
原田知世の劇場用実写映画初主演作『時をかける少女』(83)、
また近年だと乙一の小説の映画化で、
成海璃子扮する孤独な少女がオモチャの電話を通じて青年と繋がる
『きみにしか聞こえない』(07)も、後半はかなり理詰めでかつ泣ける
時間と運命のファンタジーになっていた。
▼ 映画 「きみにしか聞こえない」予告篇 - YouTube
本作の時代設定は現在とその2年前という直近の過去なのだが、
幼い頃からの仲良しだった男子二人女子一人の中で芽生えていた恋と友情の微妙な関係に、
通学に使っていた江ノ電や海を見下ろす丘などの昔と変わらぬ江の島の風景と、
作品が醸し出す雰囲気は懐かしくも心地よい昭和のジュブナイルSFテイスト。
大林作品とか、初期角川映画とか、
さかのぼってNHKの“少年ドラマシリーズ”とか、
うん、藤子・F・不二雄先生のSF=“すこし・ふしぎ”もしっくりくる感じか。
監督・共同脚本は『キトキト』(07)で長篇監督デビューを果たし、
本作が三作目の長篇となる吉田康弘。
原案・脚本は脚本家・小説家として永いキャリアを持つ小林弘利。
そう自主映画界で活動後、小林が脚本・及びノベライズ版で商業デビューを飾った作品が、
“少年ドラマシリーズ THE MOVIE”とサブ・タイトルのつけられた
小中和哉監督の商業デビュー作でもある“パラレルワールド・ファンタジー”
『星空のむこうの国』(86)であったように、
本作は小林脚本のまさに原点回帰的作品になっているのだ。
最初のタイム・トラベルで再会し、事情を必死に説明しようとする修太に返す朔の言葉が、
ブロック・バスター・タイムトラベル映画の小道具(にしちゃでかいか)からとられていたり、
オカルト研の女性顧問が修太(及び観客層でSFに然程興味がない部分向け)に
“時間”について黒板に図示しながら説明する場面が、
『星空〜』で主人公にSFマニアの親友が、ジャングルジムを使って
“パラレル・ワールド”理論を説明する場面を思い出させたりと、小ネタの取り入れ方も巧みだ。
そして本筋として扱われる時間旅行のセオリーは劇中の台詞で言えば
“ジャック・フィニイ・アプローチ”。
そう、SF、ミステリー、ファンタジー等多ジャンルで傑作を残したアメリカの作家、
ジャック・フィニイの作品群中『レベル3』、
『ゲイルスバーグの春を愛す』『ふりだしに戻る』等、
最も人気の高い時間ファンタジー群で用いられている、
自分の周りから現在を意識させるものを取り除き、
特定の時代への強い想いを抱くことができれば、
その時代にタイム・トラベルができる
というものだ。
映画では、時間ジャンルの最高峰で、
今やカルト・クラッシックとして揺ぎ無い地位にある『ある日どこかで』(80)で、
現代の青年(クリストファー・リーヴ)が、
ポートレートで恋焦がれた過去の女優(ジェーン・シーモア)に逢いに行くタイム・トラベルが有名だが、
同じく幻想作家リチャード・マシスン原作のこの映画でも、
主人公に時間理論を説明する哲学教授の名前を“フィニイ”としたようにオリジンへの敬意が払われている。
そして小中監督がDVDのコメンタリー等でも語っているように
『星空〜』が参考にした作品が『ある日〜』であったりと、
まさに連綿と本作へと繋がってきた流れと言えよう。
つまり、これもまた想いの映画であり、
“タイム・ウォッチ”はあくまで精神面でのスイッチに過ぎないわけだ。
劇中では、“ジャック・フィニイ・アプローチ”を巡って軽く下ネタ・ギャグに走ったり、
オカルト研の珍騒動の件などのあたりは、
個人的にはちょっと笑い方向にシフトしすぎな感も覚えたが、
掃除当番、
窓に並べて釣られた沢山のプリズム、
そして修太が運命を変えるために企んだ冬の夜の花火等、
三人の交流場面の瑞々しさはそれを補ってもお釣りが来る。
何よりも自分のことはそっちのけで、二人に対する想いだけを武器に、
厳然たる時間に繰り返し挑んで行く修太の姿は感動的だ。
また舞台となる学校に噂される女子高生の幽霊、
実は先例であり久遠の時間を孤独に見つめ続けてきた
“タイム・プリズナー”今日子の修太たちと全く異なる存在感と
その交流も作品に厚みを与えている。
出演は主人公の修太を演じているのは、仮面ライダーフォーゼこと福士蒼汰、
その親友朔には『スープ 〜生まれ変わりの物語〜』(12)等の野村周平、
そしてミチルにはCM・モデル等多方面で活躍中の本田翼が、
それぞれ今風のルックスでありながら、
今時じゃなさそうな(失礼)ピュアな幼馴染トリオをそれぞれ好演。
また“タイム・プリズナー”今日子には、
『高速ばぁば』(12)ではとんでもない目にあってしまった未来穂香が、独特の存在感を発揮している。
*****************************
『江ノ島プリズム』
2013年/日本/90min
配給:ビデオプランニング/宣伝:太秦
2013年8月10日(土)よりシネマート新宿、109シネマズMM横浜、109シネマズ湘南、他にて全国ロードショー!
(C)2013「江ノ島プリズム」製作委員会
*****************************
コメントする
※ コメントは認証されるまで公開されません。ご了承くださいませ。