『ブラック・ブレッド』?深奥のピトリウア

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『ブラック・ブレッド』
PA NEGRE
2010年/スペイン=フランス/117min
配給:アルシネテラン
2012年6月23日(土)より銀座テアトルシネマ、ヒューマントラストシネマ渋谷、他にて全国順次ロードショー!
(c)Massa d'Or Production Cinematografiques i Audiovisuals, S.A


1940年代、スペイン、カタルーニャ地方の田舎町。
鬱蒼とした森の奥で、ディオニウスとその幼い息子クレットが何者かに無惨に殺された。
クレットとは幼馴染の少年アンドレウは、クレットが息絶える場に居合わせて、彼が最後につぶやいた言葉を耳にする。「ピトリウア」というその言葉は、森の洞窟に棲むと噂される半獣半人の怪物の名前だった。殺人事件として捜査を進める警察は、ディオニスとはかつての同士で左派の活動家であったアンドレウの父ファリオルに嫌疑をかける。
警察の追求が及ぶ中ファリオルは姿を隠し、アンドレウは祖母の家に預けられることになり…。

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 スペインのアカデミー賞にあたるゴヤ賞で作品賞を含む9部門を受賞し、ペドロ・アルモドバル監督の『私が、生きる肌』を押さえて本年度のアカデミー外国映画賞スペイン代表に選ばれたダークなムードのミステリアス・ドラマ。


怪物の噂や、アンドレウが森で出会う不思議な青年のエピソードなどファンタスティックな味付けもなくはないが、アンドレウの母親をモノにしたいと画策する町長、アンドレウを養子にと考える金持ち夫妻、教師と関係を持つ勝気な従姉(手榴弾により指先を失くしている)のアンドレウへの誘い等、日常の中で実はドロドロした人間模様をメインに描かれていくあたり、監督・脚本のアウグスティ・ビジャロンガが"スペインのデヴィッド・リンチ"と称される所以か。

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とはいえ、作品の根幹をなすスペイン内戦という歴史的背景の重さ故か、我々と地続きと思える日常に潜む落し穴のような悪夢を描くリンチとは実際の感触はかなり異なるし、全てを知ったアンドレウの巣立ちの選択は重く哀しく観る者にのしかかる。
因みに邦題の"ブラック・ブレッド"とは、小麦に大麦、トウモロコシ等雑穀を混ぜて焼いた黒パンのことで、この時代精製済みの小麦で焼かれた白パンが富裕者層に食されていたのに対し、主に庶民や貧者が自分達で焼いて主食にしていたということで、時代の負け組み=左派を象徴するものでもある。

 主人公のアンドレウを演じているのは、オーディションで選ばれたデビュー作となる本作で、ゴヤ賞新人賞を受賞したフランセスク・クルメ。
その他のキャストも父ファリオル役の『パンズ・ラビリンス』等のルジェ・カザマジョ、町長役の『ハリー、見知らぬ友人』等欧州圏の多くの作品で個性的な存在感を発揮しているセルジ・ロペスらを除くと、日本では馴染みの薄い顔ぶれだが、それが逆にそれぞれ過去や秘密を抱えて生きる個々にリアリティを感じさせる。

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本国では評価の高い監督・脚本のアウグスティ・ビジャロンガは、日本では映画祭や特集上映での紹介が中心だが、ミニシアター系ながら一般公開された監督作品『月の子ども』は超能力を持った少年を主人公とするファンタジーとのこと。当時気になりつつも結局見れず終いだったので、ビデオでもいいから見つからないかしら?


◎『月の子ども』(89)予告篇

 因みにスペイン内戦を背景とし、映像面ではよりファンタジー要素の強い作品としては、出身は同じくスペイン語圏のメキシコだが、スパニッシュ・ファンタの担い手としても重要な位置付けをされるギレルモ・デル・トロの二作品が代表格か。

 いい感じの水死体少年幽霊も出てくるが、後半の孤児院生たちと悪役の闘いのドラマが印象的な『デビルズ・バックボーン』(01)

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◎『デビルズ・バックボーン』予告篇

 単なる夢物語ではなく、ファンタジーとしての落とし前をきっちり冷徹につけてみせた傑作『パンズ・ラビリンス』(06)

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◎『パンズ・ラビリンス』予告編

 また、少年が平穏な日常の中で見出す異様な世界と妄想を描いた作品としては、こちらは"英国のデヴィッド・リンチ"と称された(作風や画家としての顔など、こちらは案外しっくりくる)フィリップ・リドリーの『柔らかい殻』(90)がお薦め。

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◎『柔らかい殻』予告篇

『ブラック・ブレッド』
オフィシャルサイト:http://www.alcine-terran.com/blackbread/

↑公式予告編


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