現在公開中の「アンダーワールド 覚醒 IN 3D」。
吸血鬼VS狼男の歴史の陰に隠された人知れない死闘を描いて、四作目になりました。ホラーと言うよりもアクション色の強いシリーズですが、毎回ライカン(狼男)が活躍する、モンスターファンにはなかなか魅力的な作品でもあります。
*ライカンという名前は、ギリシャ語由来の人狼を意味する言葉 ライカンスロープ(lycanthrope)から取られています。
一作目の『アンダーワールド』(2003)や続編『アンダーワールド:エボリューション』(2006)でも、現代を代表するモンスター・メイカーの一人であるパトリック・タトプロスのスタジオによるアニマトロニクスや特殊メイクを中心にしたライカンが登場しました。人間として銃を撃っているかと思うと、途中で次々と狼男へと変身していくシーンなど斬新なイメージが見られました。
タトプロス自身が監督を務めた三作目(ストーリーとしては一作目以前なので、言ってみればエピソード0。実質的には番外編でしょう)『アンダーワールド・ビギンズ』(2009)ではそれまで以上にライカン達がフィーチャーされ、クライマックスでは草原を無数のライカンが疾走してくるという狼男映画の歴史に残るような迫力ある名シーンも映像化されています。
↑「アンダーワールド・ビギンズ」の予告編
この映画で描かれている、吸血鬼が狼男を奴隷として使役しているという構図は、そういう伝承があるわけでは無く、貴族的な吸血鬼と野蛮な狼男というイメージの対比から来る映画の産物とも言えます。
古くは、1943年の『吸血鬼蘇る』で元祖ドラキュラ役者のベラ・ルゴシが演じる吸血鬼(この映画では、大人の都合でドラキュラではありませんモゴモゴ・・・)の家来として狼男が出てきますが、絵面からしても確かに説得力のある構図でしょう(これが逆なら無理があり過ぎ・・・)。
↑「吸血鬼蘇る」
その後も何となく、そういうイメージはホラー映画の世界では『ドラキュリアン』(1987)や『ヴァン・ヘルシング』(2004)などに見られるように連綿と続いていましたが、今回の『覚醒』は吸血鬼と狼男との暗闘に気付いた人間が介入してきて三つ巴の状況という捻りが加わっています。
数では絶対的な優勢である人間が本気になった事で、吸血鬼も狼男も圧倒的な兵力の前に撲滅されていき、12年経ってみるとどちらも絶滅状態でひっそりと生きている、というのが今回の設定。
吸血鬼が抵抗するのもすっかり諦めて地下で平家の落ち武者の村みたいに暮らしているのに対し、ライカンの方は人間社会に潜り込んでバイオ企業なんか起業しちゃって、密かに反撃の機会を狙っているというから、狼男優位になっています。
そのせいか、今まで以上にライカンがフィーチャーされる作風になり、劇中でも三種類のライカンが登場します。まず、地下でひっそり生き延びている"野良ライカン"。げっそりと痩せていて精悍さがありませんが、グールっぽい姿でホラー色が増しています。そして、お馴染み通常のライカン、今回は戦闘員的な扱いですね。
で、今回大注目なのがバイオ技術で生まれた品種改良型とも言えるウーバー・ライカン。
普通のライカンよりも大きな(設定によると4メートル近い巨体)狼男で、吸血鬼の地下集落を襲撃してくるシーンは、まるで「ロード・オブ・ザ・リング」のトロールのようです。自動車を鷲掴みにしてブン投げるパワーだけではなく、体のサイズを変えて(元々は人間から変身する)狭いところへ入り込んだり、腕だけを巨大化させてエレベーターのワイヤーを引きちぎったり、只の図体のでかいクリーチャーではないところも見せていました。
このウーバー・ライカンのVFXを担当したのは、『アンダーワールド:エボリューション』や『アンダーワールド・ビギンズ』でもライカンのCGIを作りだしたルマ・ピクチャーズ。CGIを本格的に導入した初期の作品の一つである『スター・ファイター』(1984)の脚本やSFコメディの佳作『マイ・サイエンス・プロジェクト』(1985)の監督を務めた、ジョナサン・ベテュエルが2002年に創立したVFXスタジオです。
このシリーズ以外にも、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(2009)や『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011)でミュータントのCGIを担当しました。クリーチャー・エフェクトを積極的に手掛けるスタジオとして、モンスター好きとしては名前を覚えておきたいですね(期待高まる『アヴェンジャーズ』(2012)にも参加しています)。
狼男は1940年代にユニヴァーサル・ホラーの古典『狼男』(1941)で当時の特殊メイク・アーティストの草分けジャック・ピアーズがロン・チェイニーJrの変身を手掛けて以来、モンスター・エフェクトの歴史においてはエポック・メイキングな存在であり続けました。
↑ロン・チェイニーJrの「狼男」変身シーン
モンスター映画のファンなら、ロブ・ボッティンが二足歩行する人狼を造り出した『ハウリング』(1980)やリック・ベイカーが明るい室内で人間を狼に変身させた『狼男アメリカン』(1980)など、特殊メイクの歴史を変えた作品を記憶していることでしょう。
↑5分前は人間でしたの「ハウリング」
CGIの時代になると、『狼男アメリカン』の続編『ファングルフ/月と心臓』(1997)や、古典的な狼男を再現した『ウルフマン』(2010)といった作品がありますが、『アンダーワールド』シリーズは一貫して21世紀の新しい狼男像を追求し、リードし続けていると言えるのではないでしょうか。
↑「ファングルフ/月と心臓」の大暴れ狼男
それにしても、巨大化する狼男というのは映画の中でも、かなり珍しい存在です。他の事例として思い起こせるのは、我が日本のTVシリーズ『ウルトラマンレオ』(1974-1975)に出てきたエイリアン、ウルフ星人ぐらいかも。
↑レオ?♪ウルトラマン!の狼宇宙人
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