武「先日はごちそうさまでした。アイリーアのテーマ、懐かしいですね」
拝「『スタートレック』のBGM、あの当時LPで何度も聴いたよ」
武「それで、お礼と言ってはなんですが…」
今日取り上げる映画は岡本喜八監督作品『近頃 なぜかチャールストン』
それに合わせてこんなものを持って来てみた。
拝「『チャールストン フォーリーズ』?こういうの売っているんだ」
武「ちょっと甘い感じのカクテルですが、作るとなると結構大変なんです。
ジンをベースに、全部で六種類くらいをシェイクするそうです。さすがに私には無理なので、既製品で勘弁して下さい。毎回、メニューを考えるのも大変だと思って…」
拝「ありがとう。今日は助かったよ」
と、編集長が笑っている。そこに、店員が飲み物を運んできた。ドライジンだ…。
武「もしかして、編集長、この場でカクテル作るつもりだったとか…」
拝「そんなわけ、ないじゃない。ハハハ」
拝編集長の手許に置いているバッグが、さっきガチャガチャとビンがぶつかる音がしたの、気のせいですよね。まさか、材料を持参して来たとか…
『近頃 なぜかチャールストン』は、1981年12月に公開された岡本喜八監督作品。
ATGと喜八プロダクションが共同で製作、岡本喜八監督作品としては『肉弾』(68)『吶喊』(75)に続く三本目の「一千万円映画」だ。
夏の暑さから、つい婦女暴行未遂をはたらいた小此木家の不良息子、次郎(利重剛)は、留置所で謎の老人たちと出会う。老人たちは独立国家ヤマタイ国の住人を名乗り、一人一人大臣の役職を持っていた。
翌朝釈放された次郎は、再び出会った老人たちのために、カッパライの濡れ衣を着せられてしまう。
怒った次郎は、ヤマタイ国のある耶馬臺荘へと向かう。そこは、失踪した次郎の父、小此木宗親(藤木悠)が所有する家で、血の繋がっていない母(小畠絹子)と兄(山崎義治)が、老人たちに立ち退きを要求していた。
そこにノコノコ乗り込んで行った次郎は、小此木家のスパイとして死刑にされそうになるが、何故か帰化して労働大臣に就任、老人たちの下働きとして一緒に住み込む事になる。
その頃、母と兄は、市議会議員(平田昭彦)と組んで、次郎に多額の保険金をかけ関西から殺し屋(寺田農)を呼び寄せていた…。
バイタリティの溢れる老人たちが、右傾化する世間を捨てて独立国家を作ってしまうという寓話を、活き活きしたタッチで描き出した岡本喜八監督のコメディ映画。
小沢栄太郎、今福将雄、殿山泰司、千石規子、岸田森、堺左千夫、田中邦衛というヤマタイ国の老人たちの強烈なキャラクターぶりが見ものだが、ほかにも財津一郎、本田博太郎の刑事コンビや、平田昭彦、藤木悠、寺田農、伊佐山ひろ子、滝田裕介、小畠絹子など、低予算映画にもかかわらず、岡本喜八映画の常連を中心とした豪華な出演者が集まっているのも見どころである。
また、これらの濃い出演者に混じった利重剛や古舘みきのフレッシュぶりも目立った。利重剛は、脚本にも参加している。
戦争にこだわり続けた監督らしく、この当時の右傾化を、チャールストンに重ね合わせて描いている。
軽快な音楽と右傾化の対比、いかにも岡本喜八監督らしい構成だ。しかも、映画内の出来事が、太平洋戦争の重要な日付と同じ日に起こる。映画で描かれているのも、1981年8月6日?8月15日までという、見事なまでの徹底ぶりなのだ。
一千万円映画とは、ATGと監督側が製作費一千万円の半分ずつを負担して製作するシステムの映画。かなりの低予算作品ではあるが、大島渚監督や吉田喜重監督などが、このシステムを利用して、大手映画会社では製作できないタイプの映画を数多く送り出した。
そのために、この作品もかなりタイトな製作状況で、監督の自宅や、所持しているビルなど、手近なものを最大限利用して製作されている。映画製作として見ると、自主映画とはこういう風に作る、という見本のような作品でもある。
また、シネマプラセットというテント形式の移動映画館での公開方法も話題となった。
ちなみに、岡本喜八の妻、みね子がプロデュース、『近頃 なぜかチャールストン』と同じ多賀祥介が企画を担当した『キッドナップブルース』が、一年後に公開されている。
武「『キッドナップブルース』には、岡本喜八監督も俳優として登場しています」
拝「『近頃 なぜかチャールストン』の物語は、なんとなく神武さんの好きな『まぼろしの市街戦』(66)と通じるものがあるよね」
武井「世間から外れた人が、信念を持って行動するというあたり、確かにそうです」
拝「しかし、良くこれだけの豪華な俳優が集まったね」
武「脚本が面白いから、ギャラは安くても監督の為にと集まったそうです」
拝「田中邦衛の陸軍大臣だけ、妙に右傾化したキャラクターでしょ」
武「田中邦衛は、岡本喜八監督の『肉弾』で、寺田農の上官を演じていたじゃないですか」
拝「確か、食料を盗み出した寺田農を、ボコボコに殴る上官」
武「この映画でも、二人は戦うんです。これは意図的なキャスティングじゃないでしょうか」
拝「戦後グレちゃった寺田農が、上官を逆恨みしているとか?」
武「この映画では、田中邦衛が「脛に傷」を持っていて、過去に何かあった事をにおわせていましたから、あるいはそうかも…」
拝「なるほど。そう考えると面白いね。これもこだわりかもしれない…
じゃあそろそろ?岸田森的視点?ド?ンとよろしくね」
そういえば、さっき店員がトンカツを運んできていた。多分チャールストンの?トン?だろうか?
まあ、いいか。
岸田森は、独立国家ヤマタイ国の内閣書記官長、持田を演じている。
ヤマタイ国に来るまでは呉服屋の番頭をしていたので、その仕事を活かしての役職である。
ちなみに、内閣書記官長とは第二次世界大戦直後まであった役職で、現在で言うと官房長官の事だ。
この役職、かなり取ってつけたような感じだが、他の老人たちの役職も、似たりよったりのこじ付けで決まっている。このいい加減さが、いかにも寓話らしく面白い。
ヤマタイ国の住人たちは、社会的にみるとかなり非常識な老人たちの集団だが、そんな中で、岸田森が演じる持田は喧嘩の仲裁にまわるという常識的な面が強い役柄である。
だが、配達された牛乳を勝手に持ち去ったり、突然電話に向って奇声を発したりと、かなりおかしい面もある、複雑、というよりもかなりブレのある役柄だ。クライマックスで、市議会議員をマージャンでカモにするシーンの楽しさといったらなかった。
いつも和服姿でフリルのついた女物のパラソルをさして、丸いメガネを掛けている。そして、おカマ風の言葉でいつも喋るという、かなり悪乗りした役柄だった。
この映画の撮影時、岸田森は四十一歳というから驚きだ。
実際に歳をとっている俳優たちに混じって、老人を演じなければならなかった事から、これだけの作り込んだ役柄になったのだろう。形から作り役に入り込んでゆくというのは、岸田森の演技の作り方の特徴ともいえるが、この映画では、同時に自分の弱さを防御するという意味もあったのだろう。
武「この作品撮影の一年半後、岸田森さんは急逝します」
拝編集長「そうすると、これが岡本喜八監督との最後のコンビ作品?」
武「そうなります。」
拝「それにしても岸田森さんは元気に見えるね。
そういえば、確か内閣総理大臣を演じていた小沢栄太郎さんも、撮影時にはガンだったんじゃないかな…」
武「これだけの出演陣は、このタイミング以外には考えられなかった豪華なものだったんです」
拝「ところで次回は何の映画を考えている?」
武「岡本喜八監督作品は少しお休みして、『乱れからくり』なんてどうでしょうか?」
拝「松田優作さん主演だね」
武「昨年取りこぼしちゃったので今のうちにやっておこうかなと」
拝「いいじゃない。じゃあよろしくね。次回もこの居酒屋で。
ああそうだ『スタートレック』のサントラの続きもあるから、そちらもよろしく」
武「ジェリー・ゴールドスミスもいいですけれども、ジェームス・ホーナーも取り上げて下さい」
拝「考えておくのだ!」
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