「ホラー映画特集は、9月も一応継続中するのだ」という編集長判断で、
今回取り上げるのは『マタンゴ』。
武井「多分、今日はキノコづくしだと思っていました。
これ美味しいですね」
拝編集長「九種類のキノコに野菜と肉とツクネ。
ダシがジャンジャン出て美味く無いはずがない。
ド?ンと食べてね。」
『マタンゴ』は、キノコの怪物。
というわけで、今日の居酒屋メニューは、キノコ鍋。
編集長によると、鍋の中に入っているキノコの効能を
全部合わせると殆どの成人病に効くそうだ。
そういえば、拝さん、気のせいか、今日はとても顔色が良いです。
『マタンゴ』は、東宝が特撮映画の新たな可能性を求めて製作した
『美女と液体人間』『電送人間』『ガス人間第一号(「第」は略字)』などの流れをくむ作品。
1963年(昭和38年)のお盆映画として公開された。
無人島に漂着した若者たち七人が、
極限状況を生き残るため、
禁断のキノコ「マタンゴ」を食べてしまい、
怪物化してゆく…。
原作はウィリアム・ホープ・ホジスン「闇の声」(別タイトル「闇の海の声」「夜の声」)。
それを、SFマガジン初代編集長だった福島正実、
そして作家星新一という、当時認識されだしたばかりのSFというジャンルを支えていた二人がアレンジ(原案とクレジット)。
ファンタシィ的だった原作を、
水爆の影響というSF風の味付けを施した物語として構成した。
タイトルの怪物マタンゴは、後半のクライマックスで大挙登場する。
だが、意外と登場シーンは少ない。
映画は、欲望を剥き出しにした人間ドラマを描く方に重点が置かれている。
オープニングは、銀座あたりをモデルにしたと思われる
ネオンひしめく夜景から始まる。
それは、まるで原色のマタンゴの森のようにも見えるように造られた、
ミニチュアと書き割りを併用したかなり毒々しいものだ。
『マタンゴ』が公開された1963年は、東京オリンピックの直前にあたり
東京という都市が今までになく大改造されている頃だった。
映画は、破壊され新たなものに置き換えられてゆく東京の町と、
破壊のための水爆実験で発生した怪物マタンゴをオーバーラップさせている。
実社会の過剰な都市開発、その不安を取り入れた、
文明批判の側面を持つ映画ともなっていた。
「マタンゴが雨の中急激に育つ描写、すごいね。
ヌモモモモ…って巨大化してゆくやつ。
あれ良くできている」
と、ブラウンマッシュルームを丸ごと食べながら編集長。
なんでも、善玉コレステロールを増加させるそうだ。
「あれは、発泡素材の膨らむ所を、そのまま撮影したそうです。
多分、発泡ウレタンかなにかでは。
それに、びっくりしたのですが
フロント・プロジェクションも使用しているんです」
「あのクリストファー・リーブの『スーパーマン』で多用していた方法と同じ
だね。こんなに古くから、この技術を使っていたんだ。
ハイテク特撮映画と言っても過言ではないね」
「特撮の完成度が高い作品ですね。
ヨットが嵐に飲みこまれる描写なんか、かなり良く出来ています。
題材的に、本編と特撮班が合同で撮影しているシーンが、
かなり多いと聞きました」
「マタンゴは水爆をイメージしたデザインだそうだけれども、
中にはこんな感じの奴も混じっていたじゃない。
出番は少なかったけど」
そう言いながら編集長、箸ではさんだエノキ(生活習慣病の予防によいそうです)を、こちらに見せた。
確かに、ラストのマタンゴ登場シーンに、
エノキが沢山生えたような奴が混じっていたのを覚えている。
さすがに特撮ファンの編集長、良く見ているなあ。
東宝映画風に上品に描かれたとはいえ、
極限に追いつめられた人間の描写は非常に生々しい。
そして、キャスティングも、
それまでのイメージを覆すような斬新のものだった。
いつもは熱血漢の好青年を演じる事の多い佐原健二が、
ストレートな悪役を演じているのには驚かされた。
歯が抜け、いつもサングラスといういでたちで、
知らないで見ると佐原健二と気付かないくらいの変貌ぶり。
しかも、マタンゴと殆ど絡まないうちにあっさりと死んでしまう。
主役クラスの俳優の使い方としても、物凄い異色の使い方だ。
また、実直な役を演じる事の多い小泉博にも驚かされた。
最初はいつもの通りモラリストだったが、
突然、一行を置き去りにして島を去ってしまうという、
エゴ剥き出しの一番とんでもない行動に出る役だった。
金持ちのボンボンを演じた土屋義男も、
厳しいサバイバルにさらされて途端に弱気になり、
禁断のマタンゴを貪り食ってしまう。
この変貌ぶりと、恍惚としながらマタンゴを延々と食べるシーンが、
あまりにも印象的だった。
ほかにも、太刀川寛や八代美紀ら芸達者な役者たちが、
東宝という都会的なカラーを維持しながらも、
見事に欲望剥き出しの役を演じている。
忘れてはならないのが
「毒婦」と言いたくなるような水野久美。
毒々しいまでの妖艶さで、他の仲間たちを誘惑してゆく。
そして、マタンゴを食べると、
キノコに同化して腐ったような容貌になる男たちと正反対に、
どんどん妖艶さを増してゆくのだ。
多くの映画で妖艶な役を演じた水野久美だが、
この映画は内容的にも、他の作品よりも飛びぬけて妖艶だった。
「『ああ…おいしいわ』って言いながらキノコを食べる姿、
たまらないね。
ベスト・オブ・特撮ヒロインに違いない」
とマイタケを頬張りながら編集長。
なんでも、高血圧、高脂血症、糖尿病に効くそうです。
「役者の使い方が、本当に見事でした。
最初の青春映画風描写と、それ以降の恐怖映画部分、
みんな見事に演じ切っていました」
「天本英世の半マタンゴも、怖かったね。
頭が半分とれちゃったみたいなデザインも斬新だし」
と、しめじを食べながら編集長。
なんでも、コレステロール値を下げる効果があるらしい。
「ちなみに、この映画の併映は『ハワイの若大将』でした。
こちらはヨットレースの話です…」
「片一方は明るいヨットレースの話で、
もう一本はヨットが遭難…冗談みたいな二本立てだね…」
編集長は、はくれい茸(免疫力を高め、美肌効果があるそうです)に
伸ばしかけた手を思わず止めていた。
「次回だけど、もう一本寄り道お願いできないかな。
今月はホラーを中心にしたいし」
「いいですよ。実は大林宣彦監督作品を考えていたんです」
「お、いいねえ。モンスターホラーが続いたから、
ちょっと落ち着いたの行こうよ。で、映画は何?」
「落ち着いた『異人たちの夏』も良いのですが、
私的にはやはりデビュー作『HOUSE/ハウス』を考えています」
「じゃ、それでお願い。次回もこの居酒屋で。
ところで、居酒屋メニューにリンゴってあったっけ…」
と、編集長は、たもぎ茸(胃炎の沈静作用があるそうです)を食べながら、
何やら怪しげな事をつぶやいていた。
来週、だいじょうぶかな…
▼マタンゴ 予告編
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