和製ドラキュラ・岸田森の”眼”が恐怖!『呪いの館 血を吸う眼』

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拝編集長「今月、映画宝庫V3はホラー映画を中心にド?ンと行くのだ!
 で、これお土産」

そう言うと、編集長は赤い箱を私に手渡した。

武井「ドラキュラの葡萄って、ハスカップの果汁液ですね。
 北海道土産ですか…あっ!」

気づいてしまった。

今回取り上げる作品が『呪いの館 血を吸う眼』で、ホラーだという事を。

編集長の奥方がワイン好きだと聞いていたから、私はてっきり
居酒屋メニューで赤ワインを頼むのかと思っていたので油断していた。

そういえば、この『ドラキュラの葡萄』は、昨年の命日、
岸田森さんの墓前に供えられていたのを見た事がある。

もしかして、編集長が隠れてお参りしたのか…

「そんなわけないじゃん。考えすぎだよ」

「そうですよね…ハハハ」


呪いの館 血を吸う眼』は、後年「血を吸う」シリーズと呼ばれる事になる連作の第二弾。

子供の頃夢で見た『眼』がトラウマとなっていたヒロインが、
吸血鬼に狙われるというシンプルなストーリー展開。

この作品の最大の特徴は、そのシンプルさと無国籍性だ。

主な舞台が人里離れているという事もあり、空虚さ漂う映像作りは見事。
日本が舞台なのだがまるで異国のような雰囲気がある。

また、案外見逃されているのだが、
色彩設計も見事で異次元感を盛り上げている。

無音のシーンも多く映画全体に静寂さがただよい、
そこに山本迪夫監督得意のショック描写がちりばめられていて、
このコントラストは本当に怖い。

70年代当時の吸血鬼といえば、イギリスハマーフィルムで製作されたクリストファー・リー主演のドラキュラ物

『血を吸う眼』は、これらのゴシックホラーに真正面から取り組んでいる。

パロディーや変格吸血鬼映画などはかなり製作されたが、
真正面から取り組んだものは珍しい。

極めて西洋的な吸血鬼という題材を、奇跡的に日本に移植した稀な作品だといえる。

だが、やはり岸田森の演じた吸血鬼の存在が、この映画の評価を不動のものとした事は間違いない。

武井「意外と知られていないのですが、
 この岸田森の役名は吸血鬼ではなく「影のような男」なんです」

拝「それは意外だね。
 黒い衣装で現れるところなんて、確かに言われてみれば…」

「セリフもほとんど無いですし」

「そういえば二見忠男さん、いい味出していたね。
 トラックの運ちゃん役。意味も無く怖いし」

「もともとテアトルエコーの人だから、コメディが得意な役者なんですよ。
 山田康雄、熊倉和雄、納谷悟朗さんなんかと同じところなんです」

「へぇ、そうなんだ。定食屋のおやじとかやらせれば絶品な人だったね。

 ところで?岸田森的視点?はどうかな?」

岸田森の配役は、監督の山本迪夫が決めたものだった。

プロデューサーの田中文雄は、吸血鬼なのだから
バタ臭い俳優を選ぶ予定だったが、山本監督は岸田森で押し通したという。

後年、山本監督はインタビューで語っているが、
岸田森に対するイメージは植物質だったというのだ。

監督のドラキュラに対するイメージも植物質だったために、
岸田森が吸血鬼役にぴったりだった。

岸田森の演技は眼の使い方が特徴的である。

この映画では、タイトルからして「眼」。

ヒロインのトラウマが岸田森の「眼」というあたり、
本当に見事な配役である。

前半、無言でたたずむだけの時でもギラギラした眼光が物凄い印象的である。

また、ラストシーンの岸田森の暴れっぷりは物凄い。

壁を突き破り、唸りながら襲いかかる迫力は、本家ドラキュラ映画にはないものだ。

そして、何と言っても白骨となって滅んでゆくラストシーンのすさまじさ。

迫力のある岸田森の絶叫と特殊メイクで崩壊してゆく顔面の気味悪さは、
余韻を残す演出のうまさもあって、一度見たら忘れられないシーンである。

拝「『ウワァ?!』って唸りながら襲いかかるシーン。
 ほとんど野獣のようなのに洗練されてるのが凄いね。
岸田森さんならではだ」

武井「植物質っていいながら大暴れですから。
でも、後年のインタビューで監督はこんな事も言ってます。

「岸田君は朝から酒飲んで体壊しているから(笑)
 あの顔色見ているとドラキュラにぴったりだなって」
(TOHOビデオ封入チラシより)

「これじゃあ、岸田森さんは、顔色悪いから選ばれたみたいじゃない。
 でもまあ、岸田森以外には吸血鬼が出来る日本の俳優はいないと言っても過言ではないね。そうに違いない!」

「この映画は間違いなく岸田森さんの代表作なのですが、
 本格的な吸血鬼役は、あともう一本『血を吸う薔薇』だけなんです」

「たった二本だけで、これだけの印象を残したのか…やはり凄い俳優だ。
 じゃあ、次回はその『血を吸う薔薇』でお願いね。
来週、またこの居酒屋で」

「はい」

その時、私はふとある事に気付いた。

拝編集長の手許にある『ドラキュラの葡萄』を入れて来た袋の中に、
ウイスキーのミニボトルが入っているのを。

これも、昨年の命日、岸田森さんの墓前に供えられていたのを覚えている。

もしかして、編集長が隠れてお参りしたのか…

「そんなわけないじゃん。考えすぎだよ」

「ですよね…」

そうに違いない。多分…

▼呪いの館 血を吸う眼 予告編


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