武井「編集長、このツマミは、
もしかして今日のタイトルに合わせて頼んでいますか?」
拝「わかる?」
私に聞かれた編集長は、満面の笑みで答えた。
そりゃ、見ればわかる。テーブル中沖縄料理なのだ。
今日取り上げる『ゴジラ対メカゴジラ』の舞台が沖縄だからという以外には考えられない。
「沖縄料理って初めてだけど、怪獣の名前みたいなのがいっぱいあるね。
面白がって頼んだら、本当に怪獣の手みたいなのが出てきてびっくりしたよ!これ、凄いね! 骨がブルトンの触手みたいだし。
それは?テビチ?といって、豚の手の煮つけです。
しかも「ブルトン」って…
特撮好きの編集長は、料理の名前に敏感に反応したみたいだ。
1972年、アメリカ統治下にあった沖縄は日本に返還された。
これは当時の日本では大ニュースであり、
沖縄が色々な面でクローズアップされた。
それは、1975年の沖縄国際海洋博覧会(海洋博)で頂点を迎える。
今回取り上げる『ゴジラ対メカゴジラ』も、
海洋博の工事現場から始まっている。
まだ、沖縄の道路が右側通行だった頃の話だ。
この『ゴジラ対メカゴジラ』は、シリーズ第14作目。
ゴジラ二十周年記念作品と銘打って製作されたが、
この頃は、いくらゴジラといえども一本立て興行は難しく、
「東宝チャンピオン祭り」という、
春休みの子供向け番組の一本としての公開だった。
ただ、子供をターゲットにしながらも、ストーリーは意外と真面目に展開。
脚本家の関沢新一と、SF作家の福島正実、二人の重鎮が原案を担当。
その本格的な娯楽性とSF設定は、かなりきっちりと作り込まれていた。
また、ゴジラというキャラクターに正面から張り合える、
強烈な悪役『メカゴジラ』の登場も話題になった。
人気も出て、翌年には『メカゴジラの逆襲』という続編も
作られたほどである。
「メカゴジラの足元からグワァ?っとパンアップする映像に佐藤勝のピートの効いた音楽、あのシーン燃えるね。
途中、手とか口とかのアップが良いタイミングで入るんだ。
「メカニカルな描写は見事でした。
手先が綺麗に回転するような描写、当時の特撮では珍しいと思います。」
「メカゴジラが、前後の敵を、微動だにせずにミサイルで攻撃するシーン。
あれも凄いね。圧倒的な火力で、ゴジラもタジタジだったし。
横長の画面をフルに使った構図も格好良い。
中野昭慶特撮らしい派手な爆発も迫力あったし。
と、編集長。
自然にメカゴジラマーチを口ずさんでいる所はさすがゴジラファン。
「ミヤラビの祈り」じゃなくて良かった。
「そうそう、料理頼もうよ。?スーチカ??イェーグワーのマース煮?
?スクガラスの塩煮?なんて面白そうだね。
?シリシリー?って何だ?とりあえず、ドーンと全部頼んでみよ!
お願いです。
名前が面白いというだけで、ワクワクしながら頼むのは勘弁して下さい…
チャレンジャーなのは判りますけれども、…そんなに食べられません。
岸田森は、この作品でインターポールの捜査官、南原役を演じている。
黒いコートにサングラスという、全身黒づくめの出で立ちで登場、
最初は身分を隠して主人公たちに付きまとう。
ここら辺は岸田森も役柄を心得ていて、
いつもニヤニヤしながら物陰から現れる様は、
ビジュアルからしてかなり怪しい。
岸田森の演技の真骨頂は、一つの役で役柄を極端に変えるという事だと思う。
今回、インターポールの捜査官と主人公たちに名乗るまでの怪しさと、
その後の行動隊長的な熱血さの落差は際立っている。
危機に陥った主人公たちを助けるために、
拳銃の曲がり撃ちまで見せてくれるのだ。
また、小道具にも凝っていた。
怪しい男の時にはサングラスをかけ、
その後先頭に立って活躍する時にはサングラスを外している。
『太陽戦隊サンバルカン』の嵐山長官の時とは、まったく逆のサングラスの使い方だ。
なんとなくヘアスタイルも、前半後半で変わっているような気もする。
こういうビジュアル的な発想は、舞台というよりも映像的なものである。
岸田森は舞台俳優出身ではあるが、映像の世界に見事に順応して、
このように独自の世界を創り上げていったのだ。
謎めいた登場といい、宇宙人の基地で大暴れする事といい、
岸田森にとってはかなり美味しい役柄な事は確かである。
岸田森がヒーローのように活躍する役、というのはそうは無い。
この作品での役柄は、長い岸田森の芸歴の中でもかなり珍しいものだろう。
「『岸田森的視点』で言うと、確かに珍しい作品だね。
まるで岸田森は、スパイ映画の主人公みたいだし。
ゴジラの戦いを見ているしかない主人公をしり目に、宇宙人基地で大暴れだもの。」と、?豆腐よう?の発酵臭にびっくりしながら編集長。
「今回、見直して気付いたんですけれども、
インターポールだという身分証明、岸田森が一言主人公に言っただけなんですよ。ただの自己申告」
「それは酷い!岸田森相手に良く信用したね。主人公はチャレンジャーだ!」
私からみれば、名前だけで中身も分からない料理をジャンジャン頼む編集長の方がチャレンジャーだ!
「そう言えば、平田昭彦さんとのコンビで、メカゴジラ基地破壊するんだよね。
「二人がアイコンタクトとりあいながら宇宙人の司令官に飛びかかるあたりは、特撮ファンならば涙もののキャスティングだよ。
しかも、もう一人潜入した青年、青山一也さんは流星人間ゾーン、
そして宇宙人が『ファイヤーマン』の睦五朗さん。あのシーンは燃えたなぁ。」
「小泉博さんが考古学博士、佐原健二さんがフェリーの船長と、
東宝特撮映画の常連がゲスト出演。
しかも、宇宙人の手先で、岸田森さんの盟友草野大悟さんも出演。
凶暴な感じで、出番は少ないけど良かったです。
何気にキャスティングが良い映画でしたね。」
▼Godzilla vs Mechagodzilla (1974)- YouTube
「ところで、次回作、何か考えてくれた?」
「いえ、特には…リクエストはありますか?」
「う?ん…『太陽戦隊サンバルカン』行っちゃおうか、ドーンと」
「それは構いませんけれども…やはり特撮つながりですか?」
「毎回それも何か……あ、こういうの、どう?『夏だし、暑いし、武井さんと編集長二人だけでやるよりも、3人いりゃもっと楽なのに』とか」
「…もしかして、三人だからサンバルカンですか?」
「そう。1+2+3バルカン!いいでしょう。ドーンとお願いしますよ。じゃあ、来週またこの居酒屋で!
いつもの事だが、私はあえて何も言わない事にしたのだった。
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