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特撮マニアにもおすすめしたい一本/イマ推し・シネランド『ザ・クリエイター/創造者』(10月20日より公開中)

◎構成とディテール

 アメリカを中心にした西側諸国とAIの住むニューアジアの戦い。大国vs多様民族という図式。
 本作はアメリカ映画だが、無力のものを脅したり、殺したり、人質(今回はペット)に取ったりと、『アバター』などでも見せた、アメリカの他者に対する暴力的な一面を捕らえて真っ向から否定するという、最近のアメリカ映画の傾向を踏襲している (ただし監督はイギリス人)。

 暴力に対する怒り、弱者に気持ちを重ねやすい構造になっており、日本は東洋だから特に重ねやすいと思う。しかも、本当はAIのテロ攻撃というは捏造で、人間側のミスで起こったロスの大惨事をAIのせいに押し付けたというとんでもない悲劇の展開なのだ。

 主人公のジョン・デヴィッド・ワシントン扮するジョシュアは黒人でハンディキャップを持つ軍人。右手右足が無く義手義足だ。SDGs(持続可能な開発目標)に配慮しているようだ。ストーリーは彼の行動をチャプター立てで追う、彼の気絶でストーリーを繋いでいるのも面白い。

 対ノマドの最終兵器「アルファー・オー」とは子供(少女)の姿のAIだった。アルフィーと呼ばれるが、最初は無表情で全く可愛くない。しゃべり出してから純粋無垢なキャラクターの性質が出てきて、可愛く感じられるよう刷り込みが上手く出来ている。祈りで電子機器をストップさせることもできるのだ。

 そして、この二人で生きているはずの妻・マヤの行方を捜す旅に出る。種を超えた母親探しの父娘のロードムービーである。二人はお尋ね者になるが「WANTED」が「募集中」となっていて笑える。二人の間に交わされた、オフ、オンの使い分けの説明が生きてくる。

 思えばデビュー作『モンスターズ 地球外生命体』では、モンスターから逃避行の男女のドラマであり、『GODZILLA』では妻子のために戦う軍人の物語、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』は父娘のドラマもあった。

『ザ・クリエイター/創造者』も家族の絆の話になってゆく。二人はノマド破壊のために再び旅立つのだが、航空機のセキュリティに旅行目的を聞かれ、アルフィーが「自由になるため」と返すシーンが泣ける。

◎構成とディテール2

 「ネアンデルタール人を殺したのは人類だ」強いものが正義だ。とアメリカ軍=「悪役」のイメージではあるが、同情の余地も描かれている。
 アリソン・ジャネイ扮する上官のハウエルは顔に傷があり、ロスの破壊でAIに家族を殺されたと涙をこぼすシーンがある。これはアメリカの復讐なのだと。彼女もまた被害者なのであった。

 戦いのシーンで犬が爆弾を咥えてくるシーンは笑えるが、ベトナム戦争では首輪に手りゅう弾を仕掛けた「犬爆弾」が実際にあった。
走る「爆弾ロボット」の一つ目が丁寧な性格で面白い。
ノマドがやって来た時、ハルン役の渡辺謙が叫ぶ声が「NO.MAD」に聞こえる。ハルンは結構日本語も叫んでいる。
AIの報復でアメリカ軍の巨大装甲車に爆弾をくっつける場面。猿が爆破スイッチを押すのが面白い。タイの寺院ではよく猿がたむろしている。

◎構成とディテール3

 映画用のギミックも上手く使っている。死んだ人間の脳をスキャンしてそれを電子チップにとり出しAIに移植すると数秒間だけその記憶を甦らせられるという機械。これが追手の探査アイテムの一つだった。
 また、街の動画CМで「あなたの姿を提供してください」とAIの人型デザインのコピーを募集する宣伝をしているが、これが伏線となって後半は感動の場面となる。

 二人がノマドにたどり着くと、そこに格納されている起動していないAIはみんなマヤの姿をしている。マヤがAIの人型デザインにイメージを提供していたのだ。アルフィーは亡くなったマヤの脳からデータを電子チップにとり出し記念品として持つ。
 
 ノマドで目的を遂行したのち、アルフィーはマヤのコピーAIに生前のマヤのチップを入れ、引きずってジョシュアのところに持ってこようとする。ジョシュアとマヤを再会させるため。そこには得も欲もない。人間の命令すらない。

 二人を再会させるためにアルフィーはひたむきに行動する。そして、絶望の淵でのまさかの再会。観ている方は大号泣である。

◎愛の物語

 全てが終わりラストでアルフィーが微笑みを浮かべるのだが、その意味はいくつかに解釈できる。

  • 大義が果たせてよかった安堵の笑み
  • これからみんなで平和な世界を作ろうという新しい時代の創造主になる喜び
  • 本当はまだマヤもジョシュアも死んでいない。落ちたノマドの残骸を確認して確信した
  • その他

 因みにキャラクターのネーミングだが、ジョシュア(ヨシュア)は『旧約聖書』などに出てくるユダヤ人の指導者で預言者。『新約聖書』のイエスと同じ名前である。
 マヤ(マーヤー)は釈迦(ブッダ:ゴータマ・シッダッタ)の母親またはメキシコの文明の名前。
 アルフィーは1970年代後半から外国ではやったロボット型知育玩具(胸にカードを入れ計算ボタンを押す)の総称である。

 本作は「愛の物語」だ。
 ギャレス監督のアジア愛、SF愛はもちろん。楽曲で挿入される音楽もクラシックやオールディズ系を多用し、ノスタルジーへの愛もある。
 アルフィーの祈りのパワーは『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のメンバーたちの信じる「フォース」への尊敬の念のようなものも感じる。

 家族を守るための「逃避行の物語」であり、絆の大切さを描いている。
 AIと人間のこれからのありようを示唆している「大いなる人類愛」の映画なのだ。
 是非、本作を大きな画面で観られることをお勧めする。

「ザ・クリエイター/創造者」公式サイト

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この記事を書いた人

SF、ファンタジー、ホラー、アニメなど“サブカルチャー系”映像世界とその周辺をこよなく愛し、それらを”文化”として昇華するため”の活動を関西で続けるFantastic Messenger夢人塔(むじんとう)の代表。1970年代より活動を開始。映画コレクター、自主映画、同人誌を経てプロライターへ。新聞・雑誌への掲載、映画会社の宣伝企画、DVDなどの協力、テレビ・ラジオの出演・製作、イベント・講演、専門学校講師、各種企画などグローバルな活動を続けている。
著書は『アニメ・特撮・SF・映画メディア読本』『ライトノベル作家のつくりかた』シリーズ、『アリス・イン・クラシックス』、『幻想映画ヒロイン大図鑑』他、青心社のクトゥルー・アンソロジーシリーズで短編を書く。雑誌「ナイト・アンド・クォータリー」「トーキング・ヘッズ」に連載。映画は『龍宮之使』、『新釈神鳴』、『ぐるぐるゴー』、『おまじない』などを企画製作。最近は「もののけ狂言(類)」と題して、新作の”幻想狂言”を発表している。また、阪急豊中で約半世紀の歴史を持つ治療家でもある。
夢人塔サイト http://mujintou.jp/

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