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特撮マニアにもおすすめしたい一本/イマ推し・シネランド『ザ・クリエイター/創造者』(10月20日より公開中)

◎製作まで

 イギリス出身の監督ギャレス・エドワーズは、幼少の時に観た『スター・ウォーズ』に感激し、大いに影響された。UCA芸術大学で映像を学んだ後、家のコンピューターでCGの勉強をしつつVHSで自主制作を制作。そのうちBBCテレビやディスカバリーチャンネル、映画のVFXの仕事が舞い込むようになる。
 2008年にはBBC製作のドラマ「ウォリアーズ 〜歴史を動かした男たち〜(未公開)」を監督・VFXも一人でやった。またSci-Fiチャンネルの「48時間映画コンテスト」で優勝し、注目を集める。これがメジャー映画製作のきっかけとなる。
 ギャレスは民生機のカメラや機材を改良し、俳優は基本2人、スタッフは5人だけで『モンスターズ/地球外生命体』(2010)を完成、タコとクモを合わせたような巨大モンスターから逃げる為メキシコを旅する男女の映画で、これが英国インディペンデント映画賞にて3部門を受賞した。
 ハリウッドの映画会社レジェンダリー・ピクチャーズ他が契約に乗り出し、日本のゴジラシリーズのハリウッドリブート映画『GODZILLA ゴジラ』(2014)や、スター・ウォーズシリーズのスピンオフ作品映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)を監督し、いずれのハリウッド大作映画も成功させている。

 幾つかの成功を手に入れたギャレス監督だったが、ハリウッドの映画製作システムに疲れを感じた頃、休暇の必要を感じて、アイオワ州にある彼女の実家を訪ねた。
 アイオワは田舎だが農作地の向こうに日本の工場の看板が見え、そのギャップの違和感からイメージを膨らませたのが『ザ・クリエイター/創造者』のベースになっている。そして、その後ベトナム旅行をしている時に見た風景にも感激し「もし仏教の僧侶がAIだったら」というイメージが固まって来た。
 ギャレスは本作の全てを自分でコントロールできる、インディペンデント映画のシステムで次の映画を作る事を決意。『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の監督を蹴ってそちらにかかった。

 しかし、オリジナルのSF映画は説得が難しい。ブロックバスター効果のあるシリーズものなどでないと出資者が現れないのが現状だ。そこでギャレス監督は仲良かった『キル・コマンド』のプロデューサーのジム・スペンサーと二人で、ロケハンと称して東南アジアをゆっくり旅行しながらカメラを回してドキュメンタリー・シークエンスを撮影。
 それにVFXでデジタル合成をしたものを見せてニュー・リージェンシー・プロダクション、エンターテインメント・ワン、バッド・ドリームス三社のゴーサインが出た。

◎撮影について

 本作は白人視点から見て特に異国情緒を感じるように、ロケ地はタイ、ベトナム、カンボジア、ネパール、インドネシア、日本などアジア諸国が選ばれている。比較としてアメリカはロスの街も。メインのスタジオ撮影は、名作映画がいくつも生まれたイギリスのパインウッドスタジオで行われた。

 驚くことにこのIMAXで上映された作品だが1万ドル以下の予算で制作されたという。(日本の予算とは桁二つ違うが、すでにアメリカでは大作にこれ位金がかかる世界になっている)
 それを可能にしたのは、ギャレス・エドワーズ監督が採用した数々の撮影システムの簡素化だ。
 まずはカメラ。通常はこのクラスの映画ではREDなど数百万、事によったら数千万の機材を使うのだが、今回採用したのはSonyのILME-FX3という民生機。電気屋で普通に売っている50万円程度の激安カメラである。
 画質が良く、映画撮影用カメラと比べかなり小さく軽量で、手持ちカメラの撮影として小回りが利くので主人公などを追ったアングル(つけパンという)など、ドキュメンタリータッチのイメージもお手のものだ。
 ギャレス自身がこのカメラの複合システム開発にも携わり、実際に現場撮影もいくつもこなしている。

 次に照明、従来の撮影では大型ライトでアングルが変わるごとに照明セッティングを変えねばならないが、LED照明で手持ちを多用したので、役者の動きに合わせて簡単にライティングを変える。照明が俳優と一緒に動くことも可能なのだ。
 兼務のシステムも採用。本来映画は一業務の世界だが、例えば照明と記録と衣装係や運搬などを兼務すれば大人数でなくとも映画は撮れる。組合の影響を受けない状況下である必要がある。因みにギャレスは今回の作品で監督・原案・脚本・製作ほかを担当している。

 もっとも効果を上げたのは、ギャレス監督本人が「リバース・エンジニアリング」と呼んでいる製作手順。SFチックなメカやAIのデザインはすべて後回しにして、まずは素材が先。事前に撮影した使えそうなロケシーン、ここではタイの田園風景やチベットの人々の風俗などを撮影して、ドラマをセット撮影などで撮り終えてから、ポスプロ(編集)の時に決定したデザインをはめてゆく。ロケハンで撮影したライブ映像にデジタルエフェクトを加えて完成。タイの田園風景に近未来のAIがうろうろしていると言った具合だ。
 プロの撮り方とは真逆だが、撮影時間が時短となりSFで大切なメカやキャラデザインとVFXに時間をかけて作り込みがしやすい。(本来公開日から決める興行システムでは難しい)。
 これらは自主制作映画の作り方に近い。個人映画出身の監督なので編集に負担がかかるが手慣れた少数精鋭システムで挑んだのだ。これは『モンスターズ/地球外生命体』で採用した体験を応用している。

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この記事を書いた人

SF、ファンタジー、ホラー、アニメなど“サブカルチャー系”映像世界とその周辺をこよなく愛し、それらを”文化”として昇華するため”の活動を関西で続けるFantastic Messenger夢人塔(むじんとう)の代表。1970年代より活動を開始。映画コレクター、自主映画、同人誌を経てプロライターへ。新聞・雑誌への掲載、映画会社の宣伝企画、DVDなどの協力、テレビ・ラジオの出演・製作、イベント・講演、専門学校講師、各種企画などグローバルな活動を続けている。
著書は『アニメ・特撮・SF・映画メディア読本』『ライトノベル作家のつくりかた』シリーズ、『アリス・イン・クラシックス』、『幻想映画ヒロイン大図鑑』他、青心社のクトゥルー・アンソロジーシリーズで短編を書く。雑誌「ナイト・アンド・クォータリー」「トーキング・ヘッズ」に連載。映画は『龍宮之使』、『新釈神鳴』、『ぐるぐるゴー』、『おまじない』などを企画製作。最近は「もののけ狂言(類)」と題して、新作の”幻想狂言”を発表している。また、阪急豊中で約半世紀の歴史を持つ治療家でもある。
夢人塔サイト http://mujintou.jp/

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