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特撮マニアにもおすすめしたい一本/イマ推し・シネランド『ザ・クリエイター/創造者』(10月20日より公開中)

◎日本のイメージと『ブレードランナー』

 ギャレス監督は日本に対する愛情があり『GODZILLA ゴジラ』の監督を引き受けた。その縁で今回の渡辺謙となるわけだが、同時に東洋イメージをテイストにした『ブレードランナー』を意識して、秘密基地内部の壁、都市デザインの雰囲気(街並みは実際に渋谷でも撮影)、看板や動画広告など随所に日本文字表記やセリフがちりばめられている。(ほかのアジア言語も多用されているが)

 映画から読み取れるのは「核」「危険ですご注意」「危険」「警察」「力」「龍角散ダイレクト」(『ブレードランナー』では強力わかもとだった) 「よく飛ぶ」「もうイヤ、遊牧民」(遊牧民=ノマドに反発するAIのプラカードのスローガン)、などなど。

 SFマニア向けには、アルフィーの見ているテレビは、宇津井健主演の『続スーパー・ジャイアンツ 悪魔の化身』(59)や千葉真一主演の『アイアンシャープ(宇宙快速船)』(61)
(最初に見ているアニメはハンナ・バーベラを思わせるがこれはノマドを攻撃するオリジナル。『モンスターズ/地球外生命体』でも子供が怪物退治のオリジナルアニメを見るシークエンスがある)。

 各チャプターのタイトルやエンディングにも、ちょっとキッチュで嘘くさい日本語フォントが英語と併記で貼り付けてあり味を出している。
 『ブレードランナー』や『AKIRA』などの大ファンと明言するギャレス監督らしい表現であろう。

 一度退いた者がもう一度現場に引っ張り出されて巻き込まれるストーリーライン。「シミュラント(模造人間)」と呼ばれる人工生命(『ブレードランナー』ではレプリカント)を無きものにする目的で行動する主人公だが、事実を知るうち心境が変化して擁護する側に回るのも『ブレードランナー』より。
 私は、命令を下す司令官のあのデカイ眼鏡も意識していると読んだ。

◎メカデザイン

 AIは耳の部分に筒状のメカが入り大きな空洞形状になっているので一目で人間との違いが分かる。違和感を覚えるように上手くデザインされている。
 プロダクションデザイナーはジェームス・クライン。『A.I.』『マイノリティ・リポート』『宇宙戦争』『スター・トレック』(2009)『アバター』、ILMにヘッドハンティングされてからは『ローグ・ワン:スター・ウォーズ・ストーリー』『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』などSF多く手掛ける。

 ノマドはブーメランをイメージさせる米軍の進化型のステーション。地表をスキャンしてスポットに爆弾を落とすAI殺りくマシーンだが、飛行機の発着が出来たり中に畑があり植物を生産しているほぼ一つの都市である。
 タイヤの飛び出た車はシド・ミードを意識させる。ヘリが何度も出るのはギャレス監督の好みか?個人的にはアメリカ側の「爆弾ロボット」がかわいかった。

◎戦争の恐怖

 戦争の恐ろしさを描いたフランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』の影響は大きい。ベトナムのジャングルで勝手に国を創っている謀反ものを殺しに行く話だったが、今回は人類が勝手に敵と決めつけたAIとその創始者を無き者にするため、アメリカがニューアジアに攻め入る映画だった。

 ギャレス監督は戦争表現が得意で名をあげた『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』は宇宙大戦争。たった一つの秘密情報をレイア姫に伝えるミッションの為、多くの兵士たちが次々と死んでゆく。しかも、この作品『スター・ウォーズ』シリーズにもかかわらず、超人的パワーである”フォース(理力または元力か)”を使えるものが一人もいない。正義を信じる全く普通の人間なのだ。

 デビュー作の『モンスターズ/地球外生命体』もモンスター制圧の為、軍隊が出動している。軍人の一人が「自分のテーマ」だとして『地獄の黙示録』で使った”ワーグナーのワルキューレの騎行”の鼻歌を歌う。
 AIがロスを焦土としたとされるシーンは、「9.11のアメリカ同時多発テロ事件」でワールドトレードセンターの倒壊を思い起こさせる。(私も行ったことがあるので当時のニュースでショックを受けた)。

 ノマドが敵地に焦点を合わせ、垂直に爆弾を投下するのは、中東戦争やイラク戦争あたりから行われている「ドローン爆撃」を想像させる。アメリカ空軍は現在、ノマドを絵に描いたような軍事衛星から運動エネルギー爆撃を行う宇宙兵器(通称「神の杖」)を開発中とのウワサもある。

 アルフィーがたった一人でアメリカ軍の前に立つシーンは、知人の映画ライターが「ナウシカみたい」と言ったが、私は沖縄戦争で一人米軍の前に立った「白旗のタツコ」を思い出した。

 本作はリアリティのある戦争シーンを描くことで、戦争の愚かさをメッセージの一つとして伝えようとしている。

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この記事を書いた人

SF、ファンタジー、ホラー、アニメなど“サブカルチャー系”映像世界とその周辺をこよなく愛し、それらを”文化”として昇華するため”の活動を関西で続けるFantastic Messenger夢人塔(むじんとう)の代表。1970年代より活動を開始。映画コレクター、自主映画、同人誌を経てプロライターへ。新聞・雑誌への掲載、映画会社の宣伝企画、DVDなどの協力、テレビ・ラジオの出演・製作、イベント・講演、専門学校講師、各種企画などグローバルな活動を続けている。
著書は『アニメ・特撮・SF・映画メディア読本』『ライトノベル作家のつくりかた』シリーズ、『アリス・イン・クラシックス』、『幻想映画ヒロイン大図鑑』他、青心社のクトゥルー・アンソロジーシリーズで短編を書く。雑誌「ナイト・アンド・クォータリー」「トーキング・ヘッズ」に連載。映画は『龍宮之使』、『新釈神鳴』、『ぐるぐるゴー』、『おまじない』などを企画製作。最近は「もののけ狂言(類)」と題して、新作の”幻想狂言”を発表している。また、阪急豊中で約半世紀の歴史を持つ治療家でもある。
夢人塔サイト http://mujintou.jp/

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