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『ガス人間』考察 “人間燃料” は燃えるのか?①/オリジナル『ガス人間㐧1号(The Human Vapor)』の思い出

浅尾典彦(夢人塔代表・作家・治療家)

【冒頭ご注意】
※本文には『ガス人間㐧1号』のネタバレが含まれます。
ネタバレを希望されない方は『ガス人間㐧1号』をご覧になってからお読みください。

『ガス人間㐧1号』ストーリー

ホールの入口の扉から出てきたもの…… それは、まぎれもなく人間だった。

突然の爆発でごうごうと燃え盛る劇場。
消防のポンプからの放水で、何処もここもびしゃびしゃだ。

その中を、焼けこげて水に濡れ、ボロ雑巾のようになった背広が、煙を上げながらずるずると這うように出て来たのだ!
手の部分には藤千代のものと思しき着物をひきずっている。

「ガス人間!」

ぼうぜんと状況を見守る警察官、新聞記者、技術スタッフなど多くのギャラリーたちの前に、ガス人間が姿を現したのだ。

階段まで這いずった背広は、生きようとする執念を見せるかのように、一度起き上がりかけたが、そのまま倒れ込み、藤千代の着物を持ったまま、遂に動かなくなった。

ややあってぽっかりと洞窟のように開いた襟にぼんやりと発光しながら水野の首が現れる。
哀れな男の最後であった。

婦人記者京子はもう観ていられず、思わず警部補賢治の方に顔をうずめた。

人間水野として最後を迎えたガス人間の焼死体に、この晴れの日の為に藤千代に贈った大輪の花輪が
その上にバッサリと倒れ込んだ。まるで彼を弔うかのように⋯ (終)

『ガス人間㐧1号』解説

ガス人間㐧1号』は、1960年12月11日の東宝製作したスリラー映画。
変身人間シリーズの第3作“として公開された。

変身人間シリーズ“は、人間が特殊な実験や行為によって人間以外のものに変形できる肉体を持ってしまったことで起きる犯罪ドラマだ。
他に1958年の『美女と液体人間』と1960年の『電送人間』がある。

中でも『ガス人間㐧1号』は、奇想天外な犯罪アクションに、道ならぬ恋のメロドラマが組み合わさって、完成した異色作なのだ。

『ガス人間㐧1号』の特撮は、云わずと知れた円谷英二
人間がガス化して鉄格子でもなんでも通り抜けてしまうところがかっこよかった。

ガス人間役の土屋嘉男の全身を型どりしてゴム人形のダミーを造り、中に圧搾空気を入れて膨らませたりしぼませたりして効果を生み出した。
気化してガスになる煙の状態の描写は、ドライアイスと光学合成なのだそう。

元々宝塚歌劇の出身で、日本舞踊も会得していた八千草薫が落ち目で引きこもった師匠・藤千代役を見事に演じ妖艶な美しさを醸し出していた。可憐で弱弱しさと芯の強さを感じる。

藤千代が大舞台で披露する演目「情鬼」は古典のような見事さがあるが、この映画の為に創作されたオリジナルである。

人体実験により『ガス人間』に変身してしまう身体にされた図書館書士・水野の哀れさ。
良家の家元・春日藤千代に対する一途なあこがれと犯罪行動の形でしか表現できない不器な推し活の切なさ。

ガス人間㐧1号』は、叶わぬ恋路と知りながら、ひと時の儚い夢に全てを賭け、命を燃え上がらせる『ガス人間』のメロドラマなのだ。

音楽を手掛けたのは宮内國郎で、彼の創作したメインテーマやエンディング、劇半(BGM)が物語に感動を吹き込む。
本作品の劇半は、同じく宮内が音楽効果を担当した『ウルトラQ』(ゴメス、ガラモン、ゴロー、ラゴンなどの出る回など)や『ウルトラマン』(ウー、ドドンゴ、キーラなどが出る回など)に流用された。

個人的思い出~アメリカでの『ガス人間』

公開当時にはまだ私は生まれていないため当然見れなかったのだが、学生の頃から特撮好きな私は
同人グループ「コロッサス」とお付き合いをしていたので、良き先輩たちのおかげで18歳の時に本作を観せてもらい、冒頭に書いたクライマックスシーンで大号泣してしまった。

「なんて悲しいストーリーなんだ」

『ガス人間㐧1号』は、私の心に深く刻み込まれた。

因みに「コロッサス」のメンバーは、”変身人間シリーズ”に『マタンゴ』Matango/Attack of The MUSHROOM PEOPLE(1963)も含めて分類していた。

「アサオくん。”変身人間”はな、電気・ガス・水道・食べ物やで」

と教えられ感心した。

20歳を過ぎてアメリカに取材に行くようになった。

アメリカでは、”日本の怪獣”に絞ってそれを研究したり愉しむ「G-FAN」というグループがあり、それが主催して年に一回「Gフェスティバル」というものが開催されていた(略して『Gフェス』。Gはゴジラのイニシャルと思う)

当時、「ホビージャパン」や「アスキー・ウルトラグラフィック」「宇宙船」などのライターをしていた私は、アメリカに行ってマニア受けする情報を取材して原稿を書いていた。

「Gフェス」はいい環境で、主催者サイドとも仲良くなって、ごはんなども一緒に食べた。

「で、アサオは何が好きなの?」と聞かれて、

「もちろん怪獣も好きだけど、The Human Vapor(『ガス人間㐧1号』)も好き」

そう言うと、みんな驚いて感心していた。

アメリカでも『美女と液体人間』The H-Man (1958) に次いで『ガス人間㐧1号』は劇場公開しているのだ。
(因みに『電送人間』The Secret of the Telegian (1960)はアメリカではテレビ放映だった) 

観ている人も多いのだ。

本作の原案はジョン・メレディス・ルーカスの『ガス人間』である。
日本では原作者はクレジットされていない(Uncredited)

「アメリカでも『ガス人間』ファンはいるのだ」と嬉しくなってしまった。

そんな思い出深い『ガス人間㐧1号』が、Netflixシリーズ『ガス人間』として66年ぶりにリメイクされた。

全8回で豪華キャストと新規性のあるドラマ展開だという。
現代の技術を駆使した特撮も含め、どんな仕上がりなのか、とても楽しみである。

7月2日からNetflixにて世界独占配信中なのだ。

(『ガス人間』考察②に続く)

『ガス人間㐧1号』Data

『ガス人間㐧1号』(The Human Vapor)
1960年12月11日公開
東宝映画株式会社
上映時間 91分 カラー

監督 本多猪四郎
特技監督円谷英二
脚本 木村武
原作 『ガス人間』ジョン・メレディス・ルーカス(表記なし)
製作 田中友幸
音楽 宮内國郎
撮影(本編) 小泉一
撮影(特撮) 有川貞昌
編集 平一二

出演者
三橋達也、八千草薫、土屋嘉男、佐多契子、伊藤久哉
田島義文、小杉義夫、村上冬樹、左卜全、佐々木孝丸、
松村達雄ほか

▼『ガス人間』Netflixにて配信中。

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この記事を書いた人

SF、ファンタジー、ホラー、アニメなど“サブカルチャー系”映像世界とその周辺をこよなく愛し、それらを”文化”として昇華するため”の活動を関西で続けるFantastic Messenger夢人塔(むじんとう)の代表。1970年代より活動を開始。映画コレクター、自主映画、同人誌を経てプロライターへ。新聞・雑誌への掲載、映画会社の宣伝企画、DVDなどの協力、テレビ・ラジオの出演・製作、イベント・講演、専門学校講師、各種企画などグローバルな活動を続けている。
著書は『アニメ・特撮・SF・映画メディア読本』『ライトノベル作家のつくりかた』シリーズ、『アリス・イン・クラシックス』、『幻想映画ヒロイン大図鑑』他、青心社のクトゥルー・アンソロジーシリーズで短編を書く。雑誌「ナイト・アンド・クォータリー」「トーキング・ヘッズ」に連載。映画は『龍宮之使』、『新釈神鳴』、『ぐるぐるゴー』、『おまじない』などを企画製作。最近は「もののけ狂言(類)」と題して、新作の”幻想狂言”を発表している。また、阪急豊中で約半世紀の歴史を持つ治療家でもある。
夢人塔サイト http://mujintou.jp/

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