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『ゴジラxコング 新たなる帝国②』アメリカ大ヒットの要因

浅尾典彦(夢人塔代表・作家・治療家)

※一部ネタバレもあります。気になる方は映画をご覧になってからお読みください。

◎アメリカで大ヒット

 遂に日本でも公開になった『ゴジラ x コング 新たなる帝国』(Godzilla x Kong: The New Empire)。

 本作は、アメリカのワーナー・ブラザース&レジェンダリー・ピクチャーズが手がける「モンスター・ヴァース」シリーズの第5弾。

 公開3日間で北米興行予想値である4500~5500万ドルを大きく上回り収入8000万ドルを記録した。
 そして公開3週目まで首位を独占し、現在累計興収は1億5,802万1,255ドル(約237億円)。中国での興行が好調なことも追い風となり、世界興収は4億3,792万1,255ドル(約657億円)に達しているという。
 すでに成功だが、日本の成績はこれから。(『ゴジラ-1.0』は国内成績74.5億円・2024.4.21時点)

 何故、今アメリカで”怪獣映画”が大ヒットしているのか?
 幾つかの角度から検証してみよう。

◎『モンスター・ヴァース』とは?

 そもそも「モンスター・ヴァース」MonsterVerseとは、レジェンダリー・エンターテインメントが製作し、ワーナー・ブラザース・ピクチャーズが共同で製作・配給、ゴジラやコングなど認知度の高い大怪獣たちをキャラクターとしてストーリー展開する怪獣映画のシリーズである。

 第1作は、日本の『ゴジラ』シリーズのリブートである『GODZILLA ゴジラ』Godzilla(2014年)で、後に『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』Rogue One: A Star Wars Story(2016年)や『ザ・クリエイター/創造者』The Creator(2023年)を撮る、ギャレス・ジェームズ・エドワーズ監督の作品。

 次が1933年にアメリカ合衆国で公開され初期の怪獣映画の一つとして最も世界で知られるRKO製作・配給の『キングコング』King Kongのリブートである『キングコング:髑髏島の巨神』Kong: Skull Island(2017年)で撮ったのはジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督。

 続く『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』Godzilla: King of the Monsters(2019年)では『X-MEN2』などの脚本家としても有名なマイケル・ドハティ監督がメガホンを取っている。

 そして、アダム・ウィンガード監督による『ゴジラvsコング』(2021年)を経て、今回の『ゴジラ x コング 新たなる帝国』となるのである。

 このシリーズの生みの親の一人は、1971年に『ゴジラ対ヘドラ』の監督・脚本を担当した坂野義光

 坂野自身で企画したIMAX版の「ゴジラ3D」が、2014年ハリウッドで『GODZILLA ゴジラ』となり、エグゼクティブ・プロデューサーに就任する。
 2017年に新作映画『新ヘドラ』(仮)の構想中に亡くなってしまうのだが、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』では彼の業績をたたえ、エンドクレジットで献辞が掲げられた。

 「モンスター・ヴァース」は、夢をハリウッドで形にした坂野義光の思いがいっぱい詰まっているのだ。 

坂野監督自ら、ハリウッド版ゴジラとの関わりを語る貴重なインタビュー映像
(youtube『岩崎弘治のボーダレスコミュニケーションチャンネル』より)

◎歴史に育まれたキャラクター

 『ゴジラ x コング 新たなる帝国』の成功は、もちろん”コング”や”ゴジラ”という、どの世代にもすでに認知された有名キャラクターを採用しているという点が大きいといえる。

 キングコングの歴史は古く、1933年に公開した同名映画のキャラクターだ。
 監督のメリアン・C・クーパーによって創造され、ストップモーション・アニメーションの特撮技術を駆使したウィリス・オブライエンによって命が吹きこまれた。

 ストーリーは『美女と野獣』のコンセプトの応用で、相容れない片思いの異類婚姻譚(いるいこんいんたん※人間と獣など種族の違う生物同士の恋愛や結婚話)がベースなのだが、「モンスター・ヴァース」ではオリジナルでのコングの失恋ドラマを払拭し、少女ジアとの心の交流に置き換えたことでファミリー層へ広くアピールするのに成功している。

 また、シリーズを追うごとに、コングは人間らしい人格が追加されている。
 手話を覚えて会話するところも大いに共感するところだが、少女のみならず他の人間にも心を開けはじめ、今回は「モナーク」所属の獣医トラッパーに虫歯やけがの治療を依頼してきたり、パワーは強いが失敗もするドジなところや可愛らしさ、弱者への慈愛なども観客に見せる。

 立場も前回からは「モナーク」のスーパーマシンと一緒に地下に潜るなど、より人間側にスライドしており、恐怖の象徴から親近感が沸く”デカイおっさん”のようなイメージを打ち出している。

 かつて昭和中期に日本でもテレビ放送されたアメリカのヴィデオクラフト社と日本の東映動画が共同制作したアニメ版『キングコング』KINGKONG (1967年)のそれに近いと言えるだろう。

 一方、ゴジラの方も大いに大ヒットに貢献している。

 『キングコング』を作ったオブライエンの弟子であるレイ・ハリーハウゼンが特撮を担当した『原子怪獣現わる』The Beast from 20,000 Fathomsは、1953年に日本でも公開された。

 これを観て影響を受け大いに触発されたプロデューサーの田中友幸や本多猪四郎監督、特殊技術の円谷英二たちは、”水爆実験で蘇った怪獣が東京の街を破壊する”というコンセプトの元、怪獣映画『ゴジラ』Godzillaを制作し、東宝系で1954年に公開した。
 
 放射能を吐き、建物を破壊し尽くすゴジラは、”人類を恐怖に叩き落すシンボル”だった。
 映画『ゴジラ』は日本で大ヒットした後、アメリカに上映権を買われ、再編集して『怪獣王ゴジラ』Godzilla, King of the Monsters!( 1956年)として世界中で公開された。

 日本でもその後『ゴジラ』は次々と映画化され、昭和・平成・令和と永きに渡って愛され続けている映画のシリーズへと成長した。

 1980年代にはアメリカでもブームとなりテレビアニメ化やアメコミでの展開もあり、1998年にトライスター・ピクチャーズでローランド・エメリッヒ監督で『GODZILLA』Godzillaを映画化。
 2004年にはハリウッド大通りにある星形のネームプレート・ハリウッド・ウォーク・オブ・フェーム Hollywood Walk of Fameにゴジラの名前が刻まれた。

 ゴジラは名実ともにハリウッドスターに仲間入りしたのだ。
 そして、この「モンスター・ヴァース」シリーズに繋がるのである。

◎アカデミー賞効果

 アメリカでのヒット要因として、もちろん本年度(第96回)アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した山崎貴VFX・脚本・監督の『ゴジラ-1.0』GODZILLA MINUS ONE(2023年)の影響も大きい。

 1954年のオリジナル『ゴジラ』を継承した山崎版ゴジラは、またしても”絶対的な恐怖の存在”として無力な人間たちの前に立ちはだかる。

 アメリカで世界で異例のヒットとなった『ゴジラ-1.0』の興行の後を引き継ぐ形で公開された『ゴジラ x コング 新たなる帝国』。『ゴジラ-1.0』との表現の違いに興味がわくのは当然である。
 
 そして、ピンクに輝く本作のゴジラは、『ゴジラ-1.0』のそれとは全く違うベクトルを持つエンタテインメントに仕上がった。

◎日本の影響

 では、今回の作品で日本の『ゴジラ』シリーズの影響はなかったかというと、実はそうではない。

 前作『ゴジラvsコング』は、1962年のオリジナル『キングコング対ゴジラ』をリブートしつつスケールアップして観客を楽しませたが、『ゴジラ x コング 新たなる帝国』でも、1970年代に日本でよく言われた「怪獣プロレス」を地で行くバトルアクションを継承している。

 試写の後で懇意にしているメディア関係者と「テレビ番組のSASUKE(サスケ)みたいだったね」と話していた。エジプトや地下、果ては重力の無い空間などと場面がくるくる変わり縦横無尽な戦いを繰り広げる。戦いに工夫を凝らし立体的で派手さと展開の速さをもつ今回のモンスターバトルはゲーム世代にも心地いい仕上がりである。

 特筆すべきは宿敵ゴジラとコングの怪獣バトルさなか、仲裁役としてモスラが登場。『三大怪獣 地球最大の決戦』』や『怪獣総進撃』を彷彿とさせる怪獣会議をした結果、共闘を組ませることに成功する。

 アダム・ウィンガード監督も「その時代のゴジラ映画が好きだ」と公言していたが、まさに「東宝チャンピオン祭り」を復活させたような楽しさである。

◎設定の面白さ

 怪獣の魅力をより生かすために、設定にも新たな工夫がある。
 「モンスター・ヴァース」シリーズでは”地下空洞説”を取り入れ、地上を君臨するゴジラと地下世界の王コングという縄張りの住み分けを考えた。

 通常、怪獣と人間の構図では相対峙する軍隊を出すのだが、それとは別の存在として「特別研究機関モナーク」MONARCHを設定。
 「モナーク」はゴジラをはじめとする巨大生物(タイタン)の調査や研究を行うため、トルーマン大統領によって1946年に設立された秘密機関なのだそうだ。

 初期に確認されたコングの観察やフォローを重要視しており、前回では心臓マッサージ、今回は手負いのコング強化のために右腕に機械式のプロテクトアーマー「ビースト・グローブ」B.E.A.S.T. Gloveを装着させる。原始のパワーと人間の科学の合体だ。

 髑髏島の先住民イーウィス族の生き残り・少女ジアは、コングと手話で会話できる稀有な存在。
 今回は彼女の内面や出生の秘密、養母のアイリーン・アンドリューズとの関係性にもスポットが当てられる。

 地底の民の存在は、エドガー・ライス・バローズ原作の『時間に忘れられた人々』やその映画化である『続・恐竜の島』The People That Time Forgot(1977年)を思い起こさせる。

 また、昭和・平成ゴジラシリーズの特徴の一つとして名所をロケ地とする「ご当地ロケ」というコンセプトがあったが、今回もアメリカ、フランス、イタリア、エジプトなど世界一周旅行のような大規模な舞台移動を見せる、最後は地底の未開地にまで足を踏み入れるというのだからたまらない。

◎新キャラクターたち

 今回、コングと未知の敵との関係を繋ぐ役割を持つ子猿のスーコが新キャラクターとして登場する。

 子猿といってもコングとの比較であって、人間よりもはるかに大きい(昔のキングコング匹敵する)。
 コングの同族らしく、最初は敵のラスボスであるスカーキングの恐怖の支配下にあるが、コングと旅をするうち親子関係のような絆も生まれる。

 アダム監督は『コングの復讐』Son of Kong(1933年)に登場したコングの息子(愛称キコ)をイメージしてキャラづくりをしたと言っているが、コングがスーコを教育する場面や愛情を注ぐシーンは、親のコジラが子供のミニラを教育する姿になぞられ、1967年の映画『ゴジラの息子』を感じさせる。

 モスラは『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』以来の登場だが、今回は日本版を意識したような原住民の守り神のような存在。
 人間の味方であり怪獣たちの仲立ちをするのでニュートラルな立ち位置の神獣だと思われる。

 敵陣のラスボスはスカーキング。

 コングと同じ巨大霊長類だが巨大化ゴリラの印象のあるコングに対して、こちらはオランウータンのように手の長いと赤毛のフォルムを持つ。
 知能が高く、押しが強いいかにもワルのキャラクターだ。
 怪獣の背骨で作った「ウィップスラッシュ」Whipslash という鞭を武器にコングを追い詰めて力で支配しようとする。

 もう一匹忘れてならないのが、今回初めて登場した冷凍怪獣シーモだ。地底怪獣でもある。
 地底怪獣といえば東宝のバラゴン、冷凍怪獣といえば大映のバルゴンがなじみであるが、シーモはその二匹を合わせたような特大サイズ。
 スカーキングの乗り物として飼られていて、口から冷凍光線を吐き出し、共闘するコングとゴジラを苦しめる。

 重力が破壊された世界で戦う4匹の巨大怪獣たち。戦闘の火ぶたは切って落とされた!
 迫力あるバトルを是非、劇場で一緒に体験してほしい。

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この記事を書いた人

SF、ファンタジー、ホラー、アニメなど“サブカルチャー系”映像世界とその周辺をこよなく愛し、それらを”文化”として昇華するため”の活動を関西で続けるFantastic Messenger夢人塔(むじんとう)の代表。1970年代より活動を開始。映画コレクター、自主映画、同人誌を経てプロライターへ。新聞・雑誌への掲載、映画会社の宣伝企画、DVDなどの協力、テレビ・ラジオの出演・製作、イベント・講演、専門学校講師、各種企画などグローバルな活動を続けている。
著書は『アニメ・特撮・SF・映画メディア読本』『ライトノベル作家のつくりかた』シリーズ、『アリス・イン・クラシックス』、『幻想映画ヒロイン大図鑑』他、青心社のクトゥルー・アンソロジーシリーズで短編を書く。雑誌「ナイト・アンド・クォータリー」「トーキング・ヘッズ」に連載。映画は『龍宮之使』、『新釈神鳴』、『ぐるぐるゴー』、『おまじない』などを企画製作。最近は「もののけ狂言(類)」と題して、新作の”幻想狂言”を発表している。また、阪急豊中で約半世紀の歴史を持つ治療家でもある。
夢人塔サイト http://mujintou.jp/

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