TXT/山本紗由(ヴァイオリニスト、youtuber)
●『ゴジばん』とは?
こんにちわ。
ミニチュア怪獣特撮と80年代のロボットアニメが大好きなヴァイオリニスト・山本紗由です。
突然ですが、みなさんは『ゴジばん』の事、ご存じでしょうか?
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「ゴジばん」とは「GEMSTONE」クリエーターズオーディションの第一回目の入賞者である人形劇団「アトリエこがねむし」さんと東宝がタッグを組みゴジラのYoutube公式チャンネル内で無料配信されている怪獣人形劇です。
前回、ジェットジャガーへの熱い思いを胸に「ゴジラ・フェス大阪」のレポートを書かせて頂きましたが、その「ゴジラ・フェス大阪」のサテライト会場であるウメキタフロアに展示されていたモスラとビオランテの立体展示。それが正に「ゴジばん」の実際に動画で使用されている人形だったのです。
そのビオランテの姿を遠目に見た時、わたしは最初すっかり「ゴジラVSビオランテ」の実際の造形物の展示なのかと勘違いしてしまいました。それほどまでに、そのビオランテは巨大だったのです。「人形劇」というとパペットのように手にはめて動かすサイズ感を皆様想像するかと思うのですが…。
この大きさ…ちょっと「人形劇」という範囲を逸脱しているような…。
大きさもさることながら、足元にマタンゴ的な生物がいたり、カマタ君やヘドラ的な存在もいたりして…。すっかり興味を惹かれた私は帰宅してすぐに「ゴジばん」を検索。Xで「ゴジばん」の産みの親であるアトリエこがねむしさんのアカウントを探し出しました。そこにポストされていたビオランテの勇姿。
これは…!!??
これはもう…人形劇というか特撮なのでは!?
あまりの衝撃に私は完全にハマってしまいました。YouTubeに公開されている100本近い動画を視聴し、DVDやゴジばん図鑑にまで手を伸ばす始末。知れば知るほどアトリエこがねむしのこばやん監督こと小林さんの深い特撮愛と狂気じみたこだわりとセンスに畏敬の念を抱かずにはいられません。
折角なので今回のコラムでは私が感じたゴジばんの魅力を4つのセクションに分けて紹介したいと思います。
ゴジばんのメインターゲットは恐らく子供たちで。子供が観て大満足の楽しさ、魅力あふれる作品ゴジばん。しかし、お子様のみならず私のようなアナログ特撮好き、そして往年のゴジラファン、東宝特撮ファンにも刺さる部分が滅茶苦茶多いのです。
そんなゴジばんの魅力を少しでもお伝えしたいと思います。
①「ゴジばん:特撮の魅力」
まずは何といっても、途方もない手間を惜しみなく使われている特撮の魅力です。
ゴジばんがどのような手順で作られているかは、ゴジばんの公式サイトにて拝見することが出来ます。
最初に粘土原型を作り、パペットを制作し、人形劇のシーンをグリーンバックで撮影し、そこに背景をひとつずつ合成し、編集し、音を入れ、セリフを入れ完成するそうです。もうそれだけで気が遠くなるような労力なのですが、その中でもビオランテの撮影は凄まじいものを感じます。
そもそも造形の時点で…
全部おひとりで作ったんですか…!!??
人間やろうと思えば何でも出来るとは言いますが。
ビオランテの動きは操演&中に2人の人間が入って動かしているそうで、その凄まじさを下記動画で見ることが出来ます。
うーん。凄すぎる。
ビオランテ以外にもこばやん監督は観ているこちらがうぬぬと唸ってしまうような素晴らしい特撮シーンを色々と撮影されています。
例えば雪…
動画を拝見している時、ずっと不思議だったのです。だってどう見ても雪の中で撮影しているんですもの。まさか雪国の野外で撮影を!?などと色々と想像を膨らましていたのですが。
大量の人工雪だそうです。
それはそれで凄すぎるお話ですが。
更に「モスラ対ゴジラ」の地中&「キングコング対ゴジラ」の氷山からゴジラが出てくるシーンの再現!
これも凄いですよね。
どちらも凄い特撮なのに1話の中に納めてしまうのも凄い。
「モスゴジ」「キンゴジ」の名称が設定の中に無理なくスルリと入り込んでいるのも良いのです。
「キングギドラVSメカキングギドラ」という操演の事を想像しただけで泡を吹きそうな撮影も…
兎に角、思いついたとしてもその労力を考えたら及び腰になってしまいそうなシーンがこれでもかという勢いで襲ってきます。
新作のゴジラもウルトラマンもCGで撮影されている昨今。
決してCG作品が悪いわけではないのですが、アナログ特撮ファンとしては空想の生物や世界をその手で作り出し、動かし、時には破壊する。そうした労力の上に素晴らしい数々のシーンが作り上げられ、ひとつの作品となっていく事にこの上ないロマンを感じます。
アトリエこがねむしさんはこのCG全盛の時代にアナログ特撮を続けていらっしゃる!
しかもその作品がYoutubeで無料で観られてしまうのです。これはもう凄い事です。
②「ゴジばん:キャラクターの魅力」
続いてはなんと言ってもキャラクターの魅力です。
原作映画へのリスペクトを大切にしつつもそれぞれの怪獣たちが新たなキャラクターとして成立しているその匙加減が凄く良いのです。
例えばゴジばんのコーナーのひとつ、「もしモス」は双子のモスラの幼虫とその双子の巫女ルネ&ルナ。そしてバトラの幼虫とその巫女ルルベラが登場する物語。
巫女ルルベラのモチーフは恐らく平成モスラシリーズに登場するベルベラだと思いますが、本来ベルベラはバトラの巫女ではないのです。バトラは「平成モスラシリーズ」ではなく「ゴジラVSモスラ」の登場キャラクターなのでバトラの巫女という存在は完全にゴジばんのオリジナルなのですが、これがなんというか、滅茶苦茶しっくりくるのです。
というか、VSシリーズのバトラにむしろなんで巫女がいなかったのかと不思議になってしまうレベル。
一応設定上地球の守護者であることに変わりはないのだから、バトラの巫女が居たって良いし、むしろルルベラは適任すぎるほど適任。元の設定の活かし方といいお見事です!
その他にもシン・ゴジラのカマタ君をモチーフとした「かまち」はゴジラくんの親戚の子供として登場します。
うっかり人間界に迷い込んでしまい、人にかまって欲しくて「カマッテ…カマッテ…」とか細い声で鳴いているのです。と、文字で書くと「あら、可愛らしい」と思ってしまうと思いますが是非動画を見て欲しい。
原作映画「シン・ゴジラ」におけるカマタ君の絶妙な気持ち悪さから1ミリも逃げていない….!むしろカマタ君の持つ気持ち悪いけど何考えてるか分からない表情がなんだかちよっと可愛い…かな?という塩梅のまま、かまちの物語は進んで行きます。
そして、かまちの父親は勿論シン・ゴジラなのです。ゴジラ君の親戚のおじさん、人呼んで「シン・オジ」。此方のシン・オジもシン・ゴジラの持つ禍々しさを一切妥協しないビジュアルで登場。無口で優しいおじさんという設定ですが、もう見た目のインパクトが凄過ぎて出て来ただけで爆笑必至。
ゴジラシリーズにおいてシン・ゴジラのビジュアルが異質であるところを活かし切った演出と存在感。あまりに見事です。
③「ゴジばん:散りばめられた小ネタの魅力」
小ネタというのは分かる人だけがフフフと笑い、分からない人がスルーしても物語を楽しむことになんの支障もないのが理想だと思います。そんな小ネタの散りばめ方もゴジばんは絶妙なのです。
例えばゴジラ君の「この赤い竹!なかなか良いしなり具合だ!!」は正にそんなセリフの1つ。
「赤イ竹」は『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』に登場する秘密結社の名前。ゴジラ君が「赤い竹」と言っただけで一部の層だけがニヤリと口元が緩んでしまう。しかもこの「赤い竹」劇中に何度となく登場するので画面に「赤い竹」が映っているだけで観ている此方はなんだか面白い気分になってしまうのです
「GO!GO!ゴジラ君」はゴジラ君、ミニラ、リトルの3兄弟が立派な怪獣を目指してありとあらゆる特訓をするコーナーですが、その中でドロップキックを練習する回があったり…
そして、その特訓したドロップキックをこの上ない最高の形で回収する回があったり…
ちゃんとメガロをジェットジャガーが押さえた上でのゴジラのドロップキック!ゴジラ作品としてこれ以上正確なドロップキックがあるでしょうか。
同じくGO!GO!ゴジラ君の「飛べ!ゴジラ君の巻」にてゴジラ君の「僕たちゴジラ一族は飛べないよ!」の一言にすかさずヘドラのヘドじぃが「飛べる…ゴジラは…飛べる!」と言うのも最高!
賛否両論あるゴジラの放射火炎飛翔を拝める唯一の作品が「ゴジラ対ヘドラ」。「ゴジラは飛べる」の一言をヘドじぃが言う説得力たるや…!
更に更に、ゴジラ君と大親友のアンギラスは言葉ではなく吹き出しで会話をしてしまったり…。
「OK!」を入れてくるところがまた心憎い
このように知らなくても楽しいシーンとして成立しているのですが、元作品を知っていると堪らない面白さがゴジばんには溢れています。マニアックな小ネタを誰かと語り合いたい!そんな気持ちにさせてくれるのはこばやん監督のゴジラ作品、東宝特撮作品に対する愛の深さ故。ゴジばんを見た後に、つい元作品を見直しオマージュの深さを感じ、更に元作品の素晴らしさにも感じ入る。ここにゴジばんとゴジラ映画の幸せな無限ループが完成してしまうのです。
④「ゴジばん:心に突き刺さるセリフの魅力」
「へどじぃ」はヘドラの子供・ヘドちとヘドラのおじいさん・ヘドじぃが旅をするコーナー。ヘドちのふとした疑問にヘドじぃが答える形で物語が進んで行きます。その第一回目のへどちの質問がこちら…
あまりにも!あまりにも質問が重すぎる!!!
またこのヘドちの見た目と声が可愛すぎるのもいたいけさに拍車をかけます。
原作映画のヘドラは工場から出る排気ガスを吸い込みごきげんになっていましたが、その複雑な出自を考えると小さなヘドラの子供がそんな疑問を持ったとしてもおかしく無いのかもしれません。
この質問に対するヘドじぃの返答がこれまた素晴らしいものがあったので是非多くの人に実際に動画を見て頂きたい。
ヘドじぃのコーナーは他にも
「 この闇のような世の中、一体何に向かって進めば良いの?」
というこれまた恐ろしく重い質問や、
「どうして人間同士で醜い争いばかりするの? 」
などの大人でも考え込んでしまうような質問をヘドちが投げかけてきます。
ヘドじぃの返答が毎回素晴らしいので是非実際にご覧頂きたい。
特に「どうして人間同士で醜い争いばかりするの? 」に対する答えは、怪獣映画ファンとしてはそっと胸に手を当てて考え込んでしまう重みを持っています。
余談ですが、私は「ゴジラ・フェス大阪」のウメキタフロアの展示最終日にもう一度目に焼き付けておこうと再度展示会場を訪れ、幸運にもこばやん監督ご本人にお会いすることが出来ました。その際にヘドちのお人形を触らせて頂いたのですが、まぁフワッフワで可愛らしいこと!!
他の造形物にも触らせて頂いたのですが全て想像よりも軽く柔らかでとても驚きました。
良く考えれば動かすための人形なのですから軽く作られているのは当然なのですが、観ていると「生き物」として感じてしまうのでそれなりの重量があるように想像してしまいます。正に映像の魔法を実感しました。
ヘドちだけではなくゴジラ三兄弟の末っ子リトルも此方がドキリとしてしまう鋭い一言を放つ存在です。
ゴジラシリーズでは「ゴジラVSスペースゴジラ」に登場するリトルゴジラ。ベビーゴジラから成長したと考えるとあまりにも可愛らしすぎるそのデザインに本編では若干の戸惑いを覚えましたが、ゴジばんではその可愛らしい外見をリトル自身がフルに生かしきりたくましい存在となっています。
そんなリトル。色々な名台詞、名突っ込みが沢山あるのですが、その中でも私のお気に入りの一言は GO!GO!ゴジラくん特別編「夢を写し撮れ!」内のリトルの台詞。この回はゴジラ三兄弟達が映画の主役を立派にこなす為に自ら映画を撮影しようというお話なのですが…
「映画を知るには作るのが一番と言うことだね!観ているだけじゃ本質は分からないもん!」
という余りにも真理すぎる一言をリトルが言い放ちます。
ゴジばんは監督、脚本、造形、編集、音楽を全てこばやん監督がやられている訳ですがリトルのお声を当てていらっしゃるのが何とこばやん監督ご本人。何と言うか、セリフの重みが凄い。映画や作品を観ているだけの私は、まだまだ本質から遠いところにいるのだな…と反省しつつも、ただ純粋に楽しませて頂けている立場に感謝してしまったりして。素晴らしい映像作品を作り出して下さるクリエイターの皆様には本当に日々感謝と尊敬の念を抱いております。
●さあ『ゴジばん』の世界へ!
という訳で、4つのパートに分けてゴジばんの魅力を語ってみましたが如何だったでしょうか。少し興味はわいたけれど…今から100話近くを履修するのは…と及び腰の方には朗報です!なんと今年の5月から各種サブスクサービスでゴジばんの配信がスタート致しました。
YouTubeで配信された動画を新構成で20話にまとめて下さっています。
私も早速拝見しましたが、それぞれのエピソードの時系列がより分かりやすくまとめられておりとても観やすくなっております。
勿論、100話という膨大な量のエピソードを20話にまとめている訳なので入っていないエピソードも大量に有ります。
サブスクでとりあえず20話を視聴し、これはハマると思ったならばYoutubeで是非100話の沼の中に飛び込んで頂けたらと思います。
サブスクに入っていなかった私の特にお気に入りの一本は此方。
双子モスラがインファント島の踊りの練習をするお話なのですが….
ノリが良すぎて、物凄い中毒性があります。
又、アトリエこがねむしさんのYoutubeチャンネルも有り、そちらではオリジナルの人形劇を楽しむことも出来ます。
この作品が本当に素晴らしくて。
音楽劇なのですがセリフが一切なく、音楽と虫の声だけで物語が進行するんです。それでいて、観ていてとても楽しい。観ている子供達が大盛り上がりなのも何だか幸せな気持ちになってしまいます。
そして、この動画を観て衝撃を受けたのですが。
こばやん監督 ヴァイオリンが弾けるんですね…!
Xでやりとりさせて頂いたところによると、なんと独学で習得されたとか。
ヴァイオリニストの私が言うのも変な話なのですが、ヴァイオリンは楽器の中でもかなり難しい部類に入ります。未経験者の方は音を出すだけでも相当な苦労をする筈。そんな楽器を独学で….!?
もはや尊敬を通り越してこばやん監督のポテンシャルに恐怖すら覚えてしまいます。
ゴジばんは2024年6月18日に公開された動画で遂に100回目の配信を記録されたとのこと。
おめでとうございます!
これからも人形劇で新たなる特撮世界を描き続けてほしいと願っております。
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